◇前書き◇
ティファ→セフィロスです。ティファ独唱、ちょっとダークテイスト。ニブルヘイムを久しぶりに訪れ、思い出の片鱗にセフィロスを思う、そんな話。
―――
私達の思い出の場所は
陽が差すことがない。
灯りが無くては進む事すら出来ない程の、闇に支配された所。
ロウソクがもたらす薄明かりの側で古い本を読む貴方は、闇を進む私には希望に見えた。
貴方を目指して進む私を、貴方は見付けると微笑んでくれた。
厚い本を閉じて、私の歩みを見守っていてくれた。
そして、抱きとめてくれた。
―深海には光が届かないとゆう。
だから、そこに棲む生物には目は必要ないのだと。貴方が教えてくれた事。
光も、色も無い世界は想像を絶するものがある。だけど、耳元に貴方を感じる事があれば…そう想いを告げると、貴方はそっとロウソクの火を吹き消した。
闇に溶けてしまいそう…目が闇に慣れる事はなくて、何も見えない。
貴方の息遣いと体温が、ひどく私を扇る。
不安なんか感じなかった。
愛されているのは痛いくらいに感じていたから。
なのに、
何処で分かれたの。
いつまでも一緒だと、信じていたのに。
愛していたのに。
愛しているのに。
旅の途中、ニブルヘイムに着いたクラウド一行。クラウドは気をきかせたのか、ティファをメインパーティから外した。
クラウドは勿論、ティファの顔色は悪かった。
セフィロスによって、焦土と化したはずの故郷。村を調べてみて分かったが、神羅のニブルヘイム復元は見事なもので、それは更にふたりの心を乱した。
「…」
そうやって、自分達にとって都合の悪い事実を隠して。どんな思いをしたのかなんて彼らには興味がないのだろう。
「ひどい話…」
ティファは『懐かしい』と言えない事実に悔しくて腹が立ったが、同時に悲しくなった。
存在を否定された気分。
多分思い出の物とは違うであろう給水塔を見上げて、ティファはため息をひとつ吐いた。
自分の家だった家も全く正確に復元されてはいたが、不気味な黒ずくめの人影にティファは探険を諦めた。
広場に出ると、クラウドから着信が来た。
「はい」
「ティファ、俺達はもう出発するが…一人で大丈夫か?」
「うん、平気よ。今エアリス達もこっちに向かってるって言ってたし…合流したら連絡するわ」
「あんまり無理はするなよ?」
「クラウドこそ…気を付けて」
「ああ、分かってる」
「うん、じゃあ切るわね」
「ああ」
―ピッ
ティファは携帯電話をしまうと、ふと景色を眺めた。
嫌でも目につく、巨大な建物…。子供の頃はよく忍び込んで遊んだ。
「…」
あそこだけは変わらないな…、ティファは複雑な気持ちで足を向けた。
錆び付いた鉄格子を開けて、大きな玄関扉を開く。
子供の目線にもそうだったが、やはり豪華で広い。高い天井には巨大な飾り天窓があり、そこから差す陽光は教会を思わせて、こころなしか荘厳な気持ちにさせる。
放置された家具や床などは傷み、埃の積もったそれらはお世辞にも綺麗だとは言えなかったが、品の良い調度品のそれらは古びて尚美しい。きっと磨きあげればかつての栄華は甦ることだろう、そうして一種の趣きとしてこの廃虚を彩っていた。
ギシ…ギシ…
歩く度に床が軋む。埃っぽい匂いはノスタルジックな気持ちにさせた。
「…あ」
大きなグランドピアノ。
小さい頃から憧れていて、忍び込んだ事がバレない様に布を被せてこっそり弾いていた。
「懐かしい…」
思わず呟いたのは、カバーに付けてしまった傷を見付けたからだ。
そうだ、確かピアノを弾いていたら村の人に見付かりそうになったんだっけ。
ティファは慌てて蓋を閉めた時に付けてしまった傷を指先で撫でながら微笑んだ。
椅子に座り、ピアノに向かう。
『久しぶりだな…』
背筋を伸ばして、鍵盤に柔らかく指を乗せた。
美しい旋律は時を止めて、ティファはブランクを埋める様に鍵盤を叩いた。意外と覚えているものだな、などと考えながら、母親に教えてもらった思い出の曲を弾く。格闘技を始めることは指の関節には良くないことなんだろうな、ああ、でもあの頃は難しく感じた箇所が強く叩ける。久しぶりのピアノに胸を躍らせながら、思い出に浸りきるその時。
―カタンッ
「ッ…」
そのキーは音を出さずに、乾いた音を出した。
「…残念」
ティファはもう一度、音の出なかったキーを人指し指で叩いた。
―思い出が蘇ってきたのは、ピアノの残響の所為だろうか。
「…セフィロス」
ティファはそう呟くと椅子から退いて、2階へ向かう事にした。
もう何度も繰り返した疑問をまた蒸し返す。そうしても答えは出る事は無かったし、行き着いたとしても納得出来るものでは無かった。
納得したくなかったのかもしれない。
だけど、そうする事で全てのピースが揃い、つじつまが合ってしまったのならば…
壊れてしまいそうだった。
