◇前書き◇
カダージュが愛されたくて堪らない、という話。「voice less call」と設定の共通有り。
タイトルは聴きながら話を書いた、天野月子さんの歌。切なくて綺麗で好き。

―――




壮絶な、戦い。


自分が一体どうやって倒されたのか、断片的な記憶に身震いする。

『彼』の負の感情に、同化した事で触れてしまい、その恐怖ともに自我を失った。

気が付いた時には、とてつもない疲労感とで、全てが終わっていた。



そして、僕は消えた。
空を仰いだ先に、君を見つけて。







ああ、こんな時にまで。



指先が、君に触れようと
不可能な距離を掻いた。



死んだはず。確かに僕は死んだはず。


長い眠りから覚めたような寝覚めの良さ。この不可解な状況にカダージュは眉間に皺を寄せながら、視界を埋めるピンクの花を見つめた。
甘ったるい様な匂いがする。この香りや風景は見覚えがある。散々、蹴散らしたはずなのに、こうして逞しく咲いていた。

『…教会?』
身を起こすと、教会の花畑の中に居た。
何でこんな所に…そもそも何故僕は生きている?
混乱した頭を抱えながら、身体に染み付いてしまいそうな香りの花畑より出て、そばの瓦礫にもたれかかった。

僕は、何故生きている?

途方に暮れて、ふと見た風景。
クラウドと戦い、所々壊れ、崩れた建物。忘れられた様に置かれた古い教壇の前には、派手にうがたれた穴に床板が囲む泉が湧きだしていた。
その水を花が吸い、その香りを充満させる。
数えられるほどの少ない思い出の内、良い思いをした覚えのない教会。こんな所で目覚めるなんて、何の因果だろうか。
意識を静めて、『彼』の思念に同調しようと試みる。
しかし調子が悪いのか、その感覚を拾う事は出来なかった。


『彼』の意識に触れた時、いつも、カケラとして見い出していた。それも、今は感じ取る事が出来ない。

それは、思い出の様なもの。
古いフィルムに触れたような、ぼやけた輪郭の情報。明確ではなくて、とりとめがなくて…、だけど、そのカケラを拾えば、じわりと熱を感じとる事が出来た。

「…ティファ」
囁いてみれば、胸の中心を掴まれた様な感覚。
その好奇心に誘われるままに、一度だけ会いに行った。『彼』からの伝言を伝える、そんな享楽も含めて。


綺麗で長い黒髪。長い睫毛に縁取られた、赤みがかった茶色の瞳。薄く透けた白い肌。

それらを前にした瞬間、『彼』の熱が急に
僕だけのものになった。


ああ、会いたい。
素直にそんな感情が出てきて、カダージュは少し驚いた。
自我とゆうものは持ってはいたが、大して気にも留めなかった。自分はただの『駒』であったから。
だけど、彼女に触れた事で少し変化をしてしまって、愛されたい、と願ってしまった。

『母さん』には、そんな僕の願いは届かなかったけれど…。

カダージュは何だか少しだけ、寂しい、とゆう感情を思い知った。

望んでも、いないのに。

ティファは泣いていた。
あの飛空艇の中で、床にひざまずいて。硝子張りだったから、よく見えた。
僕を真っ直ぐに見つめていて、その大きな瞳を見開いて。大粒の涙を流していた。

最期の時、それだけはよく覚えている。

でも、その瞳は僕を見透かしていた。
クラウドでもない、『彼』を見ていた。


僕はそんな意識のなかで、死んだ。


小さな瓦礫がカダージュの体重に耐えきれず、小さな雪崩を起こす。僅かに舞った土埃のなかにその身を任せたまま沈み、空を仰いだ。

「ティファ」
愛して、愛して。



僕を許して、慰めて、『彼』に触れた様に僕にして、それ以上に与えて。
乾いて震えた唇に血が滲む。



でも、
ティファは『彼』に溺れたままで、その水底で後悔と愛しさに揺らめき、酸素を失くしている。

彼女が望んだのは、この世界での共存であったから。
互いに相容れる事は出来なかった。
ギリギリまで迷っていた心、流されるままに行き着いた。果てにティファは『彼』を手離した。
半身がもがれる様な想いと共に。


「ティファ…」


もしも、それを叶える事が出来るなら?




