◇前書き◇

エアリス離脱後の話。ダークテイストです。
別作品「Dreaming Day」と設定の共通があります。



―――


後ろ手に閉めたドアの向こうには、まるでもうひとりの自分が立っているかの様だ。

この、心だけが抜け落ちたかの様な感覚。ドアを閉めた自分は、『身体』なのか『心』なのか、それさえも曖昧になる。
それとも、自分がまるで分裂してしまったかの様な。


叫んでいた、制止を訴えて。

一体何を止めようとしている。自分が今、何かをしでかそうとしているとでも言うのか。

何か―…か、違いない。

後ろ手のまま手探りで鍵をかけると、カチャリ、と小さな音がした。それは、闇にはよく響く。
歩く度にキシキシと板張りの床が鳴る。そんな些細な音さえ、今は障る。

僅かな月明かりに照らされた宿の一室内は簡素で、それもまた何処にでもあるような見慣れた風景。
ベッドに寝そべる君―…ティファをも含めて。


長い睫毛に影が落ちているティファのその安らかな寝顔に、クラウドは穏やかに微笑む。

今すぐ起こして、耳まで赤く染まったその顔を、切なく歪ませてやりたい。そんな獣じみた考えに身体の熱が反応しだす。
だが、3つ並んだベッドの1つの存在が気にかかった。




エアリスが居なくなった。
ゴンガガで目覚めた時には、もう居なくなっていた。どこかの森で、セフィロスを止める、そう語りかける夢を見た。

セフィロス―…一体、自分は何をしたのか?
あの時の事はよく覚えていない。


「ん…」

「!」
ティファの声で我にかえり、反射的にティファを見た。

相変わらずの安らかな寝顔。寝言か…、どこかで安堵した。今、自分は酷く不安な表情をしているだろうから。

「ティファ…」
ギシリ、と体重を受けたスプリングが声をあげて軋む。
傍らに座り、ティファの頭を挟むように両手をついて、その美貌を眺めた。
『俺…ティファが好きだよ』
そう囁いては、幾度か貪った身体。

幼い頃から好きだった。
カッコつけたくて必死だった。
こんなにも近いのに、とても遠く感じた存在。
どんなに望んでも、手に入らないと。初めて感じた存在。

今でも。それは変わらない。


薄く透けた肌が、月明かりにぼんやりと光ってみえる。
茶色く染められた髪がふわりと頬にかかっていて、薄く開かれた唇の横を通っていた。

なんて、綺麗。

クラウドは心臓がぎゅう、となりながら、何処か醒めた意識でその寝顔を見届けた。

唇が触れ合う。
柔らかくて、もっと、その奥を味わいたくなる様な陶酔感。

『…』
静かにクラウドは唇を離して、ついていた両手をも離した。


ドアの向こうに、もうひとりの自分が立っている。

『…アンタの立ち入る隙は無いんだよ』
がくりと首を落とし、クラウドは項垂れる。

自分がひとりではない様な感覚。
何かがごっそりと抜け落ちたような、落ち着かない感覚。

ひどい頭痛がする。
砂嵐に意識が掻き乱されているようだ。グラグラと回る床を見つめていたら、その内回っているのが自分の目だという事もどうでも良くなってきた。

目をかたく瞑り、無理矢理に混濁した意識を静める。
うまく焦点の合わない瞳でティファを見ると、いつの間に寝返りをうったのか、その表情を見ることは出来なかった。

ああ、ティファ。

自分のこの想いだけで、発狂しそう―…。


うまく保てない意識で、引き摺るようにティファの眠るベッドから離れた。

フラフラとさ迷う様に歩く姿は、まるで幽鬼だ。
先程、鍵をかけたドアを睨み付け、クラウドは不敵な笑みを浮かべた。


「ティファは…ティファだけは渡さない」

ぐにゃりと歪む視界。崩れ落ちる、その意識の最後に。
ドアから、ガリ…と悔しそうに爪を掻いた様な音が聴こえた気がした。


この、2人だけの世界に

鍵をかけて。


-Fin-

―――

◇後書き◇
なんか全然ラブラブしてねぇですねッ!しかし個人的には気に入っている話です。
これは偽クラウドなんです。えーと…『Dreaming Day』に書いた、クラウド+ザックス+ジェノバのヒト(ややこしい…)
こう…主人格のクラウドに逆らってでもティファを手に入れてやろう…とか、そんな感じ。でもジェノバとしての使命だとかには目覚めてないのです。
エアリス離脱後のクラウドはすっごい不安定になってると思う。自分が分離しちゃってたし…。だからもう不安でボロボロなんだけど、ティファは渡したくない、と。
今回はティファはずっと寝てたので(笑)ティファの気持ちだとかは書かなかったんですが、ティファは『本当のクラウド』を見てるので偽クラウドとはすれ違ったままなんですよね、本当の意味では。
そんな両想いに見えて実はかなり一方的な切ない恋。
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