僕とダイエット
「良いですか、幾らかは日持ちしそうなものを作りましたがもしもの時は火の元に気をつけて何か作ってくださいね。」
「おう!」
「買い出しに行く場合は戸締まりをきちんとすること。」
「おう!」
「どうしても無理そうだったらチサトさんやショウゴさんを頼ってください。」
「おう!」
「あとおやつは一日一食ですからね。」
「えっ!?」
僕の勤める企業ではもうすぐMUSIC & PERFUMEと言う企画が始動する。
アーティストとコラボし、音楽の雰囲気を香りとして表現しようと言うのだ。
その企画において僕は関西を拠点とするアーティストと香水を作ることになったため、一月ほど向こうに行くことになった。
そこで生じる問題はタケさんの食事、前回の反省を生かして今回は日持ちする食事を作ったりした訳だけど…
「どうしてこうなったんですか。」
僕は目の前の人物を睨みつける。
ダークレッドの短髪、べっこう色のサングラス、そして…ゆとりの少なくなったアロハシャツ。
目の前の人物ことタケさんは一月前よりも確実に太っていた。
「ヒ、ヒナちゃ…」
「タケさん、バランスの取れた食事を適量採っていればこうはならないはずですよ。」
びくり、と肩を揺らしちらりと僕を見遣るタケさん。
いつもなら良い大人がそんなことするなと言うところだが今の彼にはマスコットのような愛嬌があった。(ただ少しぷにっとしただけなのに何故だろうか)
これじゃあタケロウさんというかプニロウさんだ。
「ヒ、ヒナちゃん。俺さ、」
「…。」
「どうせ食べるなら好きなもんを食って過ごそうと思ったんだよ。そしたらなんと不思議なことに、」
「どこの世界に揚げパンとクリームあんみつを主食にする人間がいるんですか!」
「ここにいる!」
「黙らっしゃい!」
全く、なんて人なんだ。
さっき一度でも愛嬌があるだのマスコットみたいだのと思った僕が馬鹿だった。
僕は彼をぎろりと睨むと静かに言い放つ。
「ダイエット、始めましょうか。」
タケさんの顔がサァッと青ざめたが構うものか。
僕は脱プニロウさん計画を立てるために自室へと引っ込んだ。
END
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