06
昨晩のリュウさんの微笑みが忘れられず中々寝付けなかったが、今日も今日とて朝から仕事だ。社畜万歳。そうだ、祭りが終わったら残業代を請求しよう。

本日の任務も先日と同じ面子である。ロープウェイに乗りながら仕事の話をしていると突然雪男が素っ頓狂な声を出し窓に張り付いた。

「どうしたの、って…うわぁ」

雪男の視線の先を自分も追うと目を疑う光景が視界に広がった。なんと、監視するはずの悪魔の少年は檻から出され、燐を始めとする祓魔塾の生徒がグラウンドで野球をしていたのだ。優等生だと思っていた勝呂くんや神木さんまでもが参加しているのには驚いた。

「どうした」
「あぁ、いえ…その、」
「ほぅ…随分と楽しく見張ってるじゃないか。…目障りだ。問題になる前に処分しろ」
「処分…?」
「しかしフェレス卿からは…」
「ふん、悪魔に情をかけてどうなら。祓魔師は悪魔を払うのが仕事だ」

私と雪男の声に反応して私たちと同じように窓の外を見るとリュウさんは冷たい一言を雪男に浴びせると窓から顔を逸らし、体の向きを戻した。

「…分かってます」

雪男は複雑そうな表情で俯いた。

ロープウェイを降り、目撃情報のあった場所へ急ぐと幽霊電車の一部が瓦礫の上に乗っかりながら身体中に散らばった眼をギョロギョロと忙しなく動かす。何度見ても気持ちが悪いし慣れない。

「また肉片だけの空振りか」
「ですね…」

そんな電車に向けてリュウさんの部下の一人が火炎放射器を放った。
数秒経って雪男の元から可愛らしい着信音が流れると彼は、ちょっと行って来ます。と言うとリュウさんが何だ?と反応した。

「例の祠、瓦礫の撤去が終わるので立ち会って来ます」


+


祠について伝えるために私は携帯を取り出し本部へと電話をかける。いくら待っても誰も出ない。何度目のコールかも分からなくなってきた頃にリュウさんが私の元へ寄ってきた。

「どうした」
「それが…さっきから本部に電話しているんですが誰も応答しないんです」

本部へと電話が集中してるんですかねえ。なんて付け足すと、目の前でショベルカーがすくい上げた瓦礫の元から大量の魍魎が飛び出してきた。こちらに向かってくるそれから顔を守るために腕を盾にしたが顔どころか腕にも魍魎は当たらなかった。理由は簡単。リュウさんが私の前に立ち、魍魎を防いでくれたからだ。冷徹な彼がなぜそんなことをしたのかは簡単には導き出せないが。

「ありがとうござい、ます…」
「目の下のクマ酷くなっているぞ。ちゃんと眠っているのか」

咄嗟に目元を手で覆い隠す。今更隠しても遅いぞ。と言われて尚恥ずかしくなる。
眠れていないのは貴方のせいです、とは言わない。というか言えない。貴方の笑顔のせいですだなんてあまりにも理不尽すぎる上に、笑顔が忘れられなくて寝れませんでした、とは馬鹿にもほどがある。すみません。と謝罪を述べるとリュウさんは鼻を鳴らして私から視線を外した。

「ありました!!」

魍魎が一斉に飛んで行った後、瓦礫が元々かぶさっていた下から祠が姿を現した。

「あれは…!」

小さな声で呟くリュウさんにちらと目線を移せば驚いた表情で目を見開いていた。祠、そしてリュウさんを交互に見つめていると、あの絵本の存在が脳裏をよぎった。

「まさかと思いますけど、…あの祠ってリュウさんの一族が…」

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