◇前書き◇
たった一度きりの邂逅。
―――
この星で何を望むというのだろう、『空から来た災厄』は。
「この星の神となる」
そう言った貴方の創造する世界は、どんな世界?
人は生きられるのだろうか。
もし、私達がセフィロスを止められなかったら、その世界は現実のものになる。
私達が諦めない限り、永遠に訪れることのない『楽園』…皮肉にも思える。こんな、たったひとつの願いも叶わない、そんな世界に何の価値があるの?そう簡単に絶望した事だってあるのに。
貴方が知りたい。
何を夢見ているのか、その夢を見てみたい。
絡みつくような貴方への好奇心。いつしか身動きがとれなくなるまでに、貴方の事ばかりを考えるようになっていた。
私は今、天秤にかけようとしている。
この扉を開ける事で。憎しみと、愛とを。
今まさにドアノブにかけようとしている手が震えている。
この扉を開けてしまえば、何かが必ず起こる。それは良いことだとは言えない、ただ不吉な予感。恐怖をあおる気配。
目をかたく瞑り、静かに覚悟を決める。
震える手を止めるように、ドアノブを力強く握った。いつの間にか冷えきっていた手には、ドアノブの冷たさなど気にならなかった。
彼を誘ったのは私だ。
クラウドと共にライフストリームに落ちた時、今なら届くかも知れない、何となくそう思ったのだ。
暗闇に呼びかけている内に、彼は私にチャンスをくれた。
アイシクルロッジ、村の片隅にうち捨てられた廃屋。与えられたイメージだけを頼りに、パーティに無理を言って此処へ来た。酔狂なことだけれど、何故か確信出来た。
今は北の大空洞で眠れる彼の人は、私を招いたと。
空を見上げれば、厚い雲がたれ込める。雪が降るのだろうか。
意を決したように勢いよくドアをあけると、またすぐにドアだった。
寒い地方独特の知恵、2重の扉。ティファは少し気が抜ける、さっきの自分はどれだけ真剣な顔をしていたろうか…おかしくて想像したくない。
『落ち着かなきゃ…』
むざむざ殺されに行く訳ではない、もしそうなったとしても、この緊張は少しいきすぎだ。かと言って、早鐘を打つ鼓動を治める術は無いのだけれど。
少し深く息を吸い込む。
カチャリ、と再びドアを開けると廃屋の中は静まりかえっていた。
持参したライトをつけ、ドアを閉めた。
人が住まなくなってあまり日が経っていないのか、室内は少し埃っぽいものの綺麗なものだ。
『寒い…』
今更のように寒さを思い出し、ティファは暖炉とおぼしき側へ行く。ちょうど薪が積んである、これだけあれば一晩持ちそうだ。火掻き棒で暖炉に残った灰を適当に寄せ、薪を積み、薪からとった木皮に火を着けた。
『マッチ貰ってて良かった』
先程寄った宿屋のロゴがプリントされた紙のマッチ。火薬の匂いは好きだ。
火が落ち着いたのを見計らい、毛布を求めて室内を見回す。適当なドアをあけるとそこは寝室だったようでベッドがあった。クローゼットをあけると毛布が畳んで重ねてあったので、2枚拝借することにした。1枚はラグマットに。
暖炉の前に腰を落ち着け、持参したライトのスイッチを切る。
まだ勢いよく燃える暖炉の炎は、あの日コスモキャニオンで囲んだ炎を思い出させた。
あの時もこうやって自分の気持ちを確かめた。
私はセフィロスに会いにきた。
揺らめく炎が虚ろな瞳をさまよう。ぐらぐらと揺れる様は自分を表しているようだ。
セフィロスは殺したのだ。
私のパパを、エアリスを。村の皆を。クラウドを、私を傷付けた。
何を迷っているんだろう。復讐、願うのはそれだけなのに。
「どうかしてる」
好奇心や興味を持つなんて。彼に同情などしてやれる余裕なんて無いはずなのに。
いつからだろうか。言うならば、最初から、なのかも知れない。
覚えている。ニブルヘイムに『英雄』がくるのを密かに喜んだ事。新聞に踊る活躍を伝える記事をそのまま信じていた。そして実際に見た時の衝撃…なんて冷たい瞳、…なんて美しい人。
その幻想は束の間の夢を見せたあと悪夢に変わる。
そして未だに続く。多くは私が望んだ事でもあるけれど。このまま終わりにするのは嫌だった。
夢を終わらせたい。
貴方の死をもって。
だけど、そう願うには何かが曇るのだ。
これは『赦し』なのだろうか?