「どうして…私をこんな目にあわせたの…」
ティファは悲しく、返答のない空に呟いた。
ちょうど置いてあった燭台を手に、ティファは地下書庫へと向かう。燭台には溶けた蝋がこびりつき、短いロウソクが刺さっている。しかしそう広くはないと記憶している地下書庫に向かうにはそれだけで充分な気がした。それは、経験による記憶だと気付くことのないままに。
最近に神羅の手が入ったとはいえ、やはり地下はひっそりと静まりかえっていた。電気が落ちているらしく、足元を照らす非常案内灯すら付いていなかった。
『怖いな…』
ティファは不安な足取りで書庫を目指す。
行かなければならない気がした。未だに葛藤する自身に答えを出したかった。
岩石が剥き出しの壁に、少し大きな作りの重厚な扉。ロウソクの揺らめく火に照らし出されたそれは、ティファを手招いている様に見えた。
そう、あの時もそうだった。
闇を怖がる私を苦しい位に抱きしめて、貴方は泣いた。
そして抱きしめあった。お互いに怖くて震えていたから。
私は闇が怖かったから…だけど。今思い返してみれば、貴方は光が怖かったのかも知れない。
自分の闇に光が差す事に脅えていたのかも知れない。
「…」
ティファはそっと扉に手をかけた。
長らく放置されていた証拠に、カビ臭いような淀んだ空気が鼻をつく。
ロウソクの灯りだけではあまり周囲の様子は分からなかったが、さほど変わった様子は無い。何度か人が入ったのだろうが、比べてみるにはあまりに記憶は遠すぎた。
「…」
静まりかえった空間。
モンスターの気配すら感じず、自分の息遣いさえ響く様に思えた。
ティファは記憶を頼りに奥へと進む。
背の高い本棚に挟まれた道。床に高く積まれた本を避けながら行くと、やがて大きな机が灯りに照らし出された。
円形状の部屋に合わせて作られた本棚に囲まれて、黒く重厚な机が鎮座している。机上には開いたままの本や実験器材などが置かれ、半分物置と化していた。
埃が積もったそれらを一瞥すると、ティファは机の前に置かれた椅子に歩み寄る。
燭台を机上の空いているスペースに置き、赤紫の布が張られた椅子を眺めた。
「…セフィロス」
闇に響いた名前。
ここに座って本を読む貴方は遠く感じたけれど、それでも優しく微笑んでくれた。
ティファはそっと椅子に座り、身を預けた。
『服、汚れるな…』
そんな事をぼんやりと思いながら、無気力に宙を見る。
膨大な本が与える圧迫感、ぼんやりと照らされたそれらは不気味であり、孤独をも煽った。
こんなに寂しい所で…貴方は独りで眠っていたのね…
ティファは少し、泣きたい気分になった。
今、何をしているのかと言えば…
星を救う為に旅をしている。
それも願うひとつだけれど、本当はもっと個人的な事で行動している。それは神羅への復讐心であったが、彼の出現により静かな変化をしはじめている。
今は『会いたい』だけで、それ以上を望めば側に居て欲しいのだ。
到底、叶いそうもない願いを闇に呟いた。
貴方など、ただ私を苦しめるだけで。
どうかお願いよ
戻ってきて
私の側にいて
それ以上、…行かないで
胸を突き上げる想いはとめどなく、鼻の奥がツンとした。
こんな暗闇の中で叫ぶ想いなど、きっと貴方には届かない。
『…きっと会いに行くわ』
戻れるものならば
私が居場所になるから
私は貴方を許したい
一緒に世界を見ようよ。朝日に目覚めて、水を浴びて、星空を眺めて。
貴方が憎む、美しくも、醜い世界を。
私はそれらを、愛している。
長い瞬きの後。
ティファは立ち上がり、服に付いた埃を払った。
強い視線を闇に投げ掛ける。
「必ず、会いに行くわ」
そう呟く。
含まれた想いは果てしない。
そしてティファは燭台を手に、颯爽と部屋を後にした。
深海には光がないとゆう
だからそこに棲む生物には目が無いのだと
まるで、貴方の様
貴方が導くままに
私はきっと辿り着くだろう
暗闇の貴方へ
光をもたらす為に
-Fin-
―――
◇後書き◇
ティファはセフィロスを説得したい、そんな話でした。この話はかなり色んな話のエピソードを継ぎ接ぎしたのでとっ散らかった印象なのですが、私の考えた最kyでなくセフィティ像のティファ側のベースだったりします。割と楽観的な感じで。しかしどうしても仇敵であるし、自身をも瀕死の重傷を与えられた事実は…本当、無視することも説得力を持たせるのも難しい。それでもセフィティに萌えるってんだから、なんという苦行!
また別の話として書こうと考えて未発表のままでいる、ジェノバの真相に辿り着くまでのセフィロスの葛藤期間とティファの話、それも少し盛り込んでいます。もう一本の長編書いた方がいいような気がしてきた。思いつきによる設定のバラつきもないし。笑。
ここまで読んで下さって有難う御座いました。