どこまでも卑怯な女
朝食を食べ終え、あたし達は聖ヘベレケ女学院へとやってきた。
控室へと向かう途中、小太刀にばったりと出会い、選手の変更を伝える事になった。
「選手の変更?」
「そ。あたし怪我しちゃって…この子が代わりに」
そう言ってあかねが乱馬を紹介すると小太刀はあら、と声を漏らした。
「おさげのあなた、以前一度お会いしましたね。お互いベストを尽くしましょう」
ニコッと笑った小太刀は握手を求めた。
「ちょっと待って」
『…それは何?』
だが、握手を求めた手をあたしとあかねは寸前に止め、手のひらへ視線を向けた。
「まあっ。何故指の間に画鋲が…」
『…あんたね』
シラを切る小太刀に呆れながらも、あたし達は構わず控室へと向かった。
「ん?黒バラの花束が…」
控室へと入ると、ふと机にある黒バラの花束に気がつき、あかねは間を置けばそれを一輪手に取り、側にあった水槽へと落とす。すると水槽を泳ぐ金魚があっという間に動かしていたヒレを止めたかと思えば、ぷかぷかと浮かび始めた。
『こ、これは…』
「眠り薬…」
『どうしても戦わずに勝ちたい訳ね…乱馬。その花束くれぐれも嗅がないよう…』
あたしとあかねは呆れながらも花を嗅がないように、と乱馬へ注意深く言い振り向いた。
『あ゛』
「え?」
すると、乱馬は既に目を閉じ小さな寝息を立てて眠っていた。
「そんな…!花に触れてもないのに…!」
『…徹夜のせいでしょうよ』
「あ」
もうすぐ試合だと言うのに、ぐっすりと眠っている乱馬にあたし達はどうしよう、と顔を見合わせる。
『この様子じゃ暫く起きないだろうし…』
「…まあ、徹夜してた時点から不安はあった訳だし、こうなったら最終手段ね…」
『最終手段…?』
あかねは深刻な顔であたしへと近付いてきた。
『…まさか……あかねちゃん…?』