◇前書き◇
少女漫画的はわわ…☆なノリで読んで下さいお願いします。お願いします。

―――

定員オーバーだからと添乗員に言われて、一人残されたゴールドソーサーのゴンドラ乗り場。
やむなく次の便を待つ事になり、ティファは暇なので何となく携帯電話を取り出した。
ゴールドソーサーの真下にはコレルプリズンが存在している事もあり、電波は全て妨害・傍受されているらしい。携帯は圏外になっていた。
「…ふぅ」
先程クラウド一行と別れる際に交した会話。
私はいいから先を急いで。
パーティを組んでいたケット・シーを一人にする訳にもいかず(スパイ監視の為)、正しい選択をしたと自負する。だが、少しティファは複雑な気持ちでいた。
「定員オーバーだって…何よ、ツいてない」
携帯電話をベルトに通したウエストポーチにしまい、モーグリを象った待合室に入る。
「早くゴンドラ来ないかな…」
ティファは軽く溜め息をついて、時間を持て余した。


―ポーン♪
機械音が待合室に響いた。ゴンドラが着いたのか、ティファは立ち上がり放送を待つ。

「お客様に申し上げます。ゴンドラの故障により、本日の便は全て運休とさせて頂きます。大変ご迷惑をおかけしますが安全の為ご了承下さい。繰り返します…」



「………、嘘……」

唖然とするティファには、抑揚の無いアナウンスがやけに冷たいものに思えた。
「尚、復旧の見通しは明日朝になります。ご相談は受付カウンターにてお受けします。」


どうしよう…
ティファは深々と溜め息をついた。

ティファは予期せぬ災難に焦り、待合室を出てすぐにあるセーブポイントに急いだ。唯一の電波が届く場所だからだ。

再び携帯を取り出し、アンテナを確認する。
繋がる様だ。早速ティファは、先程パーティを別れたばかりのクラウドに電話をかけた。

「…」
受話器の向こうでコール音が続く。出る気配は無い…。
『戦闘中…かしら』
ティファはタイミングの悪さに少し落ち込むと、留守電にもならない通話を諦めた。
―ピッ
「そうだ、皆にも一応知らせとかないと…」
電話を切った後に思い立ち、再びダイヤルを押す。
まずはサブリーダー的ポジションのシドに。
「………、繋がらない」
次にバレットに。
「………、?」
次にエアリスに。
「………、何で〜!」
皆、揃って電話に出ない。ティファは何だか馬鹿馬鹿しくなり、少し腹を立てながら携帯をしまった。
「もぅ!皆何やってるのよ〜」
仲間のタイミングの悪さもさることながら、今の自分の状況も悲惨だ。
ティファは絶望にも似た呆れた面持ちで、とりあえず待合室に再び入った。
はっきり言って、相当嫌な状況だ。
無限入場パスであるゴールドカードはクラウドが持って行ってしまったし、通貨であるGPは無論、ギルでさえ持ち合わせがない。
「こんな所で一夜を明かさないといけないなんて…」
ティファは待合室を見回しながら頭を垂れて、また深々と溜め息を吐いた。

そうだ。

先程の放送の内容を思い出し、ティファは抱えた膝から顔を上げた。
『受付カウンターからGPとか照合出来ないかしら?』
思い立ってはみたものの、それは犯罪だと直ぐに気付く。
「いけないッ!」
独り言で突っ込んでみる。ああ、何て無駄な時間。ティファはのろのろと立ち上がると、受付カウンターに向かう事にした。
「こんな所に居るより、かけあってみる価値は有るわよね!」

「はい、帰宅困難者の方にはこちらで宿泊ホテルをご用意させて頂いております。」

「本当ですか!?」
ティファは不安から解放され、笑みをこぼした。
「はい。ゴンドラの故障は当方の不備ですので…誠に申し訳御座いません。では、こちらに御記名下さい」
「はい」
差し出された真っ白な記帳にすらすらと名前を書く。
「…ティファ・ロックハート様、ですね。では直ぐにお部屋を手配しますので、このパスをお持ち下さい。ルームナンバーはゴーストホテルでご案内します」
「はい、じゃあ…有難う御座いました」
受付嬢からカードパスを受け取ると、ティファは早速ホテルに向かう事にした。
『良かった〜!危うくあんな不用心な所で野宿する所だったわ』
これで追い帰されでもしたら…暴れてたわ。ティファは物騒な考えを打ち捨て、颯爽とターミナルフロアへと入って行った。