それを確かめたい…
暖炉にくべられた薪のはぜる音。
「…目覚めたか」
「!」
セフィロスの声に飛び起きる。いつの間にか眠ってしまった様だ、我ながら呑気なものだと呆れる。
とっさに身構えたものの、当のセフィロスは何の気もなしに暖炉の前でくつろいでいる。ということは、今までセフィロスの側で眠りこんでいた?呑気にも程がある!自分を腹立たしく思いながら様子を窺った。
「…話をしに来たんだろう?」
セフィロスの一言で目的を思い出した。
「…そうね」
ティファは気を取り直し、少し離れたその場所に座った。
「今夜は冷える、火の側に寄れ」
「…貴方がいるもの」
「…」
適当な枝を折り、火に放るセフィロスは殺気や威圧感などがまるでない。今まで見たセフィロスとは別人のような穏やかさ。その横顔から窺う瞳には憂いさえ感じた。
「貴方は世界をどうしたいの?」
口をついた言葉。一番知りたい事だ。
「世界…か。その言葉でくくるには質問が正しくはない」
「?…じゃあ『星』?」
セフィロスは横顔で笑った。
「貴方は星をどうしたいの?」
パチン!
炎の中で薪がはぜる。
空中に舞い、すぐに消えた火の粉を見届けると、セフィロスはゆっくりと目を伏せた。
「ジェノバの思し召すままに」
静かに言ったセフィロス。その醒めた横顔が、ティファは急に腹立たしくなった。
違う違う違う!
そんな答えなど意味がない!
ティファは衝動的にセフィロスの肩を掴んでいた。
「私は『貴方』が知りたいの!ジェノバなんかじゃない!」
セフィロスの冷たく、虚ろな瞳がティファを映す。ティファの表情は、悲しそうで、悔しそうで、怒りで弾けそうで。
「『貴方』はどこ?」
ジェノバに上塗りされたかのような、その心。
ティファの揺らめく瞳がセフィロスの精神をサルベージするかの様にさまよっている。
セフィロスはその瞳に暴かれたいとゆう気持ちのままに、ティファに唇を寄せる。
「!」
反射的にティファは離れた。
「そんなつもりない…」
ポツリと呟くティファは今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「何故私にこんな機会をくれたの?」
少し離れた場所で膝をかかえるティファが呟いた。
「…私にもよく分からない。ただの享楽と思ってくれ」
セフィロスの言葉にティファは少し微笑む。
「私は貴方を許せない。だけど許したい気持ちもある…複雑なのよ」
「…そのようだ」
「だから、このまま貴方に挑むことに躊躇ってしまったの。確かめたかったの」
「…答えは出たのか?」
「より複雑になってね」
ティファは呆れた様に笑った。
「変よね、命のやり取りをするような敵とこんな状況…」
「まぁな。しかし、いずれは決着がつくのだろう…お前達はそこまで辿り着いた」
「…そうね」
お互い、譲れない思い。
相容れない望み。
全てを賭けた戦い。
貴方は亡霊よ。
セフィロスの顔をしたジェノバ。
ジェノバに支配されたセフィロス。
どちらにしても。彼の人の真意は北の大空洞で眠っている。
この、暖炉の前で穏やかな顔をしているセフィロスも幻にすぎない。
全ては終わった事なのだ。
そして、終わらせなければ。
「吹雪が止むまで此処にいるわ」
「…朝には止むだろう」
セフィロスは毛布をティファの肩にかけた。
全ての始まりには、全て終わりがある事。
日溜まりは遠いだろうか。
-Fin-
―――
◇後書き◇
セフィロスの性格って取ってつけた様だなー、と。いきなり「母さん」とか意味分からん。神羅屋敷でジェノバ関連の情報を知ったとしても、あそこまで豹変するか?その前に知った『自分は特別だと思ってたけど、モンスターと同じように作られた』もショックだろうけど…自分が特別とか…よっぽど自意識過剰っつーかプライド高かったんだなぁ。
んで、プライドを埋め合わせるようにジェノバにすがった風に見えるんですよね…。こうやって書くと小せぇヤツだ(汗)
だけど物語を鑑ると全てがセフィロスの意志とは言えなくなってきますよね。クラウドの精神に影響してたように、セフィロスにも同じ事が言えるんじゃないかな…と。個人的には全て自分の意志で行動してて欲しいのですが。
あり得ない話ではないかな、と考えてみました。
セフィロスの精神体にもクラウドと同じように『本当の自分』なるものが居たらなぁ、と。で、ティファの呼びかけに反応して出てきたと…この話のセフィロスはその『本当の自分』。もう色々諦めてて静観決めこんでます。だから「ジェノバの思し召すまま」だなんて皮肉を言ってしまうんです。で、『終わり』を願ってる。
ティファはそんなこと全然気付かないけど、このセフィロスに会うことで迷いを捨てる。「貴方を殺す☆」なんて本人の前では流石に言えないのですが(笑)
この解釈はもっと掘り下げられそうです。
あ、場所がアイシクルロッジなのは大空洞に近いから精神体も楽かな、とゆうだけで深い意味はないです(笑)
あ、あと今気付いたのですがセフィロスの目的って星間を旅することでしたっけ?それはDCの宝条だっけ?アカン、またゲームせねば。間違っていたら御免なさい。
ここまで読んで頂き有難うでした☆