◇前書き◇
セフィロス×ティファです。5年前、セフィロスがニブルヘイムに派遣された時の話。セフィロス怪しいです、通報されそうです。

―――

―外が騒がしい。

机の上で手紙を書いていたティファはふと窓を見た。

「ソルジャー御一行様、御到着…か」
ティファは皮肉めいた口ぶりで呟くと、握っていたペンを置いた。少しの好奇心はティファの足を窓際に向かわせる。

『どんな人達なんだろ…』

思い浮かべた様々なイメージはどれも屈強で豪快で逞しい男達。
きっと無作法で、優しくないんだろうな。ティファは歓迎するつもりも無い故に、偏った考えをしていた。

窓枠に手を添え、広場を眺めた。

青い服を着た神羅兵が見える。
『あなた達が来たせいでピアノも弾けないんですよー、だ』
そう悪態をついて、その口ぶりに自分でクスクスとティファは笑った。
暫く広場でやりとりとしたあと、数人の神羅兵士が宿屋に入って行った。
『…ザンガン先生、大丈夫かな…』
ふと同じ宿に泊まっている格闘技の師匠の事がよぎった。何となく胸騒ぎを覚え、空模様を窺う。

正午をだいぶ過ぎた頃、厚い雲で空が埋まってしまいそうだ。
ニブル山には黒い雲がかかり、その姿が覆い隠されてしまっている。

「雨が降るわね…」

憂鬱な気持ちで一通り空を眺め、ふと視線を広場に戻す。

そこには、
金属の様に輝く銀髪をなびかせた美しい男が、ティファを見ていた。

ティファは驚いて、反射的に身を隠す。
「…やだ…何?」
まっすぐに見つめられ、刹那、心ごと射抜かれた。跳ね上がる鼓動を抑える様に、ティファは胸を押さえた。
呼吸を整え、意を決して再び窓辺に立った。広場を見ると、もう誰も其処には居なかった。
ティファは、ほぅ、と安堵の溜め息を吐くと、再び空を見る。
不吉ささえ感じる空模様に胸騒ぎを覚え、カーテンを握る手に少し力が入った。


夕食の準備をする頃に、とうとう雨が降りだした。
「…パパ」
何となく心細くなり、ティファは町内会議に出席している父の事を思い出した。
小さな町だが神羅直々の調査、しかもソルジャーを迎える事になり、皆、神経質になっていた。
「…」
早く終われば良いな、ティファはそう思いながら一人分の夕食を作る事にした。



―夕食を終えて、風呂上がりのティファは自室で父親の帰りを待っていた。
「本当、よく降る雨…」
雨音に溶け込む様に、独り言が虚しいまでに部屋に響く。
ティファは就寝時間までにはずっと早く、時間を持て余していた。
「…」

窓辺に立ち、町で唯一の店の方を見た。経営者とゆう事もあり、町内会議は専らよろず屋の居間を使わせて貰っている。
霧でぼやけた明かりが見える。まだ会議が長引いているのだろうか?

「遅いな…」
ティファは寂しく、また独り言を呟いた。
しばらくベッドで本を読んでいたティファの耳を雨音が擽る。雨足が少し弱くなってきた様だ。
ティファは何となく外の空気が吸いたくなり、窓を開ける事にした。
『…大丈夫、降り込まないみたい』
確認するとティファは、昼間そうする様に窓を開け放つ。
そう言えば、今日は空気の入れ換え出来なかったっけ。
一応の目隠しの為、薄手のカーテンを引きながら、ティファはその原因である神羅一行の泊まる宿屋の方を見た。
やはり霧の所為で見通しは悪いが、柔らかい明かりが見える。

ふと、昼間に見た銀髪の男を思い出した。
ティファの背中が震える。

なんて、冷たい瞳なんだろう。
そう思ったけれど
それ以上に、強い意志を感じ、それを
美しい、と
思った。

「あの人も神羅の人間…よね」
ティファは少し不機嫌になる。神羅は元々あまり好きにはなれなかった。かと言って、今の生活に感謝しない訳でもない。
『私…ひねくれてるかも』
そう思い、軽い溜め息を吐きながら読書を再開する事にした。

―コンッ、コンッ
「?」
ページをめくる指が反応した。玄関をノックする音が微かに聞こえた。
『誰だろ…』
ティファは然して気にもせず、玄関へ向かう。
『パパのお使いかも…何か忘れ物かな?』
―コンッ、コンッ
「は〜い」
鍵を開け、ドアノブに手をかけた時。
ふと、気付いた。
ノックの音…リズム。それが今までの、どれとも違うのだ。
しまった、そう思うよりも先にドアが開いてしまった。

