好きの大きさが他人の目からも量れたらいいのにと黄瀬は思っている。それは単純な理由で、意中の相手の自分に対する好きの大きさが目に見えていたら分かり易いからというものだった。黄瀬と青峰は所謂恋人同士というものなのに、そんな雰囲気を一切出していない。出しているのは黄瀬だけで青峰はいつだっていつも通りなのだ。それが黄瀬はとても不安だった。こんなにも好きなのは自分だけではないのかと。確かに自分たちは恋人同士で、手も繋いだしキスだってした。それ以上のことも――。けれどそれは本来男女間でやるものなのだ。付き合うのだって男同士は普通ではない。だから黄瀬は不安だった。青峰が本当に自分のことを好きなのかもわからなかったし、そもそも自分には女の子のような可愛さもその要素も一切持っていないから。
 好きの大きさが他人の目から量れたらいいのに。
 そうすればきっと黄瀬は青峰の本心を知ることができる。自分のことをどう思っているのか、それこそ手に取るようにわかることができる。
「けれど、黄瀬くんが青峰くんの本心を知りたいのなら、本人に直接聞いた方が早いと思いますよ」
 そう言ったのは黒子だった。黒子の言うことは正しい。でもだからといって青峰に自分のことをどう思っているのか直接聞ける自身なんてものは黄瀬は持ち合わせていなかった。
「そうっスけど…でも…」
「黄瀬くんは青峰くんのことになるといつも自信がありませんね」
「だって仕方ないじゃないスか!」
「もっと自信を持ってもいいと、少なからず僕はそう思います」
 自信なんて持てない。持てるはずがない。確かに自分の容姿は少なからずいい方の部類にはいるのだろう。今まで多くの人にこの容姿を好まれてきたし、羨まれてきたからそれくらいはわかる。でも、容姿だけだ。中身は至って周りにいる男子たちとさほど変わらない。そんな自分のどこに自信を持てと言うのだろう。黄瀬はわからなかった。
 確かに黒子なら青峰に好かれている自信はあるのかもしれない。なんてったって二人は以前相棒で、好敵手で、お互いのことをきちんと理解し合っている。中学の頃からずっと黒子のことが羨ましかった。そう、黄瀬は黒子のことを欲望の眼差しで見ていたのだ。そんな黒子に黄瀬の気持ちがわかるはずがなかった。しかし、黄瀬の悩みに真摯に答えてくれるのは黒子しかいなかった。だから黒子に頼った。黄瀬は黒子のことを欲望の眼差しで見ていたけれど、別に黒子のことが嫌いだったわけではない。寧ろ好きの部類にあてはまるくらいだ。それでも自分が黒子だったらと黄瀬は考えてしまうときがあった。自分はいつだって青峰の隣には並べず後ろから見ているだけ。憧れているだけ。憧れるのはもうやめるなんて言ったって、心のどこかではきっとまだ憧れているのだ。黄瀬と違って黒子は青峰の隣にいつだって並び立っていた。少なくとも黄瀬にはそう見えていた。だから羨ましかったのだ。自分とは違い、青峰の隣に並んでいた黒子のことが。
 こんなもの、ただの嫉妬だ。そんなことは自分が一番わかっている。嫉妬なんてものはなんて醜いんだろう。黄瀬は自傷気味に笑えば黒子は大丈夫ですかと心配をする。心配をされればさらに心が痛むわけで。どうして自分はこんな人間なのだろうと、心にグサグサと何かが突き刺さる。本当は自分なんかよりも青峰の恋人に相応しい人間がいるはずなのに。例えば、いつも青峰のことを心配していて、それでいてもいつだってそばに居続ける桃井とか。桃井が青峰に恋愛感情がなくなっていつまでもそうかと言われれば確信は持てないだろう。だから、怖いのだ。不安になるのだ。一人でこうして考えていたって無駄なのだけれど。
 黒子の心配に大丈夫っスといつも通りの笑顔を無理矢理浮かべる。ちゃんと笑えているのだろうか、いつものように。ううん。笑えているはずだ。だって自分はモデルの黄瀬涼太。笑顔を作るのにはなれている。だから、大丈夫。そう思い込む。黒子と別れれば青峰との二人の時間がやってくる。心臓がやけにうるさくて、青峰と二人になるといつもこうだ。二人でなければこんなに心臓がうるさくなることなんてないのに。ドキドキドキドキ。いつまでたってもなり止む気配はない。それに比べて青峰はいつもと同じ様子で、やはりこんな気持ちなのも自分だけなのかと落胆する。
「青峰っちって何で俺と付き合ってるんスか?」
 言ってしまったと気が付いたのは言い終わってしまった後だった。別に言うつもりなんてなかったのに。今さら何か口にしたってどれも青峰には言い訳のように聞こえてしまうのだろう。黄瀬はどうしよう、どうしようとそればかり考えていた。
「は? んなの好きだからじゃねーの」
 青峰はぶっきらぼうな口調で答える。至極当たり前のように。
「俺もっス!」
「いきなり変な質問してくんじゃねぇよ」
 えへへと笑えば気持ちわりぃぞと毒を吐かれた。それでも黄瀬はモデルとは思えないだらしない顔で笑い続ける。青峰は黄瀬の心中なんて一切察していない。それでも黄瀬の欲しかった言葉を、求めていた言葉を当たり前のように捧げる。今日はこれからどこへ行こうかと二人で並んで悩みつつ、どうせまたマジバだったりするのだろう。それかバスケをしにどこかバスケができそうな公園へ。青峰と黄瀬のデートなんていつもそんなものだ。デートらしいことなんてごくまれにする程度。それでも幸せだと笑う黄瀬を、いろんな人にもっと貪欲になってもいいんじゃないかと言う人は少なくない。黄瀬はそれでもこれ以上を望んだりしないのだ。青峰と付き合えるだけで幸せだと、自信を持って言うことができたから。
「青峰っち! 今日の1on1で俺が勝ったら今度のデートは全部青峰っちの奢りっスよ!」
「何バカなこと言ってんだよ。俺が負けるわけねーだろ」
「やってみなきゃわかんないじゃないスか」
 マジバで腹ごしらえをしてから近くの公園へ向かう。誰もいないことを確認してから手を握れば青峰は握り返す。自分からやったくせに顔を真っ赤にして恥ずかしそうにする黄瀬を青峰はかわいいとぼやく。その言葉に黄瀬はさらに顔を赤くするだけなのだけれど。
 1on1で勝てたらどこへ連れてってもらおうか。黄瀬の頭はそれだけでいっぱいになっている。青峰の好きの大きさは充分量れた。もう自分の好きの大きさは青峰に伝わっているのだろう。今日も幸せだ。
「青峰っちだいすき」
「知ってる」

愛されたい明日/150201



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