◇前書き◇
初めて書いたレノ×ティファ話。少し手直ししました。


―――


「あ」

朝の支度をしている時、靴紐が綻びている事に気付いたティファは手を止めた。
「あぁ〜…」
何となくツいていない気分になり軽く肩を落とす。
まだ温もりの残るベッドに気を取り直す様に座ると、ティファは履きかけていた靴を脱いだ。
その靴を目の高さに掲げ、状態を調べる。元々素材が丈夫な為、靴自体に目立ったダメージはなさそうだ。柔らかくなめされた革は足に馴染み、負担のないものに仕上がっている。
「…靴紐だけ買えば大丈夫かな」
新しい靴は魅力的だが、今は機能だけを重視すべき時。靴ズレなどをしていては満足に戦えず、皆に迷惑をかけてしまう。ティファはそう結論づけると早々に靴を履き、綻んだ靴紐を絞めた。

「クラウド、ちょっと買い物に行きたいんだけど。良いかな?」

昼食時、ティファはパーティを抜ける許可を貰う為にクラウドに話しかけた。
「買い物?」
「うん。靴紐が切れそうなの。すぐ戻るし、お使いがあればするから!ね?」
クラウドの浮かない表情に、懸命に機嫌をとるティファ。同じテーブルを共に食事をしていたシドは、見かねて助け舟を出す。
「あー、俺様も部品が見てぇなぁ!クラウドよぅ、ちっと時間くれや」
シドの助け舟にティファは目を輝かせた。ありがとう、と目が語る。ほらねほらね、シドもああ言ってるよ?期待に満ちた目をクラウドに向けると、そのクラウドは言葉に詰まったような顔をした。
「ね、クラウド…」
「…、分かった。じゃあ2人は抜けてくれ。悪いが先を急ぐから別行動になるが…いいか?」
「分かったわ!」
「おうよ!」
渋るクラウドに許可を貰い、ティファははしゃぐ様に微笑んだ。

さて、場所はミッドガル。
「何かあったら必ず連絡するんだぞ」
そう言って、レッド]Vとヴィンセントを新たにメンバーに加えたクラウド一行は去って行った。
「ひでぇジャンクばっかりだなぁ!ちょっくら見てくらァ」
そう言いつつもメカニックの血が騒ぐのか、少年のように目を輝かせたシドは陽々と去って行った。

「さて…」
ティファはヴィンセントに渡されたメモを見た。様々な注文のリストが書いてある。
「お使い…けっこう有るのね〜…」
ティファはやれやれ、と、まずは仲間のお使いをこなす事にした。

歯ブラシ、替えの下着、ワックスにコールタール…後は鎮静剤とエクスポーション。
細々とした物を紙袋に収め、ティファはようやくお使いを終えた。気を遣ってくれたのだろう、然程重くはない。
『今度皆で買い物した方が良いわね。下着なんか自分で買えば良いのに!』
ティファはマリンの気苦労を察した。

「さて…と」
ティファは適当に辺りを見回す。確かこの辺りにスニーカーショップがあったはずだ。
上層階と比べれば豊かとは言えないが貧しくもない、中流層の出入りする比較的穏やかなこの一角は商店街として栄え、ティファが店を経営していた頃は買い出しによく訪れていた。
向こうに大きな看板が見える。大ヒットした舞台『LOVELESS』、公演が終わっても外されない看板は最早ランドマークと化していた。
いつも賑やかな往来を恋人達が行き交う。戦いに明け暮れ、旅を続けている今は気持ちに余裕が持てずにいる。ニブルヘイムで過ごした穏やかな日々を恋しく思い、デートが羨ましく思えた。もしあの時に何事もなければ…私は普通の女の子として恋をしたりしたのだろうか、と。

