じゃじゃ馬にさせないで! | ナノ


シャルロットが消えた





【しかし相当なダメージ!立てるか、早乙女乱馬!】


壁に叩きつけられた乱馬は痛々しい傷を作り、静かに倒れ込んでいる。(そんな…まさか、乱馬が死んじゃう…?)あたしはそんな嫌な考えが頭に過ぎると、零れそうになる涙をこらえながら、必死に乱馬に呼び掛ける。

『乱馬!しっかりして!っ馬鹿で見栄っ張りなんだから…喧嘩売られたからって、ただの居候仲間を庇ってこうまでしなくたって……!』
「……」
『っ乱馬の大馬鹿ヤロー!!』

「あのなっ!ありがとうとかごめんなさいとか言えねーのかっ!」

こらえていた涙は既に止められない程に溢れ出し頬を伝い流れ落ち始めていた。それが更に感情を高ぶらせてしまい、乱馬の胸に顔を埋め泣き叫んでいると、突如バランスを崩してしまった。

『…あたしを騙したの?』
「誰が大馬鹿だ!誰が!」

何事かと乱馬を見れば、勢いよく上半身を起こしあたしを睨んでいる。それを見たあたしは頑丈な乱馬の事だから、あたしを少し脅かしてやろうと死んだフリをしていたのかも知れないと疑心暗鬼に襲われ、流していた涙をぴたっと止め、今度は怒りを溢れさせる。だが、乱馬も乱馬であたしの発した言葉に怒りを見せお互いに睨み合う。

『何よ、心配したんだから』
「けっ、あんな事くらいで参る俺じゃ…」


びしっばきっぼきっべきっ


『…ねえ、なに今の音…』
「……」
『ねえ乱馬…』

心配して損した、と濡れた頬を手で拭えば、乱馬は軽快に倒れ込んだ体を立ち上がらせた。だが、スタッと軽やかにリンクに足をついたかと思えば突然乱馬の体から、今までに聞いた事のない程に何かが折れる音が幾つも聞こえてきた。その音にあたしがサッと血の気を引かせながら乱馬に言葉を掛けるが、返事がない。そっと顔を覗けば、乱馬は大量の涙を零しながら、その場から動けずに立ち尽くしていた。(…絶対体中の骨が折れた音だ)(これもう勝負にならないんじゃ…)


「ふっ…立ったか」

一部始終を見ていた三千院帝はあたし達の会話までは聞こえていなかったのか、立ち上がった乱馬に嘆声を漏らし笑った。

『いやあの、立つには立ちましたが…』
「ふん…!しょう、ぶはこ、れから、だ、ぜ」

感心する三千院帝にあたしが説明しようと口を開けば乱馬に遮られ、何とも情けない声を出しながらも再び体制を整え出した。(絶対無理じゃん…)だが、それを見た実況者もこれは凄い、と声を漏らし試合を再開させるべく口を開き始めた。

【さあ、試合再開!ペットのブタをめぐってのシャルロット杯、栄光(ブタ)はどちらに!?】

『(あ…そう言えば、良牙くんめぐっての試合だったんだっけ)』

すっかり勝負の目的を忘れていたあたしが思い出した様にそんな事を考えていれば、【あ?あれ?】と実況者の素っ頓狂な声が耳に届いた。
何だ何だ、と実況者を見遣れば、優勝杯へと目を向け唖然としている。その視線を追えば、そこには賞品であるシャルロット、否良牙くんが繋がれたら鎖から抜け出し消えてしまっていた。

「っシャルロットが消えた…?」

(…あれ、そう言えばこの試合って確か)その事にいち早く反応した白鳥あずさを余所に、あたしは先程のメリーゴーランドに続き、ある事を思い出した。(確か、この試合に良牙くんも参戦するんだっけ!あーそうだそうだっあかねと出たいって魂胆で…って、あかねの代わりにあたしが出てるんだから今回は流石に出ないか…。いや、でも何だかんだで今まで原作にある程度忠実に進んできてたし、良牙くんはこの試合に自分の運命がかかってるんだから、そう言う気持ちで結局出るのかも知れない)
皆がシャルロットはどこだ、とざわめいている中、あたしはこの先の展開を思い出しつつもどうなるのか、と悩んでいた。その隣でふと、未だ体中から骨が折れる音を鳴らす乱馬に思わずため息をついてしまう。

『乱馬、流石にその身体じゃ無理だよ』
「へっ大した事ねーよっ!あのスケベ野郎、叩きのめしてやるっ!」
「なるほど。やはりあの衝撃には耐えられず手負いだったか。だが、僕としても棄権してもらっちゃ困る!」

あたし達の会話を聞いていた三千院帝はようやく乱馬の身体の容態を理解するが、何故か試合を辞めさせるつもりがなかった。そして再び、あたし達へと滑り向かってきた。

「約束どおり、みょうじなまえの唇を奪うまではねっ!」
『!どっどういう信念で闘ってんのあいつ…!』

そして吐き捨てられた三千院帝の言葉にあたしは一気に鳥肌を立てると、よろよろと立つ事で精一杯の乱馬の背後へ思わず隠れた。


はしっびたーん!


「シャルロットがいなくなったー!!」

だが、三千院帝はこちらに滑り出すや否や、シャルロットが消えた事により酷く動揺していた白鳥あずさに足首を掴まれ、それにより勢いよく前へと倒れこみ、リンクへ顔を思い切り叩きつけた。(うわあ、痛そう…)





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