04
「さっき聞きそびれちゃったけど杜山さん、ほっぺの怪我大丈夫だった?」
「雪ちゃんが私のことを守ってくれたから全然大丈夫なんです…そのせいで雪ちゃんあんな大怪我…」
「だ、大丈夫だから泣かないで…!どんな状況だったのかは知らないけれど女の子を守れない男は男じゃないし、雪男の行動は当然のことだと思うから杜山さんが気に病むことないよ」

ね?と今にも泣きそうなほど瞳を潤わせる杜山さんを宥めていると雪男と燐が階段を降りてこちらに向かってきた。
彼らと屋上へ足を運ぶと杜山さんは可愛らしい緑男・ニーちゃんを呼ぶと鬼灯を取り出した。すると鬼灯から光の玉がいくつも浮かび上がり上空へと飛んで行った。詳しいことは聞いていないが、幽霊電車内に取り残された人々の魂なのだろう。

「燐のおかげで助けられたんだよ。ありがとう」

杜山さんと燐から離れてその光景を隣で見る雪男の表情はなんとも形容しがたいものだった。ニュアンスだけでも捉えるとして、良いか悪いかで言えば悪い方だろう。


+


翌朝、雪男の住む男子寮の前に到着するとタイミング良く雪男も玄関から出てきた。真冬の寒い中、待つことなく彼と合流出来たことは運が良かった。

「おはようございます」
「おはよう。今日も寒いねえ」
「待たせてしまってすみません。寒かったでしょう」
「いや、今来たとこだから大丈夫だよ。まあここに来る間は寒かったけど…」

正十字騎士団の團服は暖かそうに見えて実はそこまで暖かくないのだ。保温性に欠けるコートはあてにならないため、中に何枚か重ね着をして来た。それでも寒いのだから冬は好きではない。かと言って夏が好きかと聞かれれば首を縦に振ることもできない。
シュラっていつも露出狂の卵みたいな格好してるけど大丈夫なのかな?なんて思ったことを口に出せば、確かにそうですね…と話に乗ってくれる雪男だが、心ここに在らずだと読み取れる。原因は先日の幽霊電車の事や燐が面倒をみることになった悪魔の少年のこと等、若いというのにこうも苦労ばかりしていると将来が心配だ。精神面も頭髪の方も。

他愛もない会話やこれからの任務についての話をちょこちょこしているとリュウさんの待つ場所へと到着した。

「どなたかいませんかー?」
「何事だ」
「ラップ現象と思われる通報があったそうです」
「呑気なものだな。俺なら建物ごと焼き払うぞ」
「そんな乱暴な…」
「冗談だよ。…報告は見たか?」
「幽霊電車の千切れた東部は工業地帯高架下にて発見。逃走した本体は虚無界と物質界の境界を食い破りながら移動し、学園内に潜伏しているものと思われます」

雪男がタブレット端末の画面を見ながらリュウさんに応答する。少し先でリュウさんの部下は幽霊電車の一部を突っついている。

「結界が緩んでいる隙を突かれてしまったんですねえ…」
「そのようだな。厄介な奴を取り逃がしたな」

リュウさんは私の考察に頷いた後、雪男に向かって言葉を放つ。雪男は表情を曇らせるもすぐ後に起きたガシャン、という音と男性のうめき声が聞こえるとすぐ様真剣な顔に戻った。雪男を観察している暇もないので音のする方へと視線を移す。

私たちのいる場所から一段降りた場所にある廃屋からベビーカーに乗る赤ん坊を運ぶ熊のようなぬいぐるみが姿を現した。悪魔の一種だろう。突然ぬいぐるみが動きを止めるとベビーカーに乗った赤ん坊が巨大化し、物凄い速度で髪の毛が伸びていった。近くで取り囲んでいた祓魔師たちは銃やら刀やらで撃退しようとするも一人の女性が赤ん坊の伸びた髪に囚われてしまう。
すると隣にいたはずのリュウさんは大きな段差も気にせずに一段下へと飛び移り、華麗に着地すると赤ん坊目掛けて走って行き、彼の武器である赤い棒で倒すことに成功した。流れ作業のように済まされた悪魔討伐に魅了される。

「何をちんたらやっている。お前らそれでも祓魔師か!」

倒した赤ん坊の上に立ちながら叫ぶリュウさんの後ろに、先ほどベビーカーを押していたぬいぐるみが二つに分裂し空中へと浮かぶ。素早く銃を取り出し私は右側、雪男は左側に発砲する。見事的中した私たちの銃弾のおかげで二つのぬいぐるみの討伐は成功した。

「お前らは使えそうだな」

そう言うと先日持っていたファンシーなお菓子のケースを雪男に渡した。そのお菓子は頭の部分を仰け反らせると中のキャンディが出てくる仕組みになっているのだが、食べ方がなかなか難しいようで雪男が試したところ、飛び出したキャンディは彼の眼鏡にコツンと当たり、地面へと落ちていった。

「ふふっ…」

シュールな光景に堪えきれず笑いをこぼすと雪男に睨まれてしまった。なまえさんもやってみてくださいよ、と言いたげな表情でお菓子のケースを私に差し出してきたので私も挑戦してみたが、やはり難しい。私の場合は額に直撃し、その後は雪男同様地面へと転がって行った。飛んでくるキャンディの威力は子供向けのお菓子とは思えないほど強力なもので、額に当たった時軽く悲鳴をあげてしまったのだが、それが面白かったのか先ほどまで拗ねていた雪男が吹き出して笑い始めたので私もつられて一緒に笑った。こうして罪のない二つのキャンディは残念な終わりを告げた(リュウさん二つも無駄にしてごめんなさい)。

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