◇前書き◇
リクエストを頂いて書きました、ザックス×ティファです。なにぶん初心者かつ、ザックスのキャラが掴みきれていないので口調とか変です。ニブルヘイム派遣時の話。


―――



苦手と言えば、まさにその通り。
男の第一印象はそうだった。


よろず屋での町内会議に参加している父の使いで、重要な書類と、心遣いであるパンプキンパイを届けた帰り道。町を覆う嫌な雰囲気に警戒したティファには、それは歓迎できた出来事ではなかった。
「よぉ!」
町のランドマークである給水塔にさしかかった時、ティファを呼び止める声がした。
ティファは驚いて振り返ると、腕を組み、給水塔に背中を預けている男がいた。
「この町のコだろ?」
男はニヤリ、と笑う。ティファは見知らぬ男に不信感を抱くも、不敵な笑顔に少し興味がわいた。
『…この人がソルジャー?』
黒髪を後ろに流す様に立てて、左耳には銀のピアスが光っている。歳はティファより上だろう、だがその青い瞳は幼さを感じさせた。
年の近そうなこの人はソルジャーになりたくてミッドガルへ行った、幼馴染みであるクラウドの事を知っているかもしれない。そう思い立ち、訊ねてみようかと迷うティファに男はからかう様な好奇の目を向けた。

「おい、そんなに見つめて…惚れたとか?」
「なッ…、違いますッ!」
男の悪戯っぽく笑う顔はやはり幼く、ティファはからかわれた事も含めて赤面した。
ああ、パパに神羅の人とは話すなって言われたのに。
ティファは質問を諦め言いつけを守るべきだと結論し、踵を返して家路を急ぐ事にした。と、言ってもティファの家は此処からもよく見える程に近いのだが。
「悪い、怒らせるつもりじゃなかったんだ」
踵を返したティファに慌てた様に、男が言う。とっさに男はティファの腕を掴んだ。
「きゃッ」
急に腕を強く掴まれた事に驚いて、ティファは短い悲鳴をあげる。
「あ、悪ィッ!」
男はパッ、と手を引っ込めて、その手を自身の腰に当てた。少しうなだれると、ふぅ、と軽い溜め息を吐く。
「ちょっと訊きたい事があっただけだ、悪かったな」

「じゃ…もう行くわ。ホント悪かったな」
青年はそう言うと、後ろ手を振りながら去って行く。
呆気にとられたティファはその場に立ち尽くし掴まれた腕をさすりながら、遠ざかって行く背中を見送った。
「何なの…今の」
驚いたのはこちらだというのに、その瞬間にみせた男の顔を思いだす。幼い子供が叱られて、深く傷付いたような表情だった。


家に帰り着き、言いつけられた通りに鍵をかける。
「よし、と」
施錠を確認すると、ティファはキッチンへ向かう。
先程、町内会議に差し入れたパンプキンパイの余り。それをおやつに、ティファは紅茶をいれる為にポットを火にかけた。
木製のトレイにパイとティーセットを乗せて、ティファは自室の机の上にそれを置いた。
窓から柔らかい光が差し込み、穏やかな気持ちになる。
ティファは窓辺に立ち、少し伸びをした。
「いい天気…」
気持ち良いな、自分を包む陽の匂いにティファは微笑む。
椅子に座り、紅茶を入れ、パイを頬張った。甘さを抑えたカボチャにサクサクの生地。
「上出来!」
ティファは紅茶を一口すする。

「よし、じゃあセフィロスさんに報告しろ」
穏やかなティータイムを邪魔する様に、ティファの耳に遠くからの話し声が届いた。
ティファは、ふと、窓を眺める。
「早く終わると良いな…」
願望も込めて、ティファは呟いた。
町の空気が重く神経質なものになっているのは、ティファには苦痛でしかないのだ。

