◇前書き◇
『sincerely hope』の続きです。引き続き甘め。


―――


今夜、エッジの天気は雷雨だとゆう。

すっかりと日が暮れた外、開けっぱなしだった窓から強い風が吹き込んだ。

『昼間はあんなに晴れていたのにな』
ティファは窓を閉めながら昼間の陽気を思い出し、あやしい雲行を不安に感じた。
すでに店は開店しているものの、今日は客足が随分と遠い。店内には珍しく人影はなかった。
ティファはカウンターに入り、暇なので何となく伝票を眺めたり備品をチェックしたりする。店内にあるテレビからのニュースに耳を傾けると、雷・暴風注意報が出ていた。
テレビを消して、ティファはふと外を眺める。
「もうお店閉めちゃおう」
そう呟くと、ティファはカウンターから出て戸締まりをする事にした。
戸締まりを終えて、ティファは住居である2階へ上がる。シンとした部屋、マリンとデンゼルは寝てしまったらしい。それぞれの部屋を覗いてみると、愛らしい寝顔があった。
「ふふ…」
そのままリビングへと向かい、ドアを開けた。
クラウドはいない。
仕事でジュノンまで配達に出ているのだ。依頼の電話をとったのはティファであったから内容は何となく覚えていた。
マリンの気遣いか、リビングの電灯は着いてはいたが、少し寂しく思った。

窓に風が吹きつけ、ガタガタとガラスが音を出して震えている。
ティファはソファに座ると、テーブルの上に置いていた携帯電話を手にした。
携帯を開いて、何となく着信履歴を眺める。
ユフィ、シド(電話はシエラさんからだったけど)、バレット、レノ(何で番号を知ってるのかしら)、など様々な名前が並ぶ。
今、1番聞きたい声の主からの着信はなかった。
「どうしてるのかな…」

ヴィンセント・ヴァレンタイン
ついこの間、携帯電話を一緒に買った。お互いの気持ちを知り、彼は躊躇ったらしい。しかし、側にいたいと告げた。
『今思えば…何て強引なの』
ティファは抱えた膝に、火の出そうな顔を伏せた。
「自惚れてるわよね…」

皆で食事会をして、その後に携帯電話を買って、それから2日もしない内にヴィンセントはエッジを出て行った。
その時に、別れの言葉はなかった。


側にいる、そう言ったのに。
私はここを守らなくちゃいけない、そして彼は今も世界を飛び回り続けている。
それは彼自身の問題でもあるし、きっと私が知る事の出来ない世界なのだろう。

『住む世界が違う、ってこと?』
そんな答えさえ出せない私は、甘えてるのかな。
ティファはヴィンセントのアドレスを眺めながら、小さく呟いた。
このまま、通話ボタンを押せば繋がるのに。
指先がボタンに触れるだけで怖い。

今かけたら迷惑だろうか?いつも危険な目にあっているみたいだから…。休息中かも知れない、だったら休ませてあげたい。
ティファは画面を凝視しながら、あらゆる可能性に考えを巡らせる。
「…かかってこないかな」
結局いつも、そこに辿り着いた。

その時、突然。
部屋の灯りが消えた。
「や、何…!?」
ティファは驚いて身構えた。
「停電…?」
ツいてない。ティファは丁度手にしていた携帯電話の画面の明かりを頼りにブレーカーのチェックに向かった。
「あれ…」
ブレーカーは上がったままだった。どうやら街全体の出来事らしい、窓の外の街灯も消えていた。

ごうごうと風の音の中に、雨が窓をたたく音が重なった。
明日には晴れる、その予報を思い出した。
ぐっすり寝て、雨雲が通り過ぎる頃には朝を迎えているだろう。
「まだ早いけど…電気がないならお風呂も入れないし」
ティファは独り言を呟くと自室に向かい、暗闇の中で寝支度をする事にした。

風が鳴る音に混じって、遠くで雷が鳴る音がする。ふと見た空に蔓延る様に稲妻が走る。
綺麗だと思った。



ベッドに潜りこんではみたものの、なかなか睡魔は訪れてはくれなかった。
体が疲れてるのは確かなのだが早い就寝は習慣を乱すものでしかなく、ティファは不快な倦怠感に何度も寝返りをうつ。
ウトウトとはするのだが、やはり眠りに落ちるまではいかず…
「…ふー」
ティファはため息をついた。
風は一層強く吹きすさび、雷は雨を連れてきていた。バシバシと窓を叩く雨。雨戸を出しておくべきだったかもしれない。
それらを聞いていると、何となく不安な気持ちになった。



