僕とお手伝い
「ヒナちゃんせんせー!!」
きゃっきゃとはしゃぐ子供達の声が響き渡る。
周りをくるくると走り回る子供の頭を一撫ですると僕は辺りを見回した。
僕は今、たいよう幼稚園にいる。
「ねぇヒナ、悪いけど明日幼稚園の仕事を手伝いなさい。」
事の発端は昨日の夜の電話、たいよう幼稚園の幼稚園教諭として働いている僕の姉の鴻上ツカサの言葉だった。(悪いけどとか言いつつ命令形って本当は悪いと思ってないでしょ)
姉さんが言うには教諭が二人ほど風邪で寝込んでしまって人手が足りないらしい。
だけど僕だって働いている身だ、平日の明日(今となってはもう今日)はしっかりと仕事が入っている。
そのことを言って断ろうとしたのだが姉さんは言い出したら意地でも自分の意見を曲げない。
仮にこちらが抵抗したとしても得意の毒舌でバッサリと斬り捨ててしまう。
結局断ることが出来ず引き受けてしまった。(僕…慣れないこと引き受けちゃって翌日大丈夫かな?)
「…でもさ、二人休んじゃったのに僕一人で補えるの?」
「ああ、そのことなら大丈夫よ。明日はタケロウ君と一緒に来てね。」
…へ?
ち
ょっと待て今姉さんなんて言った?
気のせいだよね、嫌な名前が聞こえたのは気のせいだよね。
念のためフルネームを尋ねてみたけどやっぱりあの人だった。(今一緒に住んでる榎本タケロウ君に決まってるでしょって…)
「ヒナもいいお友達に恵まれたわね。タケロウ君ヒナよりも年上だし頼り甲斐があっていいわ。」
「…いつ知り合ったの?」
「この前ヒナの家に電話したのよ。そしたらタケロウ君が出てね、意気投合しちゃった!」
…そんなに嬉しそうに話さないでよ姉さん。(タケさん絶対猫かぶってたよ)
そもそもタケさんなんて頼りなさ過ぎる人の代表みたいなもんじゃないか。
でもやっぱりそれもタケさんを褒めちぎる姉さんの前では言えなかった。(…せめてもの腹いせに今日の夕飯は有り合わせのものにしよう、タケさんが何をリクエストしてきたって聞くものか)
「ヒナちゃんせんせ!あそぼうよ!」
そして、今に至る。
僕は僕の洋服の裾を掴んで見上げる女の子の頭を撫でるとヒョイと抱き上げた。(わぁ…軽い)
女の子は楽しそうに手を叩いて喜ぶ。
するとその声を聞き付けたのか僕も私もと他の子達がぞろぞろとやって来た。
「ヒナちゃんせんせぼくもだっこー!」
「おんぶ!おんぶして!」
「やぁだ、あたしがいちばんなの!」
「み…みんな順番にやってあげるから並んで。」
「ひとりずつはいやー!」
「そんなこと言っても…危ないから、ね?」
「えー!でもあっちはさんにんいっぺんにしてくれてるよ?」
「え…。」
どんだけ力持ちなんだよ。
そんなことを思いつつもちらりと園児達が指差す方を見ればそこにいたのはタケさん。(肩車して両腕に一人ずつぶら下げてるよあの人)
僕はそこそこ力のある方だとは思うけど安全面も考えるとあそこまではやりたくない。(って言うか普通は思い付かないよね)
そんなことを考えていたらタケさんが園児三人ぶら下げてのしのしとやって来た。
「どうだよヒナちゃん、俺ってなかなか力持ちだろ?」
「ええ、力はありますが常識がありませんね。」
「ヒナちゃん手厳しい!」
タケさんがけらけらと笑いながら言えば園児達も真似しててきびしー!と叫んだ。(意味わかってんのかな…)
なんか…タケさんって園児達に好かれてるみたいだね。
さすがに子供の前では横暴なこともしないし…たまには姉さんの仕事を手伝うのもいいか
な。
「あたしね、あたしね、大きくなったらタケさんせんせのおよめさんになるの!」
「ユキちゃん、それはやめた方がいいよ。」
「ヒナちゃんひでぇ!タケさんがモテモテだからって妬むなよ。」
「ねたむなよー!」
…前言撤回、可愛い園児達がタケさんに感化させられないように神経を磨り減らさないといけないからもうやりたくないです。
まだぎゃあぎゃあと喚いているタケさんを横目で見ながら僕は近くにいた子を抱き抱えて園庭へと歩いて行った。
END
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