ティファは思わず後退さる。
そこには、あの銀髪の美しい男が雨に濡れて立っていたのだった。
ティファは驚いて、ただ立ち尽くしている。
「…」
「…」
男の美しい銀髪には雨が滴り、その端正な顔に張り付いている。黒尽くめの格好はその威圧感を助長し、圧倒的な存在感をその男は纏っていた。
黙ったまま男は玄関をくぐると、ドアを閉めた。
「…ッ」
突然の行動に益々警戒を強めるティファ。
そんな彼女を無表情で見ると、彼は頬に張り付いた髪を払う仕草をした。
「父親は居るか?」
「え?」
「…帰ってないのか」
「…」
一方的な語り口にティファは少しムッとした表情をする。男はそんなティファに少し笑みを溢す。
初めて見たその表情は笑顔と言うには、あまりに乏しいものだった。
「失礼。私はセフィロス、ソルジャーだ」
「…ソルジャーのセフィロス…」
「そうだ」
その名前には覚えがあった。ただ写真の無い記事でしか見た事がないので顔は知らない。写真は嫌いらしい。
「新聞で見た事あるわ、…同じ人?」
「…、おそらく」
「ふーん…」
ティファは興味無い、と言わんばかりに素気のない返事をした。
「父ならいません。よろず屋さんに居ると思います」
村の要人の集うよろず屋を先に訪ねないのは何故か。もし訪ねた後だとしたら父は何処に行ったのか。そんな嫌な考えがよぎり、ティファはこの何となく鼻持ちならぬ訪問者を追い返すべく意地悪に振る舞ってみせた。
「…、そうか」
当のセフィロスは、ティファの子供らしい考えに気付いているのか否か、全くの無表情だ。
「…な、何ですか?」
何の畏れも照れもなく、まっすぐに見つめられティファは居心地の悪さに身動いだ。
まともに目を合わせる事さえ出来ずにいる自分が恥ずかしくさえある。
「…」
相変わらずセフィロスは黙ったままでティファを見つめている。
鋭利な視線を感じながら、ティファは何故か
『負けるもんか!』
と、顔を上げた。

やっぱり、その人は綺麗で。
少し黄色を帯びた緑色の瞳は本当に冷たくて、この人は孤独なのだろうか?と、余計な想像までさせる。

孤独なのは、同時に潔癖であるのだと

気付けばティファは、セフィロスに見惚れていた。

「寂しいのか?」
「ふぇ!?」
セフィロスの一言で我に返り、ティファは質問の内容ともに素頓狂な声を出してしまった。慌てて口を押さえてはみたが、当然セフィロスの失笑を買う事になる。
「…昼間、泣きそうな顔をしていた」
顔を真っ赤にして俯くティファ。その優しい声色に促される様に、顔を上げる。
―ああ、やっぱり幻ではなかったのね。
何となく白昼夢の様に感じていた出来事に、ティファはまた背中が震えるのを感じた。
「泣きそう…?」
「ああ。不安で寂しくて、死んでしまいそうな位に」
「やだな…大袈裟だわ…」
セフィロスの言葉に翻弄されているのは、心当たりがあるからだとティファは素直に受け止めた。
「…」


独り、忘れられた様に
置き去りにされたみたい
そんな風に感じていた。

遠い異国に発った友人に手紙を書く度に
私が知らない景色を想像しては
この町が窮屈に感じた。

なかなか来ない返事を指折り待つ日々

この町は大好きだけれど、
特に当ても無いけれど、
もっと自由になりたい
そう思っていた。

待ってばかり、私。


溜め息を吐いて、独り言を呟いて、
空を眺めてた。

「寂しくなんかないわ」
ティファの虚勢に、セフィロスは眉をひそめた。声が少しだけ威圧的なものとなる。
「嘘だな」
「嘘じゃないわ」
強情な口ぶりに、セフィロスは呆れた様に笑った。そして少し考える様な仕草を見せると、一歩ティファに近付いた。
「そうだな…。ならば」
「ふぇッ!?」
ティファの妙な悲鳴を塞ぐ様に、セフィロスの唇はティファのそれと重なっていた。

濡れた銀糸がティファの視界に流れる。

柔らかい唇の感触を味わう様に、何度もついばまれ、更に唇を割り、深く舌を絡めとられる。
セフィロスの唇は氷のように冷たかったが、その先にある舌は熱く、思考までも溶かすようだった。

突然の出来事にティファの思考は止まってしまった。
「ん、ふぅ…は…っあ」
長いキスを終え、酸欠気味になったティファは呼吸を求めて息を荒げる。
「良い声だな…続き、と行きたい所だが…まだお前は幼い」
「…何言って…」

「だが安心しろ。この借りは返す」
「?」
「フフ…」
セフィロスはさも