夜分遅くに帰宅した父親を迎えて、ティファは父の寝室で話を聞いた。
年頃の友人達は都会へ行ってしまったため一人で過ごすことが多くなったティファ。そして遊び場であるニブル山に頻繁に出入りするようになった今ではニブル山に誰より詳しくなった。そんな事情から町から出す案内役という白羽の矢を立てるのに、特に異義を唱える者はいなかったという。
「しかし、ティファ…私は心配だよ」
「…大丈夫よパパ、私出来るわ」
「そうじゃない。私はティファの身を案じているんだ」
そう言って、ロックハートは娘の頭を撫でた。擽ったそうにはにかむ娘の笑顔。それに親としての愛情を強烈なまでに感じ、同時に明日の事を案じた。年頃の娘一人を軍人達に預けるのだ、万が一を考えても歓迎できるはずもない、だが…。

「じゃあ明日は早いから、もう休みなさい。すまなかったな、パパの帰りを待たせて…」
「うん、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
ティファは父親の寝室を後にし、ドアを閉めようとした。その時「ああ、ティファ」
父親に呼び止められ、ティファはドアの隙間から中を窺った。
「何?」
「カボチャのパイ、美味かったよ。皆も褒めてた」
「本当?フフ、嬉しいな」
「また作ってくれるか?」
「うん!…じゃあ、おやすみなさい」
静かに寝室のドアを閉めて、ティファは開け放っていた自室のドアをくぐる。そして、そっと扉を閉め、早々にベッドにもぐり込んだ。

様々な想像を巡らせる。
明日の事は、やはり気が重いけれど。
それより、
ガイドが終わったら、たくさんのパイを焼こう。
皆に振る舞って、少しでも、この憂鬱な空気が晴れれば…それは何よりだ。
ティファは色々とプランを考えている内に、安らかな眠りへとついていった。

早朝、父に起こされてティファは目を覚ました。
「ティファ、支度をしなさい」
「ん…」
「パパは皆とよろず屋に集まってるから、支度を済ませたら来なさい」
「はい…分かったわ…」
肩を揺すられながら、夢心地にティファは頷いた。
どうやら昨日の夜更かしがいけなかったらしい。ロックハートは軽い溜め息をつくと「ちゃんと起きるんだぞ?」と言い残し、階下へと去って行った。

ティファは眠い目を擦りながら体を起こす。
「ふぁ〜…」
夢を見ていた所為で眠りが浅く、倦怠感にうなだれる。
大きな欠伸をすると涙が溢れた。
「…」
のろのろとベッドから降り、階下の洗面所へと向かう。

冷たい水に手を晒して、顔を洗う。
鏡に映った、水滴を垂らす自分の顔を見つめてみた。

「責任重大」

そう呟いて、また顔を洗った。



身支度を整え、ウエストバッグに救急セット等を詰める。万が一に備えたつもりだが必要ないかも知れない、ティファは大袈裟かも、などと考えながらもベルトを巻いた。
「やっぱり緊張する〜!」
ティファはガイド役にも、神羅の人間にも、案内するソルジャー一行にも不安を覚えた。
自信がない訳ではない、ただ失礼のない様にするだけだ。
ティファは自分を奮い立たせ、ブーツを履いた。

「おはようございます!」
ティファはよろず屋のドアをくぐると、既に集まっていた人々に挨拶をした。
「おはよう、ティファちゃん」
「おはよう」
「おはよーさん」
それぞれの挨拶を受けると、ティファは父の側に行った。
「おはよう、パパ」
「ああ、おはよう」
親子は遅れた朝の挨拶を交わす。
「じゃあ…ティファが到着した所で、今日の魔晄炉視察についての注意などを」
ロックハートを議長に、ティファを交えた町内会議が始まった。


注意事項と言ってもティファに対する戒めや質問の受け答え等が中心で、大した内容もなく会議は終了した。
解せないのは、ただ魔晄炉に案内するだけで稼動についての質問は禁止、だと言う事だ。
ティファは訝りつつも、約束の時刻を迎えた。


集合場所である神羅屋敷前には、すでに一行は到着していた。
青い神羅兵服は、何となく町から浮いて見えた。
「あ…」
冷たい印象を受ける、黒尽くめの男。銀色の髪が風になびいて眩しく輝いている。
きっと彼が、セフィロス。
綺麗な人。ティファはそう思った。

「今日はこの娘が案内します。」
ロックハートの声に、ティファは我にかえる。慌ててティファは自己紹介をした。
「あ、…初めまして、ティファです。よろしくお願いします!」
セフィロスと思われる男は、品定をする様にティファを眺めると、ロックハートに視線を移した。
「若いとは聞いていたが…大丈夫なのか?」
「ええ、町一番のガイドです。じゃあ出発ですか?」
「いや、一人遅刻している」
そう溜め息混じりに言って、セフィロスは宿の方を見た。