「いらっしゃいませ」
店員に迎えられ、ティファは見つけた靴屋に入った。
蛍光灯が内蔵されたプラスチックの壁、造り付けの棚に整然と並ぶスニーカーの数々。ティファは適当に店内を見回しながら目的の靴紐を探す。
『あ、あれカッコイイな』
そんな事をとりとめもなく考えていると、店内の一画に設けられた小物を扱うコーナーを見付けた。
お目当ての靴紐は勿論、靴に打つスタッズやチャーム等、品揃えは充実している。ティファはそれらを見て、気持ちが少し浮足立っていた。
『何だか楽しいな〜』
ティファは早速、靴紐を吟味する事にした。
カラフルで可愛い模様のものに後ろ髪を引かれる思いを振り切って、やっぱり丈夫である事が大前提で。少し値がはったが強度は抜群であろう、黒いレザーをよりあわせた靴紐を買う事にした。
『後で靴に通さなきゃ』
会計を済ませ、店を出ようとした、その時。

「あ、…と」
店の前を通り過ぎようとしていた、見覚えのある赤い髪が尻尾の様に覗いた。
「よぅ!」
後ろ歩きして戻ってきた男が威勢良く右手を掲げる。
「レノ!」
ティファの驚いた表情にレノは、にんまり、と不敵に笑う。少し気取った様にポケットに片手を入れ、あろうことか進行方向をティファに向け、歩み寄ってきた。顔を覗き込むように首を傾げ、親しい友人に向かっておどけるような仕草をする。
「なーにしてるんだぞーっと」
ティファは後退りしながらレノを警戒した。
相手はあのタークスなのだ、いくら気さくに話しかけられても立場は忘れられない。
ティファのつれない反応に、唇の端を尖らせて呆れるレノ。
「そう邪険にするなよ、と」
「…でも、貴方タークスだもの」
ティファの言葉に、ごもっとも、とレノは肩をすくめてみせた。
「まぁな。でも今は休暇中だぞ、と」
「…」
「今決めた」
「…、調子いい」
今度はティファが呆れてみせた。少し溜め息混じりに呟く声はとても甘やかで、レノは皮肉ともとれずに微笑む。

「そんな事より、何か用?」
「ん〜、いや偶然アンタを見かけたんで話しかけた」
「何ソレ…」
「アンタこそ神羅のお膝元でウロウロして…不用心だぞ、と」
「別に良いでしょ」
レノの忠告に、ティファは少し面白くなさそうに俯く。

「まぁ…なんだ。適当な店に入らねぇか?」
「悪いけど、遠慮します」
「何だそれ」
「…しつこい」
ティファはそう言い捨てると、レノを残してスタスタと歩き出した。
いくらデートを羨ましいと思ったとはいえ、敵とだなんて冗談にもなりはしない。

「なぁ〜、何怒ってんだ〜?」
レノはティファに追いつくと、少し後ろを付いてくる様に歩く。
ティファの精一杯の早歩きも、レノのコンパスの前には無駄に等しく。歩幅の違いですら、今は疎ましい。
相変わらず背後から無遠慮に、不機嫌の理由を尋ねてくるレノ。
ティファは道行く人々の視線に恥ずかしくなり、レノを撒く事も兼ねて少し狭い路地へと踏み込んだ。
『…本当ツいてない!』
急に曲がり角に消えたティファ。
「あ」
レノは間の抜けた声を出すと、眠そうに瞼を薄く閉じながら不敵に笑った。
「へへ、上等。のってやるぞ、と!」
レノはティファを追う為に、路地へと駆け出した。


入り組んだ狭い路地は治安も衛星状態も悪い。
ティファは紙袋をかばいながら、とりあえず走った。
路地を挟む建物は高く、その壁に反響する足音はけたたましくさえある。雑踏を抜ければこんなにも寂しい空間が広がっている、ティファはそれを思い出し早く帰りたいと強く思った。
「はぁ、はぁ…」
『結構走ったし…撒いたかな?…大丈夫よね』
ティファは辺りを見回すと、建物の裏口であろう階段に座り、休憩をする事にした。
「ここ何処だろ…」
随分デタラメに路地を走った為、ティファは方向感覚を失っていた。
詰めが甘い、と言うべきか。ティファは妙な所で抜けていた。
「ああ〜…」
『本当、何やってんだろ私…』
落胆から抱えていた紙袋に顔を埋める。
「わッ」
お使いの下着が目の前にあり、ティファは慌てて顔を上げた。


