(松陽先生と仔銀時)



つい先刻まで明るかったはずの空はいつの間にか暗闇に覆われている。
空には少し欠けた月が遠くでぼんやりと輝いていた。
時刻はまだ六の数字を指して半時間が過ぎた頃合。
ほんの数週間前ならまだ明るかったはずなのに、いつの間にか季節は冬へと衣替えをし始めている。

頬を撫でる風の冷たさにほんの少しだけ身震いしながら、銀時はだらんと縁側に足を投げ出した。
そのまま後ろに手をつけば、隣りに置いた刀がかしゃんと音を立てる。
その音がやけに響くのは、昼間が賑やかすぎる反動だろうか。
そんなことを考えながら銀時は小さく溜息をついた。

物好きで変人の先生にはどこか人を惹きつける何かがあるのか、日中は子供だけでなく大人たちの出入りが激しい。
それは密談をしているだとかそういった理由ではなく。
たいてい、農作物のお裾分けだとか、昨日の晩ご飯のお裾分けだとか、そういった類のもの。
いい大人が施しを受けてる、なんて世間一般としてはどうなんだろう。


「銀時、夕食の準備が…」


襖越しに聞こえた声に振り返れば、自分を呼びにきた先生が顔を覗かせる。
と、同時に腹の虫が音を立てた。
空腹を訴える腹をさすりながら、もう一度先生を見上げれば、無言でこちらに近付いてくる。
予想外の行動に瞬きをしているうちに、銀時の肩にふわりと何かが乗っかる。
それがさっきまで先生が着ていた羽織りであることに気付くのに数秒かかってしまった。


「全く。こんなに寒い中、そんな薄着で。風邪をひきますよ」

「…別にさむくねーけど」

「意味のない強がりはよしなさい」

「つーかこれ借りちゃ先生が薄着になるじゃん」

「私はさっきまで鍋と格闘してたから、むしろちょうどいいくらいです」


さぁ、夕食にしましょう。
そういって軽やかに立ち上がると、鼻歌でも歌い出しそうな機嫌で先生は背中を向ける。
あの様子じゃ、珍しく焦がすことなく夕食を準備できたんだろう。
そんな予想を立てながら銀時は立ち上がる。

自分の身体よりもかなり大きい羽織りの衿を前に手繰り寄せる。
羽織りからはほんの少しだけ味噌汁の匂いがした。


(名残り月)


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