五百十八発
「も〜だらしないんだから」
あれから、天道家へと帰るとあたしは乱馬の手当をし、あかねをそれを横目で見ながら言葉を言い放った。そんなあかねにあたしも便乗する。
『五百十八発も突かなきゃ勝てなかったの?』
「五百十八発って…なまえ数えてたの?」
『まーね』
「うるせー。…俺にあんな事した野郎を一発で楽にしてたまるか」
「あんな事って…一体何があったの?」
「なになに〜?」
「『……』」
「べ、別に…」
乱馬の言葉に同様に部屋にいたかすみさんとなびきさんが反応すると、あたしとあかねと乱馬の空気が一気に気まずくなってしまう。
「全くみっともねえな、乱馬」
その時、乱馬の背後から聞き覚えのある声が聞こえてきたと顔を向ければそこには先程とは打って変わって人間の姿の良牙くんがいた。
「良牙くん…」
『(いつの間にお風呂入ったんだろ)』
「俺ならあんな間抜けな目に合わねえぜ」
「っやかましい!俺だってスケート靴さえ履いてなけりゃあんな奴にっ…!」
「キスされなかったのにってか?」
「!」
『(ありゃ。言っちゃった)』
良牙くんの挑発的な言葉に乱馬が思わず乗ってしまうと一番痛いところを突かれてしまい乱馬は黙り込んでしまった。
「へえ〜そお!乱馬くんキスされたの〜!」
「へえ〜誰と誰と?」
「……」
勿論、なびきさんとかすみさんは良牙くんの言葉を聞き流す事なく相手は誰だと追及すると乱馬は余計に縮こまってしまった。黙り込む乱馬に良牙くんはニッと笑うと肩にぽん、と手を置いた。
「ま、相手が色男だった事がせめてもの救いだなっ!」
「ってめえ!!」
いとも簡単に相手をバラされた乱馬に同情しつつも、思わず心の中で笑ってしまった。そしてわざわざ傷を抉られてしまった乱馬はなびきさんとかすみさんの痛い視線に固まってしまっていた。
「…そんなに気にする事ないのに」
「男が相手じゃ数のうちに入らないわよ」
『でももしファーストキスだったらどーします?』
「うわーそれなら悲惨ね」
「まさか。そんな事ないわよねえ?乱馬くん」
「……」
『(…あり?まじだっけ)』
あたしが何気なく発した言葉になびきさんとかすみさんが笑い、乱馬へと顔を向けると乱馬はあたし達に背を向け黙り込んだままわなわなと震え出し勢いよく走り去ってしまった。
『あら…どっか行っちゃった』
「どうやら図星だったんじゃない?」
「乱馬くん、相当落ち込んでるみたいね」
「なまえのせいよ」
『え、何で!?』
「あんたがファーストキスだったらとか言うから」
『あ、あれは冗談で…』
「本当だったんだから冗談で済まないんじゃない?」
『う……』