―ピピピピ、ピピピピ
「!?」
ティファはハッと目を覚ました。ベッドの脇に設置してあるサイドボード、その上に置いた携帯電話が鳴っているのだ。
こんな夜中に誰だろう?ティファは不審に思いながら携帯電話を手に取る。開くと画面が眩しかったが、そこには
ヴィンセント
と、あった。

「え、…あ!」
ティファは思わず動揺してしまうが、急いで通話ボタンを押した。
スピーカーに耳を当て、震える声で呟く。
「…もしもし」

「…」
しかし、返ってくるのは無言だけ。ティファは少し戸惑いながら、今度はハッキリと言ってみた。

「もしもし?」

すると、独特な低い声で
「…ティファ」
と呟く声がした。

ヴィンセントだ!
ティファは待ち望んでいた相手に心底浮かれた。
「ヴィンセント…ッ」
名前を口にするだけで、恋しさに胸が張りさけてしまいそうだ。ティファはスピーカーに耳を押し付けて、言葉を待った。
「元気か?」
「うん!ヴィンセントは…怪我とかしてない?」
「…大したことはない」
「無理しないで…心配したよ?」
「…すまない」
「うぅん、電話くれて嬉しいから…」

ティファは耳元で聞こえる優しい声に酔う。
「…そっちは雨らしいな」
「うん。聞こえた?」
「ああ。さっき天気予報でも知った」
「そっちは?」
「星が見える」
「そっか…」

遠いな…、ティファは距離を感じて少し寂しくなった。

「どうやら起こしてしまった様だな」
「え、眠そう?」
「いや。…眠れないのか?」
「うん…。実は街が停電しちゃってて…やる事ないから早く寝ようと思ったんだけど…ダメみたい」

ティファは苦笑混じりに状況を告げる。
「そうか…。ならば寝るまで付き合おう」
「え」
「普段出来ない事だ、たまには良いだろう」

まさかヴィンセントがこんな事をしてくれるとは。ティファは驚きながらも嬉しかった。
「…嬉しい。ありがとう、ヴィンセント」
スピーカーの向こうで、フッ、と笑う声がした。


布団に再びもぐり、携帯電話を耳に当てながらティファは目を閉じた。
会いたいなぁ…、そう思ったのが全てで。
「ねぇ…ヴィンセント」
「何だ?」
「今日は本当に嬉しい。電話くれて…ありがとう」
「…」
「ちょっと不安だったし…」
「不安?」
「うん。こんな天気だし…。それにね」
「…」
「電話…して良いのかなぁ、なんて。ずっと考えてたから」
「む…?」
「ヴィンセントには色々危険な事があるだろうし…何だかタイミングが分からなくて」
「…」
「…ごめんね」
「…何故謝る?」
「負担になりたくないとか…本当、私のワガママよね」
「…」

「なのに、離れたくない…会いたい…、そればっかりだよ…」

ティファは少し泣いた。
恋しくて、愛しくて。側に居ない事がこんなにも寂しい。

「ティファ、それは考え過ぎだ。…私も同じだ」
「…え?」
「だから今夜、電話をした。本当はずっと電話が鳴るのを待っていたんだ」
「…え、そうなの?」
「ああ。堪えきれずに電話した」

ヴィンセントは照れ隠しなのか、咳払いをひとつした。
「確かに私は危険な時もある。だが、それはお前が気にかける事ではない」
「そんな!出来ないよ…」
「大丈夫だ。それに…お前の声は私を奮い立たせる」
「…」
「いつでも電話をしてくれ。私にも眠れない夜はあるし、側に居ない時は声が聞きたい」
「ヴィンセント…。分かったわ…」
違うのは生きる世界なだけで…しかしそれは大きな障害であるのは間違いない。
だが、想う心が同じならば…いつかは越えて行けるのだろう。
距離は二人の心をも遠ざける、そんな時は声だけでも交して、繋がっていたいと思う。

途方もない距離を繋いだのは二人の恋心なのだから。


ヴィンセントはスピーカーの向こうから聞こえる安らかな寝息を穏やかな気持ちで聴く。嵐は去った様だ、音が止んだ事に気付く。
薄い瞼を閉じて、長い睫毛が濃い影を落とす…ティファの愛らしい寝顔を思うと、早く会いたいと思った。


まだ、世界の闇は晴れない。
ただこの夜空の様に、満天の星空だと良い。そう思った。


-Fin-


―――

◇後書き◇
前回『sincerely hope』の続きでした。設定的にはACやDC前なので、ヴィンセントは世界中を旅するのに忙しいのです。遠距離なのに電話も遠慮の気持ちから出来ない、といった感じで。お互いを思いやるあまりになかなか踏み出せない二人。未だに決着が見えません。
多分お気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、テーマソングはレミオロメンの『電話』。あと、ヨシイ・ロビンソンも。両方とも良い曲なので是非試聴してみて下さい。


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