銀時×土方




衝動のまま生きられたら、少しは楽になるのだろうか。
そんなことを口にすれば、目の前の男は笑うのかもしれない。
お前はすでに欲望のまま生きてんだろ、と呆れを綯い交ぜにしたその表情はいとも簡単に想像できた。
それでも口にしなかったのは、そうじゃない、と否定してしまいそうだったからだ。
否定したところで、うまく言葉を紡げない自分が目に見えてる。だから黙る。単純な図式だ。
己の思考に結論付けて、銀時はうつ伏せのまま、いつものように煙をぷかぷかとふかしている土方を見上げた。
何も身に付けずベッドにもたれ、煙を吐き出すその姿は様になっているが、いかんせん安っぽい明かりの下では陳腐なドラマのように見えた。
さながら、やり手社長と愛人、といったところか。


「…なに笑ってやがる」


こちらの視線に気付いた土方が、低い声でこちらを詰る。可愛げもへったくれもない男だ。
そんな男にいっそう笑みを深めながら、投げ出された方の手を掴んだ。
そのまま手首へと唇を寄せると、土方は一瞬ピクリと身体を震わせる。
あがりそうになる抗議の声を遮るように舌を這わせれば、土方が息を飲む気配がした。視線だけで見上げれば、僅かに戸惑いの色を醸す瞳と目が合う。
衝動のまま、何もかも打ち明けてしまえば、この男はどんな反応をするのだろう。
見てみたい気もするし、一生知りたくないとも思う。
土方、と呼ぶ声は音にならず、それを誤魔化すように手首に軽く歯を立てた。
愛しいとか、好きだとか。
妬ましいとか、憎いだとか。
ぐるぐると渦巻く感情の出口はいつだって見つからない。
このまま土方の血と肉となって、この衝動にも似た感情を暴いてはくれないだろうか。
そんな馬鹿馬鹿しい考えに苦笑しながら、銀時はわずかに赤くなったその手首に小さく口付けを落とした。


手首(欲望)







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