過去ログ
日記ログや過去拍手など。
表記がなければ銀土。





(神楽ちゃん目線の銀土)



1番好きな人とは幸せにはなれない。結局、2番目くらいの男と一緒になるのが幸せなのよ。

そうしたり顔で語っていた彼女は、結局、親が勝手に決めた相手との結婚式当日に、想い人と駈け落ちをするという陳腐な結末を迎えた。
ありきたりなドラマの結末はハッピーエンドに終わっている。つまらない。机に置かれたリモコンに手を伸ばしテレビの電源を切ると、神楽はそのままごろんとソファに転がった。

テレビを消してしまえば静まり返る万事屋は、ひどく居心地が悪くて誤魔化すように目を閉じた。ちょっと出てくると告げた銀時は未だ出掛けたままだ。今日は帰ってこないのかもしれない。なんとなく、そんな気がした。
だったら、このまま眠ってしまおうか。まどろんでくる意識に身を任せぼんやりと考える。明日には新八あたりに口煩い母親のような小言を言われるのかもしれないが、そんなもの痛くも痒くもない。そう決めつけて、眠りの世界へと飛び込もうとした時。
ガラッと万事屋の扉を開く音がした。


「…なんだお前、まだ起きてたのか。ガキは寝る時間だぞ」

「………なんでお前がこんなとこにいるアルか?」


玄関に駆けつけてみれば、そこにいたのは銀時―――だけでなく、全身を黒に包まれた見慣れない着流し姿の男がいた。正確には、意識がないであろう銀時の腕を肩に回し銀時を抱えた、何かと敵対している真撰組副長、土方である。


「なにしにきたネ、マヨラー。こんな時間に非常識アル。」

「テメェんとこの大将が酔い潰れやがったからだな…」

「酔ってるの利用して連れ込むなんて最低アルこのインランが」

「違うわァァァァ!薄気味悪いこと言うな!潰れてるコイツを運んでやったんだろーが!」


捨て置いてもよかったんだが、と呆れたように告げた土方の隣で、銀時はうう、と小さく呻いた。マダオ全開のその見慣れたマヌケ面に、何故かちくりと胸が軋む音がした。


「とりあえず、こいつを部屋に運…」

「銀ちゃん、ちゃんと眠ってるアルか?」

「………は?」


神楽の言葉に怪訝そうな顔を見せた土方は、抱えた銀時にちらりと視線を向けた。無論、土方が答えるまでもなく、銀時は穏やかな寝息をたてている。その姿にほっとすると同時にモヤモヤと暗い感情が浮かんだ。

いつだって適当でいい加減な銀時は、決して弱い部分を見せたりはしない。隠したいわけではなく、それはきっと無意識のうちの行動なのかもしれない。筋金入りの意地っ張りだから。
今朝だってそうだ。ダラダラと和室から姿を現した銀時は、いつもとなんら変わらないように見えた。でも纏う空気はどこか違っていた。具体的にどこが違ったのかは言葉にはできない。ただ、気付いたその違和感に気付かないフリをすることしか、神楽にはできなかった。
気付かないフリしかできない自分には、どうすることもできないことを、土方はやってみせたのだろう。少なくとも、ここ数日魘されていた銀時が穏やかに眠れるくらいには。


「…仕方ないから"1番"は譲ってやるネ」

「はァ?」


なにが1番?と本気で分からないという表情を浮かべた土方に、神楽はニッと笑みを浮かべた。
1番好きな人と一緒になることはできないらしい。だったら、確固たる2番目の地位を築いてみせようではないか。
銀時と一緒にいる権利。それだけは譲ってやらない。そんな宣戦布告を胸に秘め、小さくあかんべーをしてみせた。




(セオリーは裏切らない)

2012/05/30 22:36 (40)


(バラガキ篇第369訓後妄想/本編とちょっとだけ矛盾あり)



がらがらと崩れ落ちるヘリの残骸を眺めながら、最後の一口を口に放り込んだ。知恵空党の残党に関しては恐らく近藤や沖田たちが取り押さえているだろう。まぁ、どんなやり口かは想像もしたくないが。

