(どんまるさんへの捧げ物/銀時+お登勢/新八神楽と出会った直後くらいの話)




野良犬みたいだねぇ、アンタ。
いつだったか、そう揶揄したことを思い出す。ボロボロの身なりに、出された食料にありつくその姿は、生きることだけに執着する野良犬のそれだ。
だからこそ、見てみたくなったのかもしれない。
まったく酔狂な話である。己も、この目の前の男も。


「あー腰だりィ。報酬ははずめよ、バァさん」

「なに言ってんだィ。今回のは先々月の家賃の分だろうが。先月分は耳揃えてきっちり払いな」

「今、万事屋は氷河期なんだよ。仕事がねーんだよ。そんな状態の人間に家賃催促しますか。心配しなくても来月分は払うって」

「さりげに先月分と今月分踏み倒そうとしてんじゃないよ、この穀潰し」


そんな悪態をつきながら酒を差し出すと、銀時が少し目を見開き意外そうな顔をする。
駄賃の代わりだ、と顎でしゃくれば、銀時は、やりィ、と小さく声をあげ酒を舐めた。
それを横目に煙草に火をつける。白煙が細く天井に伸びた。

玄関の向こうからは子供のはしゃぐ声が聞こえてくる。
ちょうど寺子屋の終わる時間だからだろうか。店を開くには少し早い時間。


「そういえば、あの子らはどうしたんだィ」

「は?」

「あの、冴えない眼鏡と大食らい娘だよ」

「あーあいつらは今日は他の依頼受けてらァ。だから別行動」

「…それにしても、あんたが従業員雇うなんて思ってもみなかったよ」

「うるせーな。成り行きだよ成り行き」


不貞腐れるように言い訳染みた言葉を並べた銀時はコップに残った酒をぐいと飲み干した。
その姿に何故だか笑いが込み上げる。
出会った頃は、それこそ野良犬のように一人で生きていくと言わんばかりの様だったというのに。


「あんたも人間だったんだねぇ」

「…どういう意味だそれ。てゆーか妖怪ババアにだけは言われたくねェ」

「口が減らない男だよ、まったく」


呆れの溜息をこぼしながら皮肉をついていると、ふいにがらりと扉が開いた。


「あー!銀ちゃん!なに一人で寛いでるアルか!ズルいネ!」

「必死に働いてる僕らに対して罪悪感とかそういうのないんですか!」


酒を飲む銀時を指差して、新八と神楽はどたどたと店の中へと入ってくる。
その姿を認めた銀時は椅子ごとくるりと身体を向けた。


「馬鹿、おめー、これは働いた分の正当な報酬だっつの。つーか屋根修理が嫌だつったのはてめーらだろうが」

「そうは言ってもこちとら一日中ティッシュティッシュでティッシュがもうゲシュタルト崩壊起こしそうなんですよ!なのに、なんで誰も受け取ってくれないんだよォォォ!!」

「まぁ、それは仕方ねェよ。新八だし」

「固有名詞で納得するのやめてくれませんか!」

「銀ちゃん、今回の報酬はこれネ。当分ティッシュには困らないアル」

「ってオイ、これ明らかに残ったモン押し付けられてんじゃねーか!え、金は?マジで報酬なの?これが?」

「お金で買えない価値があるネ」

「ねーよ!100歩譲ってもこんな大量のティッシュはいらねーよ!」


ぎゃあぎゃあと喚き散らす3人にお登勢は呆れの溜息をこぼした。
まったく騒がしい連中だ。
そんな悪態を心中に呟きながら、煙草を噛み締める。
心地よい騒音に目を閉じて、お登勢は小さな笑みを浮かべた。


(夕焼けカルテット)








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