◇前書き◇
ティファパパ考察話ですがクラウドオチなのでこちらに収録。ティファの幼い頃の話。
※パパの名前が分からないので作中ではロックハートとしています。
―――
ニブル山から吹く風が冷たいと感じ始めた頃、ティファは風邪をひいてしまっていた。
「ゴホッ…ゴホッ」
ひどい咳に喘ぎながら、ティファは自室の窓に切り取られた空を眺めた。
あまり長く目を開けていられないので時々する瞬きは長く、熱の所為で浮かぶ涙が流れる。
その儚いまでの美しさは11歳の少女には似つかわしくない程でもあるが、同時に童話の中に登場する様な清らかで純粋な乙女の姿を連想させた。
白い肌、紅潮した頬に掛かる艶やかな黒髪は細くしなやかだ。
例えるならば、白雪姫と言った所か。
「どうも季節の代わり目はいかんな」
そう言いながらティファの部屋に侵入しベッドに歩み寄る男、ティファの父親だ。
手に木製のトレイを持っている。その上にはガラスの器と小さな木製のスプーンが乗っていた。
「…パパ」
やっと、つらそうに自分を呼ぶ娘のいたいけな姿に、ロックハートは安心させる様に微笑みかけた。
「林檎をすりおろしてきた。食べれるか?」
「…うん」
「そうか、無理はするんじゃないぞ」
「平気…」
ティファは身体を起こそうとするが、関節に鈍い痛みが沸き上がる。それを悟り、ロックハートは娘の背中を支え、枕を差し込んだ。
「パパが食べさせてやろう」
「…、うん…ありがとパパ」
ひとさじ適当な量を掬い、ティファの薄く開いた口元に持っていく。照れているのか、ティファはぎこちない動作でそれを口に含んだ。
「…」
「…美味しい」
「そうか」
そして、ほんのふたさじ程食べた後ティファは首を横に振り、ありがとう、と微笑んでみせた。
「もういい…ありがとパパ」
「ああ」
とりあえずトレイをピアノの椅子に置き、ティファをまた寝かせる。
黒髪が枕に散り、薄く色付いた柔らかく白い肌は、やはり美しく。
ロックハートはある女性を少女に見い出していた。
「…やっぱり、ティファはママに似ているな」
「ん…?」
「ママもティファみたいに綺麗だった。覚えているか?」
ティファは記憶を辿る。
ママは本当に綺麗な人だった。
病気がちで、にっこりと笑う人だった。
ニブル山に咲く白い花が好きだった。
ピアノを教える手は白磁の様に真っ白で、指は鍵盤を叩くだけで折れてしまいそうな位に細かった。
綺麗な歌声はピアノに邪魔されていた。
真っ黒で綺麗な髪、長い睫毛、少し赤みがかった茶色の瞳。
いつも外を眺めてた。
「…嬉しいな」
「賭けてもいいぞ。ティファはママに負けないくらい綺麗になる」
「本当に?」
「ああ。だから今はお休み…病気に弱い所もママに似ているらしいからな」
そう言ったロックハートの顔は少し青ざめていた。
「…、うん。パパ、お休みなさい」
ティファはそんな父親を察したのか、素直に目を閉じた。
ママは、すりおろした林檎を昼食に、パパの手でふたさじ程食べた後、…逝ってしまったのだ。
その状況は、今とよく似ていた。
娘の安らかな寝息を確認すると、ロックハートは出掛ける準備をする。
安定した稼働をしない魔晄炉の様子を見に行く為だ。
「すみませーんッ」
用意をしている最中に、玄関の方で大声がした。
ティファが起きたらどうするんだ。
ロックハートは苛立ちながら玄関のドアを少し乱暴に開けた。
案の定、そこには近所の子供達。ロックハートは余程険しい顔をしているのか、子供達は怯えている様にさえ見える。
「ティファはやっと眠ったんだ。静かにしてくれないか」
「ご、ごめんなさい」
「あの、これ!お見舞い…です!」
子供が様々なものが入ったバスケットを差し出した。
中にはオレンジやプラム等のフルーツの他に、丸めた紙やらガラクタが入っていた。
ロックハートは心底呆れる。
「…、悪いが。ティファが元気になってからにしてくれ」
極めて素気なく言うと、ロックハートはまた乱暴にドアを閉めた。
子供達をあしらい、早々に用意をし終えて、ロックハートは上着をはおった。
「…」
ティファの事が気にかかったが、魔晄炉について放って置くわけにはいかない。
神羅のやり方には細心の注意をはらわなければならないのだ。
ロックハートは誰よりも、それを注意していた。
林檎を食べて、
眠るお姫様に近付く影がひとつ。
ピアノの影に隠れて様子を窺う姿は、小さな影では微笑ましくすらある。
奪われた様に、反らせないでいる視線の先には
水源の様に流れる黒髪を枕に散らせた、頬と唇を赤に染めたお姫様。
伏せられた長い睫毛には涙が乗っている。
静かに眠るティファの側にそっと近付けば、初めて間近で見るその愛らしさに目がくらむ様だ。
そっと彼女の手に触れてみた。
思ったより柔らかくて、熱い。
そっと、彼女の側に摘んできた白い花を置いた。
目、覚まさないかな。
小さな願望が芽生えて、少しだけ触れてみたくなった。
小さな唇を尖らせて、お姫様の頬に触れてみた。
『わ―――――ッ!!!』
逃げる様に駆け出す影は、子チョコボによく似ていた。
そして
お姫様は救われ、小さな白い花で彩られたベッドで目覚めたという。
-Fin-
―――
◇後書き◇
ティファパパの執着ぶりを書きたかった。
私の中ではティファは病弱な設定。体を鍛え始めてからは滅多に病気にならないけど、一度風邪なんかひくと何日も寝込む。ティファママは病死。だからパパは物凄いティファを大事にする、ママに対する後悔とかもない混ぜにして。ティファはそんなパパに踏み込めないでいます。まだママの死を二人とも微妙に受け入れられない、そんな微妙な距離感が出せたらなと。そして遠慮したまま成長して、ティファも父を放っておけないのもあって無意識のうちに村に残るという選択しか出来なかったのかなあ、と。
私のティファパパのイメージは臆病で慎重、狭量だけど不器用で優しいのです。ゲームの中では悪態つくし嫌な親父すぎますがね(笑)
そしてチョコボ頭オチという。クラウドがひたすらしょっぱい幼少期ですが、ちょっとくらいエピソード欲しかったなあ、と今でも思う。まあだからこそ高嶺の花、不可触の女神みたいな…そんな憧れなんかをティファに抱くようになるという妄想は捗るわけですが!パンツはご利益賜るお守り感覚。