(万事屋)



ジャラジャラと騒がしい店内を背中に、自動ドアが開く。
その瞬間、冷たい風が顔面に吹き付けてきた。
暇を持て余してパチンコに来たのが確か15時過ぎ。
まだ3時間も経っていないのに、太陽はすっかり沈んで、空は真っ暗になっている。


けばけばしい電工装飾に囲まれたこの辺りでは、その人口の光に邪魔されて星はちっとも見えなかった。
その分、真っ暗な空に浮かぶ満月だけが浮いている。


身体を纏う冷気に身震いしながら、銀時は手にした戦利品を抱え直した。
今日はなかなかの好成績だった。
使った元手の約三倍になった諭吉と端数で交換した菓子やら日用品を見れば、新八や神楽にそこまで文句を言われまい。
もちろん菓子の中には酢コンブも含まれている。そこは抜かりない。


上機嫌で歩く銀時の横を何人か顔見知りの親父が通り過ぎ声をかけてくる。
それに適当に返事をしながら、銀時は巻いていたマフラーに顔を埋めた。
こちらに向かって吹いてくる風はかなり冷たい。
さすがにマフラーひとつでは寒い季節になってきた。
そろそろタンスの底に眠っているスカジャンを出すべきかもしれない。


「…あれ、銀さん今帰りですか?」


ふいに聞こえた声に振り向けば、スーパーの袋を抱えた新八がそこにいた。
その後ろから神楽がひょっこり顔を出す。
どうやら二人で買い出しに行っていたらしい。
こちらに近付いてくる二人を待って、並ぶように歩き出す。


「どうせパチンコで大負けして撤退してきたんだロ。情けないアル」

「はっ、オメー俺のこの手に持ってる宝の山が見えねーのか。今日の銀さんは違うから。絶好調だから」

「今までのトータルで見たら負けてるんですけどね結局」

「そういうシビアなこと言うのやめよう新八くん」


しれっと棘を投げつける新八に反論しながら、冷風で冷えきった右腕をさする。
それに気付いた神楽が不思議そうに銀時の方を見上げた。


「銀ちゃん寒いアルカ?」

「そりゃこの寒空の下、片腕出してたら冷えますでしょうよ」

「うっせーな。俺も後悔してたとこなんだよ。…そういや俺のスカジャン、どのタンスにしまったっけ」

「知りませんよ。しまったの銀さんでしょ」

「んだよ使えねーな新八のくせに」

「新八のくせにってなんですか!」

「………。」


ぎゃあぎゃあと言い争いながら進む銀時と新八を横目に、神楽が少しだけ歩く速度を落とす。
半歩後ろに下がった神楽に、ほぼ同時に気付いた銀時と新八が少しだけ振り返る。
訝しげな表情を浮かべる二人を無視して、神楽は銀時の右腕と新八の腕を掴む。
銀時と新八の間に入り込んだ神楽が、二人の腕を両腕に抱えて、楽しそうに笑った。


「こうすれば寒くないアル」


名案だと言わんばかりのしたり顔で、それぞれの腕を掴んだ神楽が歩き出す。
それに合わせて、新八が慌てたような声をあげた。
その拍子でスーパーの袋がガサガサと音を立てる。
ぐいぐいと引っ張るように歩く神楽に合わせて、銀時も足を踏み出す。
身長差のせいか、少し前屈みになってぶっちゃけ歩きにくい。
でも振りほどこうとは思わなかった。
実際、あったかいし。


「新八ー今日の晩飯なに」

「今日は寒いし、時間もないんで鍋です。肉抜きですけど」

「マジでか。つーか肉って豚肉もなし?ひもじいにもほどがあるだろ」

「安心するヨロシ。マ○ニーは買ったネ」

「テメーの舌はいいな安上がりで」


ぐだぐだとくだらない会話を繰り広げながら、家路へと向かう。
歪な三人の塊を満月だけが眺めていた。


(歪な集合体)


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