(うっすらと銀時×神楽) 耳元に聞こえるはずの雨音がやけに遠くに聞こえた。 容赦なく降ってくる雨のせいで視界はすこぶる悪い。 僅かに濡れてしまった髪を振り払って、傘を持つ手をさらに強く握りしめた。 狭い視界のそのさらに奥。 遠ざかる背中だけがやけに鮮明に浮き上がって見える。 声を出そうにも喉の奥につまった感情のせいで上手く吐き出せない。 雨音のせいで呼吸すらかき消されてしまっているような錯覚。 その感覚を振り払うように、必死に手を伸ばした、その瞬間。 後頭部に襲った鈍い痛みに神楽はゆっくり目を覚ました。 「…………痛い」 すっかり見慣れてしまった万事屋の天井を眺めながら、神楽はポツリと呟く。 ソファで居眠りをしてるうちに勢い余って床に落ちてしまったらしい。 ぶつけてしまった後頭部に手を当てて起きあがれば、ちょうどそのタイミングでガラリと玄関の扉が開く音が聞こえた。 「たでーまー。銀さんのお帰りですよーっと」 やけにテンションの高い声と共に、顔を赤らめた銀時が覚束無い足取りで室内に入ってくる。 いつも以上に眠たげな目で神楽を捉えた瞬間、銀時は僅かに眉を上げる。 「んだ、神楽まだ起きてたのか」 「年頃の美少女ほっぽって、こんな時間まで酔っ払うなんて最低アル」 すび、と鼻をすすりながら文句をつければ、銀時は黙ったまま神楽の前にしゃがみ込む。 そのまま着物の袖を伸ばしたかと思えば、おもむろに神楽の顔に押し付けてきた。 神楽の視界が銀時の着物によって真っ白に染まる。 じわりと目元に浮かんだ水分が着物に吸収されていく。 「…酒臭いアル」 「文句言うな。つーかなんだ?いっちょ前に悪夢でも見たか?」 「違うアル。床に落ちて頭ぶつけたネ」 「はっ、どんくせーなオイ」 馬鹿にしたように笑う銀時に僅かな反抗心とばかりに、着物にさらに顔を押し付けて思い切り鼻をかんでみせる。 汚ねーな!と慌てたような声をあげた銀時は、反対の手で神楽の髪をぐしゃりと掻き回した。 その手の感触がどうしようもなく温かくて参ってしまう。 そんなことを考えながら、神楽は銀時の袖をぎゅっと握りしめる。 吸い込んだ空気には酒の匂いに紛れて甘い匂いが含まれていた。 (泣き虫と酔っ払い) ←戻る |