「悪い!寝坊した!」
弁解を叫びながら、慌てて広場を駆けてきた男。
「…」
昨日の人だ。ティファは少し警戒する。
「…、出発するぞ」
「あ、待ってくれよ!」
「…」
二人のやり取りに、ティファは何だか笑えてきた。
「お!アンタがガイド!?」
思わず笑みを溢しそうになったティファに、男は失礼ともとれる驚きの声を上げた。
「…」
「いや、信用してねー訳じゃないんだ!まぁよろしくな!俺はザックス」
屈託のない笑顔に、ティファは少し面食らう。差し出された、握手を求める手をティファはそっと握った。
「そんなに警戒しなくてもいい。ちゃんと守ってやるよ」
「え…?」
「アンタ名前は?」
「あ、ティファ…です」
ザックスは悪戯っぽく笑うと「よろしくな」と握手をする手を勢い良く振った。
「じゃあ出発するか!」
ザックスはティファの手を放すと、セフィロスに向かって言った。セフィロスは少し呆れた表情をしたかの様に見えた。
出発する一行をロックハートは複雑な表情で見送った。娘の無事と、魔晄炉の調査が何事もなく終わることを強く願う。妙な胸騒ぎを覚えて見上げた空は穏やかに晴れていた。

セフィロス、ザックス、神羅兵士2人。ティファは一行の真ん中を歩く。
滑らかな岩肌が特徴であるニブル山は、霞がかかり少し不気味だ。
「そこを左に行って下さい」
ティファは的確に指示を出しながらナビゲートする。
時々出現するモンスターは先頭を歩くセフィロスが軽くあしらう様に倒していた。
ティファはセフィロスの手並に惚れ惚れしつつ、初めて見る強力な魔法を行使する姿、常軌を逸した強さにも戦慄した。
『凄い…私も倒せないモンスターをあんなに容易く…』
英雄、ソルジャー…。クラウドが憧れていたセフィロス。強くなれば、クラウドもこんな風になってしまうのだろうか?
ティファは人知れず幼馴染みに思いを馳せた。

「その吊り橋を渡った先です。古い橋だから気を付けて下さい」
まずは神羅兵の1人が橋を渡り始めた。セフィロスはティファを一瞥すると、付いてくる様に目配せをする。
「…」
セフィロスのすぐ後ろを歩き、吊り橋を渡る。ギシギシと縄が軋む音に警戒しながら、ティファは英雄の背中を眺めた。
続いてザックス、神羅兵が吊り橋を渡りはじめた。

―ブチッ

縄が弾ける音がした、そう思うより早く一気に足場が崩れた。
「は、橋が…」
ティファが言うと同時に、橋の縄が完全に切れた。橋が岩肌に叩きつけられ、掴んでいた橋板が割れてしまった。
「きゃあッ」
「!、ティファ!」
落ちそうになった体を、ザックスが受け止めてくれたが、敢えなく2人は谷底へと落ちてしまった。

