(銀妙/ちょっとだけ近妙)



毎度毎度繰り返される光景に、呆れを通り越してむしろ関心すら覚えてしまう。
そんなことを考えながら、訪れた志村家で頬杖をつき銀時はカップアイスをつつく。
視線の先ではいつものように何処かから忍び込んだらしいゴリラ、もとい近藤を般若の笑顔をしたお妙が殴り飛ばしていた。


「姉上ー!やりすぎです!死にますその人!」

「姉御、捕まっちゃうアルカ?捕まっちゃうアルカ?だったら死体隠蔽は私が…」

「縁起でもないこと言わないで神楽ちゃん!サスペンスドラマの見すぎ!」


ストリートファイトを続けている近藤とお妙の後ろから、新八と神楽がぎゃあぎゃあと喚いている。
そうこうしているうちに、満足したのかお妙は両手をはたきながらゆっくりと立ち上がる。
その足元には白目を向きながらも、何故か少し幸せそうな顔をして伸びている近藤。


「局長ォォォ!!!あんたまたこんなとこで何やってんスか!!!」


いつの間にやら探しにきていたらしい真選組の隊士たちが伸びている近藤に近付く。


「もう来るんじゃありませんよ〜」


にっこりと向けた笑顔に隠れた殺気を感じ取ったのか、近藤を引きずるようにして担いだ二人の隊士がびくりと身体を震わせるのが分かった。可哀想に。
呆れと同情の気持ちをそのままに、銀時はスプーンをぱくりと咥えた。



***



「お前さァ、ゴリラのどこがそんなにダメなわけ?」

「…なんですか突然」


近藤がズルズルと引きずられ消えていってから数十分。
新八は買い出しに行く、と出ていき、神楽も釣られるように遊びに出かけていった。
なんとなく出て行くのも面倒で居座っていれば、文句を言う気すら失せたのかお妙は溜息一つで、茶を用意した。
それを遠慮なくいただきながら、率直な疑問をぶつけてみる。


「だってアイツ、幕臣じゃん。玉の輿だよ玉の輿。ゴリラだけど」

「ゴリラの嫁なんて死んでも嫌です」

「いいじゃねーか。どうせお前もゴ…」

「何か言ったかしら?」

「まだ一文字すら発してないのに殴るのやめてくんない!早とちりかもしんねーじゃん!ゴージャスって言うつもりだったかもしんねーじゃん!」

「……銀さんは何にも分かってないのね」


それだからモテないのよ、と大袈裟に溜息をつくお妙に、どういう意味だコラと目線で訴える。
それをスルーしてお妙は少し目を伏せた。


「私があの人を拒否する理由はストーカー変態ゴリラだからってだけじゃないわ。そりゃあ8割くらいはゴリラ死ねって思ってるけれど」

「前者と後者で180度意見違くね」

「でもそれだけじゃない」


きっと近藤を好きになれば幸せになれるのだろう。
こちらから言わずとも、彼の中の一番になれるのかもしれない。
だけど。


「あの人には真選組があるじゃない。唯一になれないなんて、ごめんだわ」


大事なものに自ら手を伸ばして抱える近藤はきっと、真選組も自分も何もかも全て護ろうとするんだろう。
それがどうにも、性に合わない。


私、こう見えて嫉妬深いんです。
一言そう告げてゆっくりと湯呑みに口をつける。
その姿を眺めながら、銀時は、ふーん、と曖昧な相槌を打った。


「手に入りそうで入らないなんて惨めな思い、私はしたくないの。だったら銀さんの方がまだマシだわ」

「…なんだその投げやりな告白」

「だって貴方は最初から手を伸ばしたりなんかしないでしょう?」


臆病者の白鬼さん、と勝ち誇ったように笑うお妙に、銀時は眉を寄せる。
そうして誤魔化すようにズズズと茶を啜った。


「口の減らねェ女だな」

「銀さんにだけは言われたくないわ」


憎まれ口を叩きながら、縁側に目を向ける。
冴え渡る青い空に吹く風が夏の気配を運んでいる気がした。



(優しい毒は望まない)


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