「……どうせ、僕にはもう

『駒』とゆう役割も

忠誠心だとか

復讐だとか

アテも

何も無いし、ね」

君を想う、この心以外に。

強制的に回路を切り離された、この『使用済み』の出来損ないの塵が、それでも存在したい理由なんて。


君に触れたい、それだけなんだよ。


…―バシャッ!

盛大に水飛沫をあげて、其処らじゅうを水浸しにした。

透明で綺麗な水。

石油の様にまとわりつく水にあらがって、焼けつくように痛む身体を何度も何度も沈め、深く潜る。
声にならない程の激痛。
酷い吐き気を、その水を無理矢理飲む事で押さえつけた。

あの時、降った雨と同じ。ここの水は僕らには猛毒も同じだ。
聖水だと、人は崇めても。

ひりつく喉の奥で、感情のタガが外れて、言葉になりたがっている。

「ああああああああああああッ!!!!!!!!!」


愛されたいのだ

どうしても

君に


それで、彼女に近付く事が出来るなら
思念体としての存在意義など失ってもいい。


この水で生まれ変わり、君の傍に居たい。
君の望んだ未来を叶えたい。

その未来は僕も望んだ事だから。
君の傍に在れるだけでいい。



「愛して、ティファ」

夢を見た。

水底に君が。
たゆたう水が君の髪を揺らす。

君の元へ行こうと水を掻くけれど、距離が縮まらない。君が見えるのに、近づけない。


どうか僕を見て!
ひりつく喉で叫ぶ。


君は、静かにその揺らめく瞳をひらいて…優しい眼差しを僕にくれた。
















体力も尽きて、虚ろに水面に浮かぶ花びらを眺めていた。


痛覚も麻痺して、絶え間なく与えられているはずの痛みも、どうでも良くなっていた。

望んだ未来。
君と、この世界で暮らす夢。


それは、きっと…

『彼』も何処かで望んでいたんだよ。



僕だけの愛しさや傷みが、彼に僕とゆう『端末』を通して伝わっていく。
僕は結局、『彼』の一部でしかなかったけれど。


今、思い出した。

死んだはずの僕は、最期の時に分かたれて
そのカケラがここに存在した。


僕は『カダージュ』の思念体のカケラ。

ただ君に愛されたい、と。
そればかりを願う心のカケラ。





この身体がもし、
生まれ変われたら、


君に、会いたい。


-Fin-

―――

◇後書き◇
勢いで書きました。当サイト史上一番エグいんでは?と心配になる。急に思いつくままに書いたんで…なんか色々無茶ですし。
以下、補足。
この話のカダージュは『カダージュの思念体』で間違いないです。最期にティファを思い残す事で、思念が分かれた。ミラクル設定。爆。
私はまず『思念体』とは肉体は無く、意識の集合体が物質化、とゆう解釈をしています。はい、超解釈すんません。
だから、凄く強い思いならば叶うのでは、と。セフィロスがカダ達を作ったのと同じ様に。
で、カダージュも同じ事が出来たという。だけど、生み出されたのはコピーのコピーだから知覚ネットワーク的なものには鈍い。だから主であるセフィロスにうまく同調出来ないし、セフィロスからの『声』にも鈍い。
で、何でそこまでしてティファと居たいの?なんですが、思いついただけなんで…いや、でも『母さん』に愛されなかったカダは傷付いてて半ばヤケ気味に「愛されてぇえ!」とか思ってる。セフィロスに対する劣等感も含めて。で、セフィロスを忘れられないティファに近付きたかった。なんせ、ティファが好き、とゆう想いの塊ですからね。

で、あのラストですが。人魚姫みたいだし水泡にでもなってんじゃないですかね。 投 げ や り ッ !
なんて。話自体、思いつきなんで…何とも。暗くてゴメンなさい。
悲しかった人はこの後、ちゃんと生まれ変われてティファに懐くカダージュ。そんな未来を補完してあげて下さい。続きを書くとしても、どうもギャグに走りそうなので。
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