僕と海外研修
僕の仕事は調香師、流行と年代に合わせた香水を作ることに日々努力を重ねている。
だからこそ色々と勉強をしなければいけないわけで、僕は2週間の海外研修へと出かけることになった。
海外研修のことを居候してるタケさんに話したら物凄く反対された。(タケさんって言うのはある日突然僕の家に居候し始めた自称スナイパーだ。初対面で銃を突き付けられたことは絶対に忘れられない。)
「ちょっと待てよヒナちゃん!ヒナちゃんがいなかったら俺2週間どうやって生きてきゃいいんだよ!」
「何度も言うようですが僕はヒナちゃんでは無くてヒナです。タケさんもいい大人なんですから身の回りのことくらいきちんと出来るでしょう?頑張ってください。」
居候の一意見で研修を断る訳にもいかなかったし僕はそのまま海外研修へと出かけた。
玄関越しに聞こえた情けない声は今思い出しても笑える。(録音しとけばよかったな)
…まあ、そんなこともあったけど海外研修は無事終わりを告げた。(でも予想通り最初からMr.鴻上と呼ばれることは数回しかなかった)
「ただいま…。」
玄関を開けたら中は真っ暗だった。
耳を澄ませても物音は何も聞こえず、僕は首を捻る。
今は午後4時、寝る時間には早過ぎる。
一体どうしたものかと不思議に思いながらリビングの電気をつけた。
「!!」
明るくなった視界に飛び込んで来たのは俯せに倒れるタケさんの姿。
タケさんの周りには買い置きしておいたコーンフレークの袋と箱が散らばっている。
予想もしなかった光景を見て僕は驚けばいいのか怒ればいいのかわからなくなってしまった。
と…とりあえずタケさんを起こそう。
僕は恐る恐る歩み寄るとタケさんに声を掛けた。
「タ…タケさん?」
「…。」
「タケさん、起きてくださいよタケさーん!」
「う…。」
身を捩りながら苦しそうな声を上げ、タケさんは起き上がった。(あれ、少し痩せた気がするけど気のせいかな?)
今のタケさんの顔にはいつもの不敵な笑みは無い。
なんて言うか…今にも倒れそうだ。
もしかして、僕は脳内にはある考えが浮かんだ。
「…この2週間そのコーンフレーク1箱で生活してたんですか?」
「…。」
やっぱりそうだったか!
もはや話す気力も無いのかタケさんは力無く頷いた。
改めて思ったけどこの人生活能力が無さ過ぎる。(初めて会った時も玄関の真ん前で行き倒れてたし)
今は呆れるよりもタケさんに食料を与えることを最優先にしよう。
…僕、疲れてるのにな。
虚ろな目で空を見つめるタケさんを一瞥すると僕は料理を作るべくキッチンに向かった。
END
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