一期一振に怒られたい



※花丸二期の三話ネタバレあり
※とりあえず怒られたい夢主。

「あいたた…」
「なまえ殿、お怪我はございませんか?」
「あ、はい。大丈夫です」
「それならよろしい」
「はあ…」

一期さんがこの本丸へと顕現して早六ヶ月。結構仲良くやれていると自負している。彼は大勢の弟を持つしっかり者の兄であり、弟の誰かが悪さをすると多少は叱ったりもする。
どうしてかは分からないが、私も怒られたい、と最近思うようになった。怒られるのであれば何でも良い。激おこぷんぷん丸だろうが弟への優しい口調のお叱りでもなんでもござれだ。……私って実はMなのか?
私だって本当にしてはいけないこととまあ許容範囲であろうということの区別は流石についているので、後者の悪さだけすることをモットーにここ一週間は一期さんの前でだけ悪戯や怒られるようなことをしてみたのだが全く期待通りの結果は出なかった。

そして冒頭に至るのだが、今回は故意ではないのだ。初めから説明しよう。皿洗い中に考える事ではないのだが、『もう一期さんへの悪戯のネタが尽きた。どうしよう、もう後がないぞ』なんて側から見れば理解不能な焦りを感じていた私はすっかり意識が飛んでいて、お皿を落として割るという失態を犯してしまったのである。
悪気はなかったけれど、これなら怒ってくれるのでは。と淡い期待を持った私が馬鹿だった。こんなことで怒るのであればもう一週間も経つはずかない。

-

皿洗いを終え、主へお皿を割ってしまったことへの謝罪も終えた私は三畳ほどの部屋で鯰尾くんと骨喰くんがこたつに入ってみかんを食べているところを目撃したので突撃することにした。

「ねえねえお二人さん」
「あっなまえさんだー!みかん食べます?」
「あー、みかんはいいや」
「…どうかしたのか?」
「いい質問ですねえ」
「うわあそれ池○さんの台詞じゃないですかー!」
「私に使ってもらえて彼も喜んでると思うよ」
「や、それは無いでしょ…むしろ使用料払うべきじゃないですか?」

骨喰くんは無口な子だが悪い子ではないし、鯰尾くんは明るく人懐っこい為、彼に会うと話がはずむのは毎回のことだ。そしていつものように会話が盛り上がってきたが、本来の目的を忘れかけていたので軌道修正すべく、一期さんは何をしたら怒るのかを二人に尋ねてみた。

「うーん、思いつきませんねえ」
「俺もだ」
「ですよねえ。二人とも悪いことなんてしなさそうだしまず怒られないわな」

収穫はなし。だがこんなしょうもない問いかけに真剣に応じてくれた二人に感謝しつつ、短刀ちゃん達の元へと向かった。

「いち兄を怒らせる?」
「いち兄にあんまり怒られないからなあ」
「そうだな」
「怒るっていうことに入るか分からないけど、優しく『こら、駄目だろう?』って言われるときはあるよね」
「大体なんでなまえさんはいち兄に怒られたいの?」
「…なんとなく?」
「なんとなくでいち兄に怒られていいのかよ…怒ったらめっちゃ怖いかもしれねーぞ」
「そうですね、いつもは優しい人ほど怒るとおっかないとよく聞きます」
「泣かされちゃうかもね??」
「あんまり下手なことはすんなよー?」
「はい…善処します」

まとめ。短刀ちゃん達も一期さんの沸点が分からないらしい。兄弟でも分からないのなら他の刀も分からないだろうということで諦めかけていたその時。

「わっ!!!」
「…なるほど、そうか!!ありがとう鶴丸さん!」
「…??驚い…てはなさそうだな…っていうか走ってどこへ行くんだ?!」

そう、鶴丸さんは一期さんだけではないが他の刀にもよく驚きをプレゼントしているのだ。この前一期さんが鶴丸さんに少しだけ怒っているところを見たのできっとこれなら…。
真似をするならまず形から、と言うので、鶴丸さんの元へと超特急で戻り、出陣の時に着ている白い羽織を拝借した。

-

「わっ!」
「…鶴丸殿、そろそろいい加減に、…ってなまえ殿ではありませんか」
「驚きました??」
「ええ、まあ」
鶴丸名義(?)では怒られかけたが私名義では怒られなかった。自分から望んだとはいえやはり自分へ怒りの眼差しを向けてほしいのだ。なんてわがままな女なのだろうか、私は。
私がどんなに頑張っても(頑張る目的はまあ置いといて)一期さんは怒ってくれないというのに鶴丸さんの「わっ」だけで怒るなんて…少しだけ鶴丸さんに嫉妬した。

そんなことを考えていると、中庭の辺りが何やら騒がしいことに気が付き、中庭の方へ視線を移すとなんと木の枝に五虎退くんの虎くんが怯えて捕まっているという驚きの光景が目に入った。

「なまえ殿急にどこへ?!」
「と、虎くんが!!」

一期さんの制止も聞かず、一目散に木を登り虎くんを抱きかかえ、肩車を通して小狐丸さんの上に乗っていた石切丸さんへゆっくり渡すも二人はバランスを崩し、倒れてしまう。石切丸さんの腕を掴んで倒れるのを止めようと手を伸ばしたのがいけなかったようでそのまま引っ張られて私も地面へと落下していく。
ああ、痛いんだろうなあ。目をぎゅっと閉じて痛みを待ってみるがいつまでたっても痛みを感じない。それどころか一期さんにいわゆるお姫様抱っこというものをされているではないか。

「何を考えておられるのですか!!木に登ったあとの事はちゃんと考えていたのですか?私がいなければどうなっていたことか」
「…っ」
「…!な、泣いていらっしゃるんですか…?も、申し訳ありません。少し言い過ぎま、」
「いや、う、嬉しくて…」
「…はあ?」
「お、怒ってもらえたから…」

今まで何度もちょっかいを出したり怒られそうな事をしても怒ってもらえなかったから、怒ってもらえたことが嬉しかった、と嗚咽を交えて説明した。なんて馬鹿なことで泣いているんだろうか。一期さんも幻滅しただろう。いっそ刀解してくれ。

「はあ…心配せずとも私は今大変怒っていますが」
「あ、今さっきの虎くんの事は怒られるためにやったわけじゃ、」
「その件については分かっております」
「ですよね、あっさっきのお皿のことですか?あれもわざとじゃ無いですよ?」
「…物分かりの悪いお人ですな」
「?」
「…私は、鶴丸殿の羽織を着ていらっしゃることに原綿が煮え繰り返りそうでした」
「!」

一期さんの言葉に頭がまだ追いつかないが、縁側に座っている三日月さんが『よきかなよきかな』と呟いていたことだけは分かった。
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