「ったく、警察が善良な一般市民巻き込んでんじゃないよまったくもー」

瓦礫を蹴散らすように銀髪の男が姿を表した。いつものやる気の欠片もない表情で、がしがしと己の髪を触れる。後頭部につけてあったのであろうつけ髪を外しパサリと床に落とした。

「テメェのどこが善良な一般市民なんだこの有害テロリストが」

「俺をどっかの中二病患者といっしょにすんなっつーの。だいたい事態を収束するために協力してやったんだから謝礼金よこせコルァ」

「抜かせ」

その姿を眺めながら、土方は懐からタバコを取りだし火をつける。ふぅ、と白い煙を吐き出すと目の前の男の原動に思考を巡らせる。

『この攘夷志士 白夜叉の首 とれるもんとってみやがれい』

普段はだらしないマダオではあるが、あの化物じみた剣の腕から、恐らく攘夷戦争に参加したであろうことは調べがついていた。かつての英雄白夜叉であることも。しかしそれは推論の域であり確証はなかったのだ。だからまさかあの場面で攘夷志士を名乗るとは思わなかった。余計なことはべらべら喋るくせに昔のことはあまり語りたがらないこの男のことだ。それに触れられることは一生ないんじゃないかと踏んでいたのだが。


くわえていたタバコを吐き捨てると、そのまま一気に間合いを積め銀時の首筋に剣を向けた。不意打ちで抵抗できなかったのか、それとも抵抗する気がなかったのか、銀時はいつもの緩い視線を土方に向けた。ただそこにはほんの少しだけ焦りの感情も滲んでいる。


「………お縄ですか?」

「ほう、自覚はあるのか」

「まぁ、あんだけ派手にやりゃァな」


苦笑してみせる銀時に土方はすうっと目を細める。多分、この男は知っていたんだろう。白夜叉である過去に土方自身が気付いているということを。どこまでも喰えない男だ。


「テメェを『公務執行妨害』で逮捕する」

「……………へ?」


剣を下ろし改めて銀時の方を見やれば、いつも以上に間抜け面で呆然とこちらを見つめていた。その表情が笑いを誘う。いたずらが成功した子供のようにたちの悪い笑みを浮かべる土方に、その意図に気付いた銀時はばつの悪い表情を浮かべた。


「…妨害どころか協力したつもりなんですけど」

「るせぇ。聞かなかったことにしてやるっつってんだから感謝しやがれ」

「聞いたことねーよ。そんな横暴な譲歩」

「いつもいつも治外封建みてーなツラしやがって。ちったぁ危機感も覚えろ」

「いやー…あれはその場のノリっつーか…」

「そうか。頭カラだからか。わりぃな。テメェが根っからのパーだってことを忘れてた」

「おい。それはなにか?俺のこの天パとかけてんのか?ふざけんな!俺のこれはオサレパーマです! 」


ぎゃあぎゃあ喚く銀時を横目に携帯を取り出す。騒々しかった廃墟内も落ち着いてきた辺り、恐らく知恵空党の奴等はくまなく引っ捕らえられたのだろう。残るは面倒な事後処理だ。アドレス帳から近藤の名を呼び出し、着信をかける。
プルルルル、と呼び出し音が鳴る中、土方は銀時に視線を向けると、ニヤリと質の悪い笑みを浮かべた。


「いつかテメェをぶった斬ってやる」


そろりと沸き立つ殺気に、一瞬目を見開いた銀時は、すぐに口元を歪ませた。


「臨むところだ」


作戦が成功した子供のように、悪ガキがニヤリと嗤った。


(知らないフリを繰り返す)

2011/11/24 18:35 (0)


(W副長設定/銀さんは元攘夷志士)



まどろみの中、与えられたのは容赦ない攻撃だった。


「オイ。いつまで寝てんだ。さっさと起きろ。」


「〜〜〜っ、」


容赦なく入れられたその蹴りの痛みに、ぼんやりしていた意識が覚醒する。そのまま蹴られた腹部を押さえ悶絶していると、まだ起きねえのかならもう一発、と不穏な台詞が聞こえてきた。身の危険を察知した俺が起き上がると、凶悪面した土方が見下ろしていた。


