松陽先生と銀時



なんとなく、見つかりたくない。
そんな銀時の願望は叶わず、背後から聞こえた名を呼ぶ声に、ぎくりと身体を震わせる。
そうして渋々振り返ってみれば、おやおや、と片眉を上げた先生がぱちりと瞬きをした。


「随分と派手な顔になりましたねぇ」


感心したように顎に手を当て頷く先生に、うるせーと言い返す言葉は口の端に滲んだ痛みに掻き消される。
そんな銀時の姿に先生は楽しそうに笑った。







「で、晋助ですか?小太郎ですか?」

「……何が」

「今日の喧嘩の相手です」


すっかり腫れてしまった頬の処置をしながら、先生は断定的な二択で聞いてくる。
何故その二人なのか、と思う反面、決して間違いではないのが、なんとなく悔しい。
ふて腐れるように押し黙れば、先生はまたからからと笑った。


「相変わらず仲がいいですねぇ」

「……この姿のどのへんを見て仲がいいとか思うんだよ」

「喧嘩するほど仲がいいというじゃないですか」


あっけらかんと答える先生に、否定したい気持ちがむずむずと押し上がる。
仏頂面が深くなる己とは正反対に、銀時は素直じゃないですねぇ、と告げる口調は実に楽しそうである。厄介な大人だ。
諦めたような溜息を飲み込んで、テキパキと痣だらけの顔面に処置を施す先生に目を伏せた。

伏せた視界になんとなく耳を澄ますと、遠くの方でカラスの鳴く声が聞こえた。
日も暮れだす時間だ。カラスたちも家路を急いでるのだろうか、そんなくだらないことを考えてみる。

そうこうしているうちに処置を終えた先生が終わりです、とペシリと銀時の額を叩いた。
いたい、と抗議する銀時にまたいつもの笑みを浮かべると、先生は銀時の前髪をかきあげる。
そうして剥き出しになった額に唇を寄せてみせた。


「……………なに」

「おまじないです」


額に手を当てて怪訝そうな表情を見せる銀時に、先生は悪戯っぽい笑みを浮かべた。なんだそれ。
銀時の呆れなど気にした様子も見せずに、さて今日の夕食は何にしましょうか、なんて鼻歌交じりに立ち上がる。
相変わらず楽しそうなその後ろ姿を追いながら、焦がすなよせんせーと声を掛けた。


額(祝福)







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