09
いつの間にか眠ってしまっていたようだ。目を開き、シュラに背負われていることに気付く。その隣で雪男も歩いていた。

「シュラと雪男…?」
「あぁ、なまえさん、目ぇ覚めたか」
「任務中に仲間を庇って気を失っていたんですよ。覚えてませんか?」
「覚えてるも何も、何言ってるの?兎は?お祭りはどうなったの?」
「はぁ?眠ってる間に見た夢の話ですか?」

もしかして、リュウさんの言った通り、あの悪魔の少年は時空ごと食べたというのだろうか。私は一か八か、真相を確かめるべくシュラに礼を言い彼女の背中から降りて祠のあった場所へと向かう。

「ちょっとなまえどこいくんだよ!!」
「ごめんなさい用事を思い出したので!先に帰っててて下さい、背負ってくれてありがとうございます。それじゃあ!」


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祠へ辿り着くと、そこには誰もいなかった。この場所は来たからにはお参りしておこうと思い、祠の前でしゃがみこんで合掌する。
もうリュウさんとは会えないのだろうか。彼にもう一度会って感謝の気持ちを伝えたい。けれど、雪男の様に何も覚えていなかったら…?だが何も覚えていないのにこの場所に来るはずもない。燐だ、燐なら何か知っているかもしれない。そう思い立ち、携帯をポケットから取り出そうとした瞬間、背後に気配を感じて後ろを振り向くとそこには一番会いたいと願っていた人物が初めて出会った時と同じ様に笠を深く被り、立っていた。

「リュウさん…?あの、覚えてますか?」
「自分以外に誰も覚えていない記憶があったとして、そのことに何の意味がある」

と言いたいところだが…、そう付け足すと彼は笠を頭から外し柔らかく微笑む。それを見てあの時の彼の微笑みが思い出される。一人で勝手に赤くなる頬を隠すように、付けてきたマフラーに顔を埋めているとリュウさんの手が私の顔へと近付き、マフラーを解いてしまった。

「ちょっと!寒いんですけ、ど…っ」
「もっと顔を見せろ」
「ぇ、」

リュウさんの指が顎に触れ、俯いていた私を上に向かせた。彼の顔をとても至近距離に感じ、困惑した私が何も言葉を発せないでいると、リュウさんが口を開いた。

「ここに来れば、お前に会えると思っていた。勿論記憶が残っていれば、の話だが」

私と同じことを考えていたのだ、彼も。

「覚えてますよ…絶対に忘れることなんて、ない」
「それは良かった」
「もう日本を出てしまうんですか?」
「ああ。祭りも終わったようだしな。…分かりやすい態度をするんだな、お前は。寂しいのか」
「あの、一言いいですか?お前お前って、いつも私のこと名前で呼びませんけど、私の名前知ってます?」
「知ってるに決まってるだろ、なまえ?」
「っ!」

名前を呼ばれ、そして先ほどの微笑みを再度浮かべるリュウさんに赤面が止まらない。そうか、私はこの笑顔が好きなのか。

「どうした」
「いえ、何でも!」
「まあいい。一切楽しめずに祭りも終わったんだ、台湾に戻る前に何か手土産を探しているんだが」
「手土産、ですか…それなら私いい店知ってま、」

彼の顔がゆっくりと近付いてきたと思えば唇に柔らかい感触を感じ、何が起きたのかを理解するのに時間がかなりかかった。

「なっなにするんです!!」
「フン、二回目なんだからそんなに照れることもないだろう。まあそんな顔も悪くないが」
「からかわないでください!ん?二回目…?あの時…!!」

私が水中で意識を失ってから目覚める間に彼は心肺蘇生を行ってくれた事が、あの時目覚めた後肋骨に違和感を覚えたことから伺えたがこうも実際に言われると恥ずかしさが押し寄せてくる。

「初めて会った時はどんなに厳しい事を言っても表情を変えなかった奴が数日間一緒に過ごすだけでこんなにコロコロと変えてくれるものなんだな」
「はあ…」
「それじゃあ俺は帰りの便の時間が迫っているのでな、このあたりで失礼するぞ」
「はい…」
「そんな顔をするな、台湾で増援部隊が必要になった時はお前を一番に呼んでやる」
「また何かあったら手伝いに来てくださいよね」
「約束しよう」

じゃあ。と私に背を向けて歩き始めるリュウさん。何だかしてやられっぱなしだったことを思い出し、彼の腕を引っ張り、そして襟元を掴み唇を彼のそれに押し付けてやった。
驚く彼の表情を見て嬉しく思うが、これで終わりではない。ちゃんとありがとうと言わなければ。

「私のこと助けてくれて、守ってくれて…ありがとうございました。再び会えるときまでに貴方を追い越せるくらい強くなって、次は私が守ってあげますから覚悟しててくださいよね!」
「ふっ…お前は黙って守られておけ」
「はっ!ちょっと髪ぐしゃぐしゃにしないでくださいよ!!」

わしゃわしゃと私の頭を優しく撫でるリュウさんの手が心地いい。そして今度こそ本当のお別れだ。

「まあ次会う時は睡眠と食事をしっかり取ってくれていればそれでいい」
「その節は…ご迷惑をおかけしました…」
「じゃあ、」
「はい。彼女作ったら許しませんからね」
「それはこっちのセリフだ。…元気でな」

小さくなるリュウさんの背中を見送り、私もそろそろ帰るために右足を一歩、前に出した。

「みょうじ…??」
「燐!」
「お前は、覚えてんのか…?」

「自分以外に覚えていない記憶があったとして、そのことに何の意味がある?」

「え…?」
「なんちゃって。毎回思うけど燐の秘めたる能力には驚かされるよ。それじゃあ私はこの後用事があるからお先〜」
「あっおい!…ってあいつなんか上機嫌だったな…?」


fin.
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