「てゆーかさっきまで山崎くんが俺を起こしに来てくれてたはずなんですけど。」


「その山崎が泣きついてきたから俺が直々に起こしに来たんだろーが。感謝しやがれ。」


「わーお、お熱烈ぅ。でも出来ればもう少し優しく起こしてほしかった。」


わしわしと広がった髪をかきながら恨ましげに呟けば、チラリとこちらを睨み付け、盛大な舌打ちを落とす。鬼の副長というより凶悪犯罪者のような風貌である。理由は分からないが、すこぶる機嫌が悪いらしい。仕方なく立ち上がり、隊服に着替えるべく、寝間着代わりの着流しに手をかける。そんな俺の姿を確認した土方はお役御免とばかりに踵を返した。


「…情けねぇ面しやがって。」


襖を開け、吐き出すように呟いたその背中に思わず目を向ける。俺の視線にチラリとも振り返らず背を向けたままさらに続きを吐き捨てた。怒気のこもった低い声で。


「昔はどうあれ、今のお前は真撰組副長だろうが。 」


そのままパタンと襖を閉め、土方は俺の私室を後にする。そっと頬に手をやり、部屋に置かれた鏡に目を向けた。なんてことはない、普段通りの己の顔か写っている。はぁ、と深い溜め息をつき悪態をついた。目敏いやつめ。


夢を見た。護りたいものを全てなくした、あの頃の夢。山崎が起こしにきたときには意識は覚醒していたものの、どうしても起き上がることができなかった。主に自己嫌悪で。


「…敵わねぇなぁ。」


思わず呟いたその声は我ながら拗ねたような口調であることに気付き、苦笑する。
その本気で苛立った言葉に救われてる、なんて。
死んでも言ってやんねーけど。




(背中合わせで伝えてよ)

2011/09/24 22:27 (0)


(攘夷ズ/ギャグ/会話文)



「はーもう7年か。早ぇな。中学生だった奴らがもう成人迎えようとしてんだぜ。」


「まったく。7年もたつというのに貴様は成長しておらんな。いい加減、主人公を名乗るならば、俺のように必殺技のひとつくらい覚えたらどうだ。もしくは俺と主人公を交代しろ。」


「光の速さで劣化の一途を辿ってるやつに言われたくねーよ。てゆーかお前が言ってる必殺技はただのカ○ラだからね?ちょっと昔の○エラだからね?」


 「フン。お前らは相変わらず、やることがシケてやがんな。俺なんてあの春雨を…」


「だいたいお前、最初のころはもうちょっとシリアスじゃなかった?今はただの電波バカじゃねーか。映画版見てると紅桜でのシリアスキャラに逆に違和感感じんだけど。」


「春さ」


「何をいうか。俺はいつだってシリアスだぞ。こないだだってシリアスに松平公の潜入操作を行った。」


「は、」


「地で家政婦のカッコする奴をシリアスなんて言わねーんだよ。そもそもなんで女装?意味わかんねー、」


「いい加減にしろよテメェらァァァ!!」


「うわうるさ!んだよ、高杉」


「なにナチュラルに無視してんだ!なんだ?喧嘩売ってんのか?」


「喧嘩は売ってないけどバカにはしてる」


「殺されてーのか!」


「ん。なんだ坂本。さっきから黙って。」


「いやー、振り返ってみようと思うたんだが、よく考えたら原作では、初登場と年賀状篇しか出とらんことに気がついてのー。」


「………。」


「………。」


「………。」


「振り返るまでもなかった。あははは死んでええかな。」


「………。」


「………。」


「……ちょ、やめてくんない?なんだよこの空気。しかもネタが正月の学パロとカブってんだよ。空気を読め。お願いします。」


「……ふっ、坂本ォ」


「なんじゃ高杉」


「そんなに気にくわねーってんなら、どうだい。俺と一緒に世界をぶっ壊…」


「それだけはだめ!絶対!」





(攘夷ズで銀魂7年目を振り返ってみた)

2011/05/18 18:12 (0)





