08
下を覗き込めば、生き残っていた幽霊電車が下層部で私たちを待ち構えていた。最悪の事態になった。兎を捕まえることも幽霊電車を倒すこともどちらも優先順位をつけらことができないほどのものなのに。
呻き声を上げながら体じゅうの目が様々な方向を見据え、幽霊電車は発進した。

「お前らは兎から目を逸らすな…!」

リュウさんは幽霊電車へと飛び移る。兎から目を逸らすなと言われたが、体が勝手に幽霊電車の方へと動いた。

「ちょっと、なまえさん?!」
「兎のこと頼んだよ!」

気付いた時にはリュウさんの後ろで幽霊電車へ銃弾を撃ちつけていた。

「…お前には兎を見張る役目があるはずだが」
「兎に三人も使うだなんてフェアじゃないじゃないですか」
「フン…勝手にしろ」

詠唱するリュウさんの後から私も唱え始める。
日本一速いとされる某ジェットコースターよりも速く進む幽霊電車は不規則に動き回るため、振り落とされないようにしがみつく。これでは片手が塞がってしまって不自由だ。なんとかしなければ、そう思った瞬間、幽霊電車は壁にぶつかり、燐たちのいた足場が崩れ始める。
なんとか他の足場へと乗り移った燐と雪男だが、燐の元へ幽霊電車が走り出す。

「燐!危ない!逃げて!!…ってうわぁ!」
「おいみょうじ!!!」

体勢を崩した幽霊電車は、私とリュウさんを乗せたまま下へと落ちていく。幸い下は地面ではなく水中だったおかげで落下時の衝撃はあまりなかったものの、このままでは溺死し兼ねない。
水の中でさえリュウさんは詠唱を続けている。が、彼は幽霊電車に掴まれてしまったため表情が硬くなる。私は握ったままの拳銃を幽霊電車へと向け発砲するとなんとか彼の体を離してくれたようで安心する。そして幽霊電車は水中から飛び出し壁をよじ登り始めた。流石に長い間水の中にいると息が苦しくなってきて私はここ最近で二度目の意識を手放すことになる。


+


肺辺りに強い力、そして唇に何かを感じ、私は目を開く。目の前にはリュウさんがいた。水中から私を引き出し、地上に連れてきてくれたようだ。

「リュウ、さん…」
「ったく、手を焼かせるな」
「…っすみません」
「とはいえお前には助けてもらったからな。これで借りはチャラだ。…立てるか」

想像以上に体力を奪われ、起き上がることはできたものの自力で立てずにいると、リュウさんが私の前に立ち屈んだ。

「えっと…」
「おぶってやると言ってるんだ。早く乗っかれ」

この歳にもなっておんぶをしてもらうことに恥ずかしさを覚えるが、今歩くことはできない私は彼の言葉に甘える他なかった。おんぶしてくれることは勿論、私を助けてくれたことも含めて感謝を述べた。大きい背中に体を預けると、軽いな。と呟いた。

「最近仕事ばかりでちゃんとした食事とれてなくて…」
「お前はまず生活習慣を見直せ」
「う…はい」

彼に運んでもらった先では、兎は燐と和解したのか少年の姿に戻っており、雪男も拳銃を向けていなかった。

「みょうじ!!無事だったんだな」
「なまえさん、大丈夫ですか?」
「…まあなんとか…リュウさんのおかげで一命はとりとめたよ」

妙な音がし、私たちは上方を見つめると巨大な影が街を覆い始めているのを確認した。
杜山さんがこちらへと駆けてくる。彼女の説明によると、街の皆には避難命令が出ている。理由は大量の魍魎が街に溢れていているせいだ。祓魔師は本部への収集もかかっているという。
きっと本部に行っても役に立たないと判断したのだろう、リュウさんは私をそのままおぶったまま燐達から離れ、安全な場所へと向かった。


「私ったら完全に足手纏いですね…はは」

自嘲気味に笑うと、リュウさんの掌が頭に乗っかった。

「そんなくだらんことを気にしている暇があるなら体力を戻せ」
「いや、流石に無理でしょうそれは!」
「叫ぶ気力があるということはもう回復し、…なんだと…」

リュウさんの見つめる先へと視線を運ぶ。数分前に見た黒いもやもやが空一帯に溢れかえる。

「これは…記憶だけじゃない…時空そのものを食おうとしている」

周りを飛び交う魍魎や黒いもやもやから守るためにリュウさんは私に覆いかぶさる。

「なっ…リュウさん何して…!」
「黙っていろ!」
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