「よォ〜!何やってんだ?」
ああ、最悪。
視線をやると、片手をポケットに入れて余裕に笑うレノの姿。
「…」
「へへ、言ったろ?神羅のお膝元、ってな」
「本当しつこい」
「鬼ごっこは終わりだぞ、と」
レノはティファの前に立ちはだかる。
見上げれば、やはり馬鹿にした様に見下す、水色の瞳と目が重なった。
いつものレノだ。
『敵』である彼、その方がずっと知ってる。
「休暇も終わり?」
「そうだ」
ティファは観念すると、軽い溜め息をついた。
「じゃ、一緒に来て貰おうかな、と」
「え…」
レノはティファの抱えていた紙袋を持つと、ティファの腕を引いた。
「ちょ…、自分で持つし…その…歩けるわ!」
「駄目だ。また逃げられたら困るしな」
そう言ってレノは、ティファの手に指を絡めた。突然手を繋がれた事には驚いたが、今はそんな事に構っている場合ではない。
レノに連れられ、路地を抜けた先には高級ブティックが軒先を連ねるショッピングモールだった。
「ねぇ…何処に行くの?」
「ん〜、まぁな」
「…」
質問にも答えず、レノは辺りを見回している様だ。ティファは質問を諦めて、自分がこの先どうなってしまうのかなど楽しいとは言えない想像を巡らせた。隙を見て逃げ出さなければ…いま少し様子を窺うために従順なフリをする。

「お」
レノが何かを見付けた様だ。ティファはそれを確認する気にもなれず、代わりにレノの強く引く手を眺めた。細く筋張った手。体つきからいってもレノは痩せすぎのように思える。ちゃんとご飯食べてるのかな、などど呑気なことを思った。
ある一軒の店に入るレノ。俯いて、足元しか見ていないティファは連られて入店する。

「いらっしゃいませ」
その一言で、初めてティファは顔を上げた。
…この人は一体何がしたいのだろう?
ティファは店内を見回しながらレノの胸中を計る。
淡いクリーム色で統一された美しい内装、落ち着いた照明であるのに飴のようなショーケースは煌びやかだ。そこに陳列された上品なデザインと色合いの服や小物は、この世で最高のものだと饒舌に語りだしそうに誇らしげだ。つまりここは高級アパレルショップだった。

「…あの、レノ?」
「あ〜、とりあえずウィンドウにある靴を持ってきてくれねぇか」
戸惑うティファをまたも無視し、レノは店員とおぼしき女性に注文をした。
「かしこまりました」
「あの…」
戸惑うティファの手を強引に引き、レノは店の一角にある個室型フィッティングルームの扉を開けた。
そこは神聖な教会を思わせる様な造りで、白磁の様に軽やかな白で統一されていた。店の高い天井に届くまでの巨大な鏡がドアに向かいあっている。その鏡の前に、クリーム色のビロード生地で出来た丸い椅子が一脚置いてあった。
「…綺麗」
きっと、教会で花嫁がウェディングドレスを着るのは、こんな部屋なんだろうな。
思わずティファは溜め息と共に、そんな想像を巡らせた。
ただの試着室とは思えない位、それは綺麗で。

「座れよ」
レノに促されて、ティファは素直に椅子に腰掛けた。
「お持ちいたしました」
程なくして、先程の店員が二人の待つフィッティングルームに入ってきた。
両手に白い箱を抱えている。
「あ〜、あとコイツに似合いそうな服も適当に見繕ってくれ」
「かしこまりました。では、ごゆっくりお試しください」
そう言って店員は早々に去ってしまい、ドアを閉めてしまった。

店員とレノのやりとりに、思考がついていかないティファ。一度口元を締め、意を決するがやはり混乱は隠せない。

「あの…ね、レノ…。何がしたいの?」
「ん〜」
返って来たのは、また生返事。ティファは益々怯えた様に眉を下げた。全く意図が分からない。
「ひあ!ちょっと…ッ!」
突然レノが屈み、ティファの足を掴んだのだ。ティファは驚きのあまり妙な悲鳴を上げる。
「何やって…蹴るわよッ!」
「おっかねぇな〜。ホラ、脱がねぇと靴履けないだろ?」
「自分でやるからッ…とにかく放してッ!」
「ダメだぞ、と」
レノはティファの片足を脇に挟み、靴を脱がしにかかっている。
ティファは抵抗して背中を叩いたりするも、あっさりと靴を脱がされてしまった。ついでに靴下も。
「もうッ!何するのよ!」
威嚇の意味で怒ると、レノは益々面白そうに笑う。そして、またもう片方の靴も同じ手口で脱がされてしまった。
「アンタは人質。黙って言う事聞いとけよ、と」
「………」
ティファはまだ収まらない様子でレノを睨みつける。
「そうそう、大人しくしてな」
レノは意に介さず、またヘラヘラと軽い笑みを浮かべた。