嗅ぎなれた匂いに目を覚ます。重い身体をゆるゆると動かすと視線の先に白煙を吐き出す銀髪の姿が目に入る。つーかそれ俺の煙草。

「テメェ、何勝手に吸ってやがる。」

「あ、起きたの。土方くん。」


おはよー、といつものあの生気のない目で笑う。その手元でわずかに光る赤い炎。細く伸びる煙。見慣れたそれらは、胸の奥底に違和感としてざわめく。


「…喫煙者だったんだな。」

「んー?ああ、昔ちょっとね。」


久しぶりに吸ったけど、やっぱ糖分のがいいな。人の煙草を奪っておいてそうぼやく男に、だったら吸うな、と文句を言おうとして、やめた。

ふぅ、と吐き出した白煙を追う赤い瞳はゆらゆらと揺らいでいる。なにかを思い出すような、なにかを堪えるような。
あぁ、苛々する。

身を乗り出し煙草を奪い取る。抵抗なくあっさり離されたそれをくわえた。慣れた感覚が肺を満たす。


「そんなに銀さんと間接チューしたかったの?土方くんのエッチィ。」

「気色悪ィこと言うな。だいたい、これは俺の煙草だ。」

「ケチくせーな。1本くらいいいだろ?」


ヘラヘラと笑う男を後目に、短くなった煙草を灰皿に押し付けた。苛々。苛々。腹の底から熱いなにかが沸き上がる。


「…似合わねーことしてんじゃねぇよ。」


低く唸るように吐き出された言葉に坂田の表情は消える。似合わない煙草も、臆病に揺れる瞳も、諦めたように笑うその表情も。全部全部腹立たしい。
全てを捨てたふりをして、自らの傷を抉り戒める。そんな自分勝手なこの男が、傷付いた素振りを見せない坂田が、腹立たくて、哀しいのだ。


「…土方は、やさしいな。」


そう呟いて、坂田は笑った。
今にも泣きそうな顔で笑う坂田に近付くと、薄い唇に口付ける。

泣きたいくらい、苦い味がした。




(哀しみだけが聞こえない。)

2011/03/17 10:36 (0)


(ホスト×大学生)



「………またか。」


ドアにもたれかかったまま朝を迎えたらしい酔っ払いの姿に、俺は深いため息をついた。派手な金髪に派手な服装。目立つことこの上ない格好のまま、だらしなく寝そべっている隣人の隣にしゃがみこむと、俺は声をかけた。


「おーい、んなとこで寝てると風邪ひくぞ。」

「んー、あ、土方くんだぁ。おはよ。」

「おはよ、じゃねェよ。なんでホストのくせに毎回酔い潰れて帰ってくんだよ。」

「あれ?やきもち?だぁいじょうぶ。金さんがほんとに酔ってんのは土方くんだけだからさァ。」

「寝ぼけんのも大概にしろ。」


腕時計をちらりと見る。まだ2限が始まるには余裕のある時間帯だ。とりあえずこのまま放置しておいたら、確実に風邪をひくだろう。諦めにも似たため息をもう一度吐いて男の腕を取る。

否、取ろうとした。
伸ばした手を逆に捕まれ、勢いよく引っ張られる。そのままバランスを崩し、目の前の男に抱き込まれる形になってしまった。すかさず文句として吐き出そうとした言葉は、耳元をくすぐる安心しきった声に遮られる。


「目が覚めて、真っ先に目に入ったのがお前の姿、なんて俺超幸せじゃね?」


ぎゅう、と抱き締めてくる金時の表情はまるで子供みたいだ。ほんとどっちが年上なんだか。安心しきったその表情にじんわりと体温が上がる。
十四郎、と呟くような声に顔をあげるとやけに真剣な顔をした金時と目があう。そのまま近付いてくるキラキラした金髪に手を差し入れると。
力の限り髪を引っ張った。

「あだだだだだっ!」

「調子にのんなコラ」

「抜ける!抜けちゃうから!金さんの自慢の髪の毛が可哀想なことになるから!」


情けない声を上げる金時から離れ立ち上がると、金時はむぅと拗ねたような表情を浮かべた。


「俺の手管で落ちないやつなんて、土方くんくらいだよ。」

「俺と客を一緒にすんじゃねぇ。」


べ、と舌を出してみせると金時は、参った、と諦めたように笑った。
相手はホストで分が悪いのは百も承知。
だからこそ、簡単に落ちてやるものか。





(未完成な攻略法)

2011/03/17 10:31 (0)


(囚人×看守)