「ちッ」

静寂にセフィロスの強かな舌打ちが響いた。




「おい!大丈夫か?」
ザックスの呼びかけに、ティファは目を覚ました。
「おい」
「ん…、!?」
ずいぶんと近くで響く声に、ティファは慌てて体を起こした。自分とザックスの体が重なっていたからだ。
「ご、御免なさいッ」
言うよりも早く、ティファの肩をザックスは掴んだ。
「!?」
「急に動かない方がいい」
そう言って、ザックスはティファを再び自身の胸へと引き寄せた。
「あ、あの…」
「どこか痛むか?」
「いえ、あの大丈夫ですから…」
「そうか?残念だな」
体勢に焦るティファにザックスは苦笑する。そして、名残惜しくティファを解放した。
「大丈夫か?」
ティファに続いて自分も体を起こし、様子を尋ねる。
「ええ、平気です。ザックスさんは?」
「大した事はない」
ザックスの言葉にティファはホッと安堵の溜め息を漏らした。
「…、御免なさい。私のミスです」
「え?」
「吊り橋の老朽…もっと注意するべきでした」
俯くティファの頭に、ふと温もりが乗った。
「…、あんたの所為じゃないさ」
少し困った様に、笑うザックス。幼子をなだめる様な仕草にティファは少し複雑な感情を抱いた。
「あッ」
「ん?」
「大変!怪我してる」
ティファを撫でていた、腕に小さな傷が出来ていた。少し血がにじんでいる。
全く大した事はなく、ケアルをかけるまでもない。
「ああ、痛くないし大丈夫だよ」
日々、戦闘に参加する身のザックスにとっては本当に些細な傷。
しかし、ティファは心配そうに傷を診ていた。
「私、絆創膏もってます。今出しますね」
ティファは小さなウエストバッグから救急セットを取り出すと、消毒液を染み込ませたコットンで傷口の血を拭いた。
「何か、新鮮だな」
「はい?」
「ん、俺達はこんな小さい傷とか無視だからさ」
「…」
「こんな傷を心配してくれるなんて…何かスゲェ久しぶりって言うかさ。何か嬉しい、ありがとな」
「そんな…」
ティファは絆創膏を貼り終わると、ゴミをまとめてウエストバッグに入れる。
「サンキュ」
「いえ、…どういたしまして」
「ヘへ…」
ザックスは絆創膏を見ると、また悪戯っぽく笑った。
「どうします?セフィロスさん達、探しますか?」
「いや、状況から言ってここから動かない方がいいな。俺達の落下地点の予測はついてるだろうし…」
「はい、分かりました」
ザックスの判断に従い、2人は待機する事にした。

「…」
「…」

居心地の悪い、妙な沈黙が続く。お互いの不自然な距離が余計に会話を途切れさせた。

『霧…出てきたな…』ティファは髪の一房を指で弄びながら天候を窺った。
「あのさ」
「え!」
「…」
ザックスの不意な呼びかけにティファは驚いてしまった。
「そんなに驚かなくても…襲いやしねぇよ」
「お、襲…ッ!?」
「あ、だから…参ったな〜」
ザックスは咳払いをひとつ、態勢を立て直す。
「だからだな、あんまり警戒されると…その、やりにくい」
「?」
「あんた…てか、ティファとさ、仲良くなりたい訳だ」
ザックスは照れ臭そうに頭を掻いた。ティファは黙って、ザックスの話を理解しようと耳を傾けた。

「ティファが好きだよ」
「え!?」
「正直、一目惚れしました」
「…ぇえ?」
ザックスの突然の告白にティファは戸惑う。状況が理解出来ないのか軽くパニックになっている、少し顔が青い。
「…そら驚くよな。まぁ、そういう訳だ!
ティファ、あんたは俺が守ってやるよ」



少し、
その言葉が引っかかった。


「あの…私…」
ようやく状況が理解出来たのか、ティファは顔を真っ赤にした。まともにザックスの顔を見れないのか、頻りに視線を泳がせている。
「帰ったら色々話そうな」
そんなティファをよそに、ザックスは向こうから歩いてくる人影を見た。

「無事な様だな」
セフィロスと、神羅兵が1人。
ザックスとティファは合流を果たした。未だに熱る頬を隠して。



-fin-
―――

◇後書き◇
はい!完結してないです、すみません。続きを書く予定ではあったのですが…忘れてた。確か、ザックスはクラウドからティファのことを聞いていて、次第に興味がわいていき、実際に会ってみたら瞬くうちに恋をした。とかいう前日譚みたいな構想でした。その伏線も少し本編にありますね。
ザクティは初挑戦でした。当時「どんなCP話が読みたいか」という旨のアンケートを設置していまして、けっこうな票が入ってて驚いた記憶。
私の中では…ティファが切られたのに素通りしてセフィロスに向かって行くザックスがどうも引っかかっていまして。仕方のない事だったのかも知れませんが、あそこで膝まづいて何かしらアクションして欲しかったなぁ…、と未だに思う。
私はCC未プレイなのでザックスについても良く分かっていない。考察不足の恥もあり…、後半なんか台詞ばっかりだし。今回の手直しの機会に小説ごと消してしまおうかと思ったのですが、敢えて手直しして残すことにしました。ドMゥー。
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