レノは先程オーダーした物が入っているだろう箱を手に取る。蓋を開けると白い華奢な靴が入っていた。
その片方を手に取ると、箱を床に置く。
ティファはレノの手にある美しい靴に目を奪われた。
あまり高くはない細いヒールが繊細で、足の甲から延びる2本の華奢なストラップが上品だ。
まさに高級品、洗練された白く美しい靴だった。
「素敵…」
ティファの呟きを聞き付け、レノは満足そうな笑みを浮かべる。
レノはおもむろにティファの足を取り、掌に乗せた。
「あ…」
「…」
小さな足、綺麗な指。レノはティファの足を眺めると、そっと唇を寄せた。
「え…ちょっ…、きゃッ!」
ティファの体の震えがレノの唇に伝わる。レノはそのまま笑うと、唇を離した。
そして、ティファの足にその白い靴を履かせてやった。
「レ…レノ?」
真っ赤になったティファは、また怯える様な表情で混乱を極めていた。
「鬼ごっこの賞品だぞ、と」
「え?」
「そして、アンタを捕まえた戦利品」
「…」
「これで勘弁してやるぞ、と」
レノはティファを見上げる体勢のまま、その唇に触れた。

「ん!…ふ」
ティファの首に手をあてがい、歯を閉じてしまう前にすばやく舌を割り込ませて深いキスをする。逃げる舌を追い詰めて、無理矢理に絡めると、ティファは切ない吐息を唇の端から洩らす。レノは次第に夢中になり、ティファの頬を両手で包みこみ、もっと深くへ侵入したがった。
その気配を感じてティファが首を強く振ることでようやく唇が離れると、銀糸が二人を繋いだ。レノは涼しい顔のままだが、舌なめずりをして不服を伝えている。
なんてキスをしてくるのだろう、情熱的というよりも、食べるような、貧欲な。いいや、そうではない。この人は敵だ!
ティファが抵抗を示そうとすると同時にレノが再び唇を寄せたとき。

―コンッコンッ
「お客様、お気に召しましたか?」

店員がドアをノックする音が空気を変えた。
ティファは真っ赤になった頬を隠す様に両手を当てる。レノは相変わらず涼しい顔をして、さっさともう片方の靴をティファの足に履かせた。
「ああ、見てやってくれ」

その後、店員が持ってきた白いワンピースを着たティファは会計をするレノの少し隣で待っていた。自分をドレスアップさせた意図が未だに分からず、ティファは少し前の出来事を思い出す。コルネオの館…まさかこのままどこかに…。それにしては先ほどのレノの言葉が気になる。鬼ごっこの賞品、アンタは戦利品。チラリと窺うレノの横顔は変わらず涼しげだ。

「ワンピース1点、ミュール1点…合計で170000ギルになります」
『高ッ!!』
ティファはあまりの値段に、内心震えあがる。
しかしレノはやっぱり涼しい顔でカードを取り出し、店員に渡した。
「ねぇ…大丈夫なの?」
「まぁな。…経費で落とす。勤務中だし」
「……落ちないわよ、多分」
「…へへ」

レノはティファを横目で見ると、浮かない表情を元気付ける様におどけて笑ってみせた。

「靴、欲しかったんだろ?」

ティファはその表情と言葉に面食らうと、少し顔が熱くなるのを感じた。
スニーカーショップから出てきたの、気にしてたのかな?ティファはそれを悟ると、呆れた様に微笑んだ。
「でも、こんな格好じゃ戦えないわ」
ティファはスカートの端をそっと抓むと、自分の足元を覗き込む様に屈んだ。
足には美しい白い靴。まるでそれ自体が発光しているかの様に、柔らかい光を反射する。
レノはそんなティファの様子を見て満足そうに笑うと、ティファの発言を不思議そうにしている店員に向けて肩をすくめてみせた。
「じゃ行くぞ、と」
「…うん」
レノに差し出された手をティファは躊躇なく握る。
「有難う御座いました」
店を後にする二人を店員が見送った。