罪の重さなんて、誰が測れるんだろう。


そんな感傷的な思考に苦笑する。人間が裁く限り矛盾は生まれるのだ。たくさんの天人を殺した。その事実は変わらないのに、英雄だともてはやした者は手のひらを返すように罪人だと非難する。裏切りだなんて嘆くつもりは毛頭ない。所詮人斬りであるという事実は事実のままなのだ。ただ、虚しくなった。
この世界は、虚しくて、哀しい。


カツンカツン、とやけに響く音と共に、看守の男が近付いてくる。俺の独房の前で止まると、就寝時間だ、と感情のない声が聞こえてきた。



「なァ、看守さん」


「………。」


「俺、死にたいんだよね、」


「………。」


「なんて。」



なんでそんな言葉を投げたのか分からない。ただ吐き出したかったのかもしれない。死にたいわけじゃない。ただ生きる理由が見当たらない。そんな自分を嘲笑う。俺は何を求めてるんだろう。


そんな俺の言葉に看守の男は黙ったままだった。きっと囚人の戯れ言など聞き飽きているのだろう。返事など期待していない。立ち上がり、薄い布団に手を伸ばす。



「――死ぬな。」



噛み殺すように、しかしはっきりと聞こえたその声に、思わず看守の男を振り返る。その言葉の裏側には背筋を撫でるような殺気が込められていた。



「死んで逃げるなんざ、俺が許さねェ。」



ユラユラと揺れる憎悪を秘めたその瞳と目が合う。
その突き抜けた美しさに、なぜか俺は目をそらせないでいた。







(閉鎖空間にて逃走)

2011/02/22 15:33 (0)





燃えるような赤を睨み返す。捕らえられた腕を壁に押し付けて、万事屋は不敵に笑った。なァ、と話すその声は獣の唸り声のようだ。


「俺のこと好きなんだろ?」


愉しそうに笑うその声はからかうようであり、同時に試すようでもあった。ふざけたその表情に反して、瞳に写る光には余裕などない。訳もなく笑えた。自分で仕掛けた罠に嵌まってんじゃねーよ。


「"好き"なのは、テメェだろ。」


余裕のねェ面しやがって。
嘲るように笑えば、噛みつくようなキスが降りてくる。単純な野郎だ。浅い挑発によって始められた呼吸の奪い合いに、どうしようもなく笑いが込み上げる。

まるで陳腐なゲームみたいだ。
終わりが見えないからこそ、やめられない。馬鹿なこの男と、俺自身を嘲笑う。


目の前の男が、同じように質の悪い笑みを浮かべていることも知らずに。







(騙されたふりをする道化師)

2011/02/22 15:31 (0)


(の/だ/めパロ)



今のあなたになんの魅力も感じないわ。
そう吐き捨てて、ついさっきまで恋人だった彼女は足早に立ち去った。それからの記憶はかなり朧気だ。ものすごい勢いで飲んでいたのは確かである。いわば、ヤケ酒だ。ヤケ酒。


別に、女に未練があったわけじゃない。元から俺の見てくれや才能に擦り寄ってきた女だ。だが、だからこそ、無性に悔しかった。指揮者なんて、あなたにできるわけないと叩きつけられたみたいで。


「………くそっ、」


軽く舌打ちをつきながら、ずるずると扉の前に座り込む。どうにか自宅のマンションまで辿り着いたが、それが眠気の限界だった。ちょうどいい。この夜風で酔いが醒めるかもしれない。そんなことを考えてるうちに、俺の意識はぶくぶくと沈んでいった。



***


音が、聴こえる。
いや、音なのだろうか。これは。その音楽は自由自在に動き回っているようだった。


歌う。踊る。跳ねる。また歌いだす。
まるで、生き物だ。


うっすらと目をあけると影が見えた。たくさんのなにかに埋もれたその真ん中で影は自由自在に、ピアノを奏でていた。



(―――――…うめェ、)


ほぼ無意識にそんなことを思った瞬間、ピアノの音が唐突に止んだ。もったいないと思う間もなく、影が自分に近付く。



「――…起きた?土方センパイ」



遮光カーテンから僅かに漏れた光に照らされた、そのキラキラ光る銀髪に。
一瞬、見惚れてしまった。



(ショパンのいたずら)

2011/02/22 15:29 (0)


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