◇前書き◇
ちょっとビターテイスト。

―――

コレルプリズンから脱出して、バギーで浅瀬を渡る。

川幅は結構なものであり、浅瀬といえども道ではない所を押し通るのだ。渡るには数十分はかかった。
狭い車内でハンドルをバレットに任せ、クラウドと私は手持ち無沙汰にただフロントガラスを見つめる。
クラウドはその先を見ていたのかもしれないし、こうゆう時のクラウドは底知れないものがある。先程からグラグラ揺れては体が浮き乱暴にシートに沈む、その最悪な乗り心地に機嫌を悪くしたようにクラウドの眉間には皺がよっていた。

「きゃっ」
一段と強い衝撃に思わず洩れた悲鳴にクラウドは一瞥をくれた。
「…ティファ?」
「なんでもないわ、大丈夫」
ティファの返事もそこそこにクラウドはまた腕を組み、先程と同じ体勢に落ち着いた。
「悪ィな、ティファ」
バレットが真剣な表情で前を向いたままティファを気遣う。ティファは遠慮した様に笑うも、その笑顔は誰も知ることはなかった。
「平気よ」
気丈にふるまうティファの小気味良い返事がバレットに活力を与えた。
「よっしゃ!岸がやっと近付いて来たぜ」


バレットの言う通りに数分もしない内に岸に到着できた。そのままゴンガガまで行こうかとしたバレットをクラウドが静止した。
「少し休もう、バギーの様子も見てくれ」
先を急ぐクラウドにしては珍しい事にティファは思う。
「大丈夫?クラウド、もしかして…酔った?」
少し冗談めいて言ったティファに対し、クラウドは首を横に振る。
「そんなんじゃない」
少しぶっきらぼうな口調にティファは少し遠慮した。
「そう…、ならいいの」

バギーのメンテナンスもそこそこに、各々で休憩をとる。
見つめる先には雄大な景色が広がっていた。
遥かに霞む山脈、その麓に広がる森林。ティファはその先が水源であろうと推測する。

そうだ、あの先はニブルエリアではないか。
ティファは驚いたような、少し意外な気持ちになった。自分の故郷から流れる水が、故郷を離れた自分の元へこうして流れてくる。長らく故郷を離れていた為か、少しだけ嬉しかった。

「あ…」
河の上流にある茂みからクラウドが歩いて来た。河辺に佇むティファの姿を見付けると、少しうつ向きながら真っ直ぐ向かってきた。
『もう出発かな?』
ティファはそんな事を思いながらクラウドを見守っていた。

「…休めたか?」
クラウドは言葉を探すようにティファに話しかけた。ティファは少し頷くようにして「ええ」と返事をする。
「そうか…。バレットは?」
「さぁ?一緒じゃなかったし…バギーの所かな?出発なら行くわ」

「いや、その…もう少しここに居よう」
「…え?」


クラウドは益々居心地の悪そうな顔をすると、ティファを交わして下流へと歩き出した。
「…」
サクサクと歩いていくクラウドの後ろ姿を見つめながら、ティファはその素っ気ない態度に少しいじけた気分になった。靴を直すふりをしてうつ向いて爪先で地面を蹴っていると、
「ティファ、こっちだ」
と、クラウドの声がした。顔を上げるとクラウドが少し先で待っている。
ティファは少し照れ臭くなるも、靴の爪先についた砂を払い、クラウドの元へと駆けて行った。

「ねぇ、さっきはドコに行ってたの?」
ティファは話題を変えてクラウドに些細な質問をした。
「ああ、いや。ただの散策だ」
「ふぅん…」
少し歩いて気分が晴れたのか、クラウドの顔色は良くなった風に見えた。それはただの『機嫌』の問題だったのかも知れないが。

「私もそう」
ティファの発言にクラウドは少し笑った。

「あ、ねぇ、この河ってニブルから流れてるみたいね?」
「らしいな」
正確にはゴールドソーサーエリアとニブルエリアを分断する山脈にある巨大な湖が水源となっている。クラウドはティファの好奇心を少し下らなく思う。
「それがどうかしたのか?」
思わず言ってしまった素直な質問に、ティファは気を悪くするでもなく遠慮がちに微笑んだ。
「うぅん、ちょっと懐かしかっただけ」

5年前の悲劇は知っている。

同時に失くした故郷、家族。ティファにはそれこそが世界の全てだった。


その心境を察するには想像力は足りなくて、かけてやれる言葉も見つからない。
そんなクラウドの無力に喘ぐ姿を、ティファは微笑って許した。
「ありがとう」
そう微笑って。

曖昧なままの距離や会話がお互いを探りあっているようだ。無意味なやり取りにも2人は気付かないふりをする。

本当に話したい事はこんな事ではないはずなのに。



ふと、しびれを切らした様に強い風が2人を浚う。その風に乗って、遥か高みに大きな鳥が舞った。
「…」
もし、私が全てを疑う日を越えてゆけたら。貴方に全てを伝えよう。それによって貴方が崩れたなら…私はせめて貴方のそばに居よう。


「バレットが待ってる」
ティファは鳥を見守りながら、僅かにも確かに覚悟を決めつつあった。




「クラウド、行こう」


ティファの透明な瞳にクラウドは何かを感じ取る。
きっと何かをティファは知っている、それは分かっていた。そして不安だった。
それが今は、ティファの静かな覚悟にクラウドは何も言わずにいることにした。いつかは打ち明けてくれる、そしてそれは大した事ではないと祈る気持ちを抱きながら。


クラウドが手を伸ばすと、ティファは信頼しきったようにその手をとってくれた。


「行こう」


激流に翻弄されて、その流れが不浄のものだとしても。
その源はいつだって澄んでいる事を知っているから。


それはただ貴方に降り注ぐ清らかな全てであればいい。
いまさら白い鳥でいられない私達の、せめてもの儚い祈りを叶えるのは、この汚れた手でも。





-Fin-

―――

◇後書き◇
微妙にビターテイスト、惹かれあってはいるのにまだ打ち解けきれていないクラティでした。
てか実はこれクラティじゃなく、セフィティのつもりで書いてたんですが…脱線しました。爆。クラウドとティファの微妙な距離感も好きなので。序盤のティファのちょっと生意気な感じも可愛いし。何と言うか…「ティファが本当の事を言わないのは怖いから」だとか、そんな後付け。
あ、そうそう、クラウドがバギー止めたのはやっぱりちょっと残ってる乗り物酔いから(笑)
あと、地理情報もちょっと確認したかった感じです。河だとかエリアだとか…ここまでくると詳細な地図や地名が欲しいくらいですね!
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