あかねは不器用
「なーんて安請け合いしておめー道具使えんの?」
その日の夜。
早速あかねは新体操の練習をしようと道場へ向かったのを、あたしと乱馬も見ようとついていき、準備を始めたあかねへ乱馬が軽んじるように言葉を発した。
「まー見てらっしゃい」
「ふごっ」
「ん?」
「あら?」
『この声は…』
そんな乱馬をあかねは軽く流し練習を始めようとしたその時、道場の入り口から聞き覚えのある可愛らしい鳴き声が聞こえてきた。
「(良牙…)」
「まーどこ行ってたの。心配してたのよ」
『っPちゃんっ!!』
「Pちゃん!?」
あたしとあかねは響良牙、もといPちゃんの側へ寄ると乱馬が驚いたような声を出した。(ま、あの響良牙がPちゃんて呼ばれてたらそりゃ驚く)
「ピッグのPちゃん。なまえが付けてくれたのよ」
「はー」
『可愛いでしょ?(もうちょっと捻りたかったけど…原作通りにしないと後が怖いからね)』
「さ、ここで大人しくしててね」
あかねは抱えていたPちゃんを下ろすと乱馬に「いじめちゃ駄目よ」と念を押し練習を始めた。乱馬は隣に座った響良牙の方へ頭を向け寝転がるとこそこそと小さな声で耳打ちをする。(あたしも正体知らないフリしなくちゃいけないんだよなあ)あたしはそんな二人に気付かないフリをしてあかねの練習を見ていた。だが、乱馬と響良牙が大人しくしているはずもなく響良牙が乱馬へ噛み付くとやり返そうと手を出した乱馬の後ろからあかねの持っていたクラブが頭をヒットした。
「いじめないでって言ってるでしょっ!」
『おーお見事』
「感心してる場合かっ!」
「さ、いくわよ!」
気を取り直し、あかねはクラブを持ち構えた。そして勢いよく飛び上がりクラブを宙へ投げると、そのままクラブは遠くへ落ち、あかねは着地した。
「…受け取らねーとマズイんじゃねーか?」
「わかってるわよっ」
『え?相手に当てる為にわざとじゃないの?』
「…なまえ、さりげなく馬鹿にしてるぞ」
『え?なんで?』
どうやら今のは失敗だったらしく、あかねは気にしない素振りで今度はリボンを手に取った。華麗に振り回そうと手首を回転させる。…が。
「絡まるとマズイんじゃねーか?」
「うるさいわねっ」
『え?相手に巻き付ける練習で自分にわざと絡ませたんじゃないの?』
「…なまえのが俺より酷いぞ」
『え?なんで?』
「っ今度こそ…」
絡まったリボンを解くと今度はフープを投げ、宙で受け取ると着地すると同時に前転をして輪をくぐろうとした。
ばきっ!
「フープが割れるとマズイんじゃねーか?」
『…はっ。あかねってば不器用(だった)…』
「今気づいたのかよ」
「っだ〜っ!もう嫌〜っ!!」
ハッと、あたしはあかねが不器用だった事を思い出す。するとあかねは己の不器用さに喚き地団駄を踏み始めた。(おお…荒れてらっしゃる…)
「優雅のカケラさもねーのが、新体操じゃ一番マズイと思うけどな」
『…確かに』