真っ白な記帳、その意味に気付くはずもなく。
ゴーストホテルに着いたティファが通された部屋は何と最上階、堂々のスペシャルスウィートだった。
「え〜…」
普段泊まる部屋の、アトラクションの一環である陰湿な空気や悪趣味な家具が苦手だったのだが、明らかにこの部屋は違った。
黒光りするアンティーク家具、装飾の美しい銀縁の鏡、赤いベルベットのソファ、繊細な刺繍も施されたモールカーテン。
まるで中世、貴族のサロンの様だ。もしくは上品で、美しい吸血鬼の砦。
ティファは昔読んだ小説を思い出しながら、部屋を眺め回した。

「………、何かの間違いでしょう」

ティファはフロントに通じる電話を手に取った。
『ただの帰宅困難者にこんな扱い…絶対変だよ!』
受話器を耳に、コールする。間もなく向こうが電話を取った。
「はい、フロントです」
「あ、あの、先程部屋を手配して頂いたロックハートですけど。」
「はい、いかがなさいましたか?」
「失礼ですけど、どなたかとお部屋を間違えてませんか?」
「何か不都合でもございましたか?」
「いえ…あの。ただの一般人ですし…こんな豪華なお部屋を用意して貰わなくても…」
「只今確認しましたが、そちらで間違いございません。ルームサービスも無料にてご利用になれます」
「…、そうですか…いえ、有難う御座いました」

―カチャン

「…」
受話器を置いて、ティファは暫く考え込む。疑わしい状況に警戒するも、それは雲を掴む様とりとめのないもので。

とりあえず、暫く様子をみる事にした。
「とりあえず…皆に連絡しないと」
ティファは携帯電話を手に取った。画面を見る限り、繋がる様だ。
まずはクラウドに電話をかけてみた。
「………」
やはり繋がらない。
次にエアリスにかけてみる。
「………」
出ないか…、諦めて通話終了ボタンを押そうとした時、
「はいは〜い」
と、何とも陽気な応答があった。
「あれ、ユフィ?」
「お、ティファ?どしたの」
「どうした、じゃないわよ〜皆電話でないんだもの!」
「あ〜ゴメン、ちょっと今忙しくてさ〜」
「それより、どうしてエアリスの携帯を?何かあったの?」
「ぃや〜…何か酒呑んで寝てるよ」
「ええ!?」
「ブーゲンハーゲンの爺さまと気が合っちゃったみたいでさ〜…バレットとシドのオヤジ共と騒ぎ倒してたんだよ〜」
「…………エアリス」
「でさ、今から運ぼうかと思ってるとこ。ティファ〜早く帰ってきてくれよ〜ヴィンセントも抜けてるし、歯止めが居ないんだよ〜」
受話器の向こうから大仰なユフィの溜め息が聞こえた。
「そうしたいんだけど…、今ね、ゴールドソーサーに閉じ込められてるの」
「は?何ソレ、何かあったの?」
「ゴンドラが故障しちゃったみたいで…。クラウドにも伝えといてくれる?さっきから繋がらなくて…、あ、明日の朝には復旧するみたいだから」
「分かった。早く帰ってきてね」
「うん、ゴメンね。皆の事よろしく」
「はぅ…アタシには荷が重すぎだよ…じゃ、切るね」
「うん、じゃあ」

―ピッ


エアリス…


『連絡も済んだし、やることないし…たまにはのんびり寝ちゃおうかな』
ティファはキングサイズの天蓋付きベッドに腰掛けた。
体重を受けて、柔らかく沈むマットにティファの足が浮いた。
「わっ、柔らか〜い」
そのまま寝転んで、天蓋の装飾を眺める。そこには晴天の絵画があり、暫くそれを眺めた。