「アンタはそうしてる方がいいぞ、と」
「え?」
大通りを歩く二人を誰もが振り返る。今のティファは高嶺の花のように美しく、そんな女性を連れたレノは誇らしげだ。これは自分のものだ、と主張するように繋いだ手に力が入った。
「戦いとか、似合わねぇ」
「…」
「もっと、女らしくだな…」
ティファとの出会いは七番街支柱爆破の任務の時だったか。砂埃にまみれた姿で、いかにもゴロツキの女、といった印象だった。その後戦ってみて、攻撃の的確さに圧倒された。いつもとは違う手ごたえに、これは因縁になると確信した。そして、長い前髪から覗いた強い眼差しと戦う姿を美しいと、肌が粟立つほどに思った。
しかし、危険でもある戦場に置くのは勿体無いと感じる。だからこそ、こうも興味を引かれた訳ではあるが。自分の美しさを保つことにのみ腐心する、そんな女に呆れつつも利用していたのは自分ではないか。より綺麗で色気のある女を望んで、取捨選択してきたのは自分ではないか。だが、そんな女とティファを重ねる意味は?
レノは急に立ち止まり、ティファに振り返った。
「……、アンタいい女だな」
「えッ!?」
「ゲーム再開だぞ、と」
レノはそう言うと、ティファの荷物である紙袋を渡した。
「アンタ逃げていいよ」
「?」
「俺は追いかけて、捕まえる。今度捕まえたら…アンタは俺のモンだぞ、と」
「…レノ」
「ホラ、早く逃げないと捕って食っちまうぞ、と」

逃がしてくれる、と言うのだ。
ティファはレノの意図を読みとると、少し躊躇いはするも踵を返し、駆け出した。
レノがどうして自分に靴とドレスをくれたのか、それを問う機会を次回に預けて。きっと気まぐれだ、そう思いたい。敵同士であることには変わらないのだから。

「はは、逃げた」
レノは呆れた様に笑う。これで逃げなかったらどうしようかと思ったが、そんな淡い期待は見事に裏切られた。それはそうだ。

逃げるなら、追いかけて、捕えるだけ。

簡単な事なのに、ひどく面倒なものに思えて気が滅入る。このまま手に入れたとしたら、どんな未来が描けるだろうか。
自分の選んだ服を纏い、側で微笑むティファの姿。少しからかうつもりで、そして自身をも試してみたくて靴とドレスを贈った。
そうして証明された感情が熱となり、繋いだ指先の感触を思い出させ、深くへ侵入した舌先を甘く痺れさせる。


「らしくねぇ…ぞ、と」
レノは自分の唇を指でなぞった。


逃げるアンタの靴音はハープシコードの音色。

ああ、そう言えば
一度も名前を呼べなかった。
レノは溜め息と共に軽く首を振る。

「次が楽しみだぞ、と」

-Fin-


―――

◇後書き◇
手直しする前はあまりレノの動機に言及しなかったのですが、今回色々と書き足していくうちに、あーこんな話だったのかー、と一人で納得してしまったのですが大丈夫ですか。伝わっていますかー!すみません。
レノティは良いですよね。なんか少女漫画のノリで書ける、不良と真面目ちゃん、みたいな。笑。そして今回は名作映画「マイフェアレディ」のノリで…なんでそういう展開にしようと思ったのかは忘れてしまった…。靴の話が書きたかっただけの気もする。笑。
レノは未だにキャラが掴めません。突然の弱音!いや、もう、家には全然帰らなくて日替わりで女の所を泊まり歩いて、飯はジャンクオンリーとかいう生活なんじゃなかろうかと想像してしまう。そんな彼を野良猫がやってきたくらいの気持ちで接しているティファ。そんなレノティを妄想して萌えています。
そうそう、「ハープシコードの靴音」とはドイツ映画「バンディッツ」の劇中歌「Catch Me」からとっています。凄くいい曲と映画なので是非。
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