ミッドガルでは見れなかった空。
ニブルヘイムでは眺めてばかりいた空。
ティファはそっと目を伏せた。

「お風呂…入ろうかな」
そう思い立ち、ティファはバスルームへと向かった。


全く、スペシャルスウィートとはこうも贅が尽されているのか。
大理石の美しい浴槽に金のシャワーコック、入浴剤の代わりと云わんばかりの大量の薔薇が洗面台を埋め尽くしている。
ティファはそれらにまた唖然としながらも、浴槽にお湯を溜めだした。
「すごいな〜…」
縁に腰掛けて、室内を見回す。薔薇の香りが何とも優雅な雰囲気にさせる。
『ツいてないと思ってたけど、ちょっとこれはラッキーかも』
湯加減を見て、ティファは服を脱ぎ始めた。
あまりに広い部屋なので警戒心も湧く。
ティファはソファの背に脱いだ服を掛けると、そそくさと浴室へ逃げる様に走って行った。
「あ…」
浴室のドアに面した、洗面台の巨大な鏡。それに映る自分と目が合った。
少し湯気で曇ってはいるものの、自分の裸身にティファは赤面した。
目を反らし、さっさとシャワーを浴びてバスタブに沈む。何だか妙な恥ずかしさに、ティファは膝を抱えた。
あまり自分が女だと明確に意識しない内は、自分の姿に軽いショックを受ける事がある。
まだ幼さを捨て切れないティファに、その大人の身体は些か不釣り合いなのだ。
ティファは先日作ってしまった膝の擦り傷を指先で撫でた。



「ふぅ〜…」
バスタオルを体に巻いて、お風呂から上がったティファは備付の冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出した。
封を開けて一口飲むと、ガウンか何か無いかとクローゼットを開けた。
「わぁ…」
何故かドレスがぎっしり入っている。赤、黒、青…と様々で、どれも高そうだ。
何の嗜好かしら…とティファはいかがわしく思いながら物色する。
すると、それらに追いやられる様に隅のハンガーに掛った白いドレスが目についた。
生地は柔らかく、サラサラとしている。
「これかな…」
取り出してみると、丁度、袖の無いシルクガウンの様なドレスだ。ティファはそれを着る事にした。

―コンコン

丁度ドレスを着終わった時、ドアをノックする音が部屋に響いた。
「?、は〜い」
「ルームサービスです」
ドアの向こうから応答する声、その内容にティファは眉をひそめた。
「あの…頼んでません」
「いえ、こちらは当ホテルのサービスですので」
「…」
引き下がらない様子にティファは軽く溜め息を吐くとドアのロックを解除した。
ドアを明け放ち、入室を促す。
「どうぞ」
「失礼します」
入室したボーイが押すワゴンの上には、何とも贅沢な品々が乗せられていた。
『うわ…サービスって』
ボーイは躊躇せずに、まだティファが開けずにいたドアに手をかけた。
そこには豪華なダイニングテーブルがあり、ティファは目を丸くする。
『これは…流石スペシャルスウィート、後で探険しなきゃだわ』
淡々とボーイがテーブルの上に豪華な食器や料理を乗せていく。テーブルの中央に置かれた銀の大杯、それに盛られたフルーツは宝石の様だ。
並べ終わったらしいボーイはティファに一礼すると「ごゆっくり」と言い、軽くなったワゴンを押して去って行った。
「…」
食事は有難いけれど、あまりに豪華すぎて逆に警戒してしまう。
ティファは用意されたテーブルを一瞥すると、そっとドアを閉めた。
『今はいい…』
それよりも眠りたい。ティファはベッドルームに真っ直ぐ向かうと、ベッドに転がった。
「ふぅ…」
安堵の溜め息が出る。ティファはそのまま、眠りへと堕ちていった。



「ん…」


苦しい…


「ん、んぅ…」



「んッ!!」
息苦しさに耐えきれなくなり、ティファは目を覚ました。
夢を見ない程に深く眠っていた為に、それは不快感を伴う目覚めだった。

「え…」
寝惚けているのだろうか?

「ようやく目覚めたか」
目に映ったのは、あの
ルーファウス・神羅

「!!、何で…」
ティファは状況が今ひとつ理解出来ないまま体を起こそうとした、が、ルーファウスは腕と肘を使って肩を押さえつけた。
「放し…てッ!」
「…全く、間の抜けた奴だな」
「何よ!」
「…、気付かなかったのか?」
「…」
「普通不審に思うだろう。…まぁいい、こうしてお前はここに居るのだからな」

ルーファウスは含みのある微笑を浮かべると、ティファの唇に自分のそれを押し付けた。
「んッ!?…んーッ!」
頑に侵入を拒む唇をルーファウスは器用に割り、その奥で逃げ惑う舌を絡め取った。
「〜ッ、何するのよッ!」
激しいキスの隙を狙い、ティファは叫ぶ。
ルーファウスは至近距離で張り上げられた声に眉をひそめると、やれやれ、と言った風にティファから体を起こした。
「ふぅ…興ざめだな」
「な、何よ!」
ティファを跨いでいた足を上げ、ベッドの縁に腰掛けると、ルーファウスは前髪をかきあげた。
「休暇だ」
「…?」
「間の抜けた奴だな」
「何よ、もう!」
ティファはルーファウスから距離をとり、乱された服や髪を整えながら頬を膨らませる。
そんな様子を横目にルーファウスは微笑むと、立ち上がり、ソファへと向かう。
「お前はまだ…理解していない様だな」
ベッドに残されたティファは警戒体勢はそのままに、ルーファウスの言葉を待った。
ティファのその姿勢にルーファウスは快く思うと、赤いベルベットソファに深く座った。
肘掛けに両肘を置き、腹の辺りで手を握り合わせる。悠長に足を組み、ティファを威圧する姿は権力者そのものだ。
「以前からお前を気にかけていた。今回の事は全て罠と言う訳だ」
「…」
「こうでもしないとお前とはゆっくり話も出来ないからな…クラウドにも困ったものだ」
「…話、って何?」
「急ぐな。まずは食事でもしようか…食べてないだろう?」
「…」
ルーファウスはまた、あの含み笑いを浮かべると颯爽とダイニングルームへと向かって行った。
ティファは警戒しながら、おずおずとダイニングルームに入る。
ルーファウスがテーブルの側でワインを開けようとしている所だった。
「…」
似合うなぁ…、など悠長な事を思う。
綺麗な顔立ち、クラウドより少し濃い色の金髪、青い目。高いプライドに釣り合う力。
そう言えば、プレジデントに比べて全くスキャンダルが無かった事を思い出した。
こんなに綺麗なら、婚約者でも居そうだけど。
「どうした?」
「え…」
「まだ寝惚けているのか?」
ルーファウスは笑いながら、ワインのコルクを抜いた。
「…何でもないわ」
「…、座れ」
ルーファウスに促され、ティファは素直にテーブルについた。
ルーファウスはティファの傍らに立つと、慣れた手つきでグラスにワインを注ぐ。
「料理はセルフサービスだ」
「…」
ティファの向かいに用意された席にルーファウスはつくと、ワイングラスをティファに傾けた。
「今日のこの時に」
そう囁くと、ルーファウスはワインを含んだ。
乾杯に応じる気も無かったティファは、遅れてワインを含む。あまり美味しいとは思えなかった。
目の前に置かれた料理を見ると湯気がたっていた。眠る前に運ばれた料理とは違う様だ、ルーファウスの周到さが窺える。
「…」
ティファは無言で料理を口に運んだ。
確かに美味しいけれど、向かいに座る人物の事を意識すると素直に堪能する事すら出来ない。
彼の様子は、また優雅な手つきで食事をしている。料理を口にするもあまり楽しそうではない。
作業の様だと、ふと思った。
『食事をする時は、みんな笑ったりするのにな…』
職業柄もあってか、ティファはそんな些細な事を気にかけた。

「どうした?」
「えッ…」
急に話しかけられ、ティファは少し肩を強張らせた。
ルーファウスはグラスをかざしてティファを見る。長いテーブルの先に居る、警戒したティファの姿をグラスに重ねた。
ルーファウスの目に、グラスの中でワインに浸るティファの姿が映る。そのダークレッドの色はティファによく似合っていた。

「…、話をしようか」
「…」
「考えてもみれば…お前にとっては今置かれている状況は不自然極まりないのかも知れないな」
ルーファウスは、ククッ、と喉の奥で笑うとワインを一口飲んだ。

「その通りよ。一体私に何の用なの?…こんな扱いも…」

「まだ気付かないのか?」
「何が…はっきり言って」
ティファはルーファウスの含みのある言葉遣いに眉をひそめる。
一方ルーファウスは、やれやれ、と言った風に額に拳を当てると、軽く溜め息を吐くように呟いた。
「ここまで鈍いとは…少し買い被っていた様だな」
「もう!また!」
「…、フゥ」
激昂するティファにルーファウスは笑うと、おもむろに席を立った。
「な、何よ…ッι」
スタスタと真っ直ぐ向かってくるルーファウスに、ティファも焦って立ちあがり拳を握った。
「…」
戦闘体勢のティファを目の前に、ルーファウスは歩みを止めた。
身長差で見下ろすまでに接近し、当のティファは間合いを取ろうとジリジリしている。
ルーファウスは少し屈むと、ティファの少し紅潮した頬に囁いた。

「お前を花嫁として迎える為だ」


ティファの瞳が更に大きく見開かれる。
「え…」
「言っただろう、以前から気にかけていたと。つまりそういう事だ」
「な、何…言って…」
困惑し体勢を崩したティファをルーファウスはその腕で包んだ。
「ぁ、ぃや…ッ」
腕の中でもがくティファの抵抗は細やかなもので、ルーファウスは更に強く抱き締めた。
「意味が分からない!」
ティファはルーファウスの拘束を解こうと抵抗をする。しかし、流石と言うべきか男の力には敵うはずもなく、ティファは息苦しいまでに抱き締められている事もあり消耗した。
「…だって私は敵でしょ?」
「…」
ルーファウスは無言でティファの首筋に鼻先を埋めた。
「や…ッ」
「…、それだけか?」
「…他に理由がある?」
ルーファウスの吐息が耳を擽り、その度にティファは肌を震わせる。ルーファウスはその反応を楽しむ様に、ティファの耳に唇を寄せた。
「大いにある」
「やッ」

「お前の気持ちだ」

「え?」

「敵同士である前に、男と女。違うか?」
「敵である以上そんな感情持てる訳ないでしょ!」
「…、では私のこの感情は何だと言うのだ?」
「え…?」
「お前を見たその時から片時も忘れられず、姿を追い求め、こうして今は腕の中に閉じ込めている」
「…」
「キスを与え、お前に触れて私は今…震えているよ」
ルーファウスはそっと腕の力を緩め、ティファと向き合った。

「こうする事でしかお前を捕まえられない、それを疎ましく思う」
「ルーファウス…」
「やっと名を呼んだな、ティファ」
「…、貴方もね」
ルーファウスはそっとティファを解放した。
「あ、あの…私は…ッ」
ティファが意見を言うよりも早く、ルーファウスは手のひらを立て制した。
「返事は次の機会にきく。それより今は休暇に付き合え」
「…」
「これは敵であるお前に対しての命令であり、半分は純粋な望みとしてだ」
「…ずいぶん複雑ね」
ティファは呆れてみせるとルーファウスは不敵に笑った。
「お前の所為だよ。」


「なに、食事が済む頃には休暇も終わる。そしてお前は自由だ」
ルーファウスはティファの髪を一房手に取ると、指先で弄んだ。
「…」
「いずれ、お前は私のものになる」
サラサラと流れる黒髪に愛しい視線を投げかけて、ルーファウスは恍惚と囁いた。
どこか醒めたティファは冷静に、ルーファウスの愛撫を受ける。
不快ではなかった。しかし、あまりにも突然の出来事に混乱して整理がつかない。
何よりも、あの『神羅』だ。計算高いルーファウスに抱いた疑念は容易く晴れるものではない。

だけど、なんだろう?髪を撫でる手に優しさを感じる…。
ティファの少し安らいだ表情を、ルーファウスは優しい微笑みで汲んだ。

あまりにルーファウスが綺麗に笑ってみせたので、思わずティファは赤面した。

「…、あまり誘惑するな…残念だが休暇は短いんだ」
「え!?」
頬を赤く染めるティファに、ルーファウスも少しつられた。
あの冷徹なルーファウスが。

「貴方って…可愛いところもあるのね」
「…からかうな」

ティファの言葉に、ルーファウスは眉をひそめた。
食事を再開し、少し冷めた料理を食べる。
向かいに座るルーファウスを眺めれば、心なしか食事を楽しんでいる様だった。


口に含んだワイン。
初めて美味しいと思った。



―コンコンッ
突然響いた、扉をノックする音。ティファは肩を強張らせ、警戒した。
「!」

「入れ」
―ガチャッ
「失礼します。社長、お時間です」
シークレットサービスだろうか、ダークスーツに身を包んだ男がそこには居た。その姿を確認するとルーファウスは極めて冷静な様子で
「分かった」
とだけ言った。シークレットサービスは返事を聞くとさっさと部屋から出ていった。「あ、あの…」
この後の処遇について戸惑うティファ。
「…そういう事だ」
ルーファウスはナプキンで口を拭いながら、ティファに一瞥をくれた。
「ほんの一時ながら、実に楽しかった。今度はゆっくりとしたいものだな」
ルーファウスは席を立つと、ドアに向かってコツコツと威圧的な靴音を響かせながら歩く。
「時間が出来たら連絡しよう。」
ティファはルーファウスの意図が掴めず、抗議の立席をした。
「そんなの約束出来ないわ」
ティファの言葉にルーファウスは少し怪訝な顔をすると、歩みをティファに向けた。
「どうやら…本当に買い被っていた様だ」
ルーファウスは突然ティファのガウンの襟元を掴み、強引にはだけさせた。
「きゃあッ!」
ティファは悲鳴を上げ、露になりそうだった胸を両腕で抱いた。
「何するのよッ!」
抗議の声を無視し、ルーファウスは乱れた胸元を見つめる。真っ白な肌、驚いた所為か荒い呼吸に合わせて激しく上下している。そのティファの左胸に深いくちづけを落とした。
「ぃや…ッ!!」
刹那、鈍い痛みを感じる。ルーファウスは顔を上げ、そのままティファの唇を奪った。
随分と余裕のない激しいキスにティファは翻弄される。互いの唇を銀糸が繋いだ。
「お前は自由ではない。」
そう言うと、ルーファウスは自ら刻みつけた証を指先でなぞった。
真っ白な肌に、赤く主張するそれは
ティファによく似合っていた。

「また連絡する」
そう言い残し、ルーファウスは部屋を後にした。
残されたティファは、未だに混乱しながら呆然とそれを見送った。

「何よ…今の」


朝を迎えて、チェックアウトする為にフロントで待っている時、奇妙なものを渡された。
小さな箱だが豪華なリボンがかかっている。
「あの…これは?」
「ロックハート様宛てに今朝届いたものです」
「…?」
ティファは箱を調べたが、送り主の名前はホテル側も分からないとの事だった。
『アヤシイな〜…何だか怖いわ…』
恐る恐るリボンを解き、ティファは箱を開けてみた。

そこにはガーネットのピアスが2つ、ケースに収まっていた。
「綺麗…」
ふと、箱にカードが挟まっているのを見つけた。
『次の機会にこれを着けてくる事を楽しみにしている』


ああ、なんてこと。



ティファは呆れた笑いを浮かべながら、そっとケースを閉じた。

奇妙な逢瀬。
きっと、全て仕組まれた事なのに。

「自由だ、って言った癖に」

ティファは迷う自分に、まだ気付けないでいた。



-Fin-

―――

◇後書き◇
その後、コスモキャニオンにて仲間達と無事合流を果たしたティファは二日酔い連中に迎え酒を飲ませる仕返しを…なんて。
無駄に長い。すみません。今回は罠にハマったティファ、秘密のデート。なワクワクな展開だったんですが…ちょっと阿保すぎますかね?怒ってばかりだし。あまり周到な事や複雑な伏線は、私が阿保なので思いつきませんでした死。クラウド一行と離れさせる事、神羅と深い関わりがある場所、という条件の元でゴールドソーサーにしたんですが。社長が遊んでる姿がどぉうしても想像して痛かったのでホテルでディナーと大人コースとさせて頂いた。
因みにガーネットのピアスは、ワイン色・キスマーク・ティファの瞳の色とかけてます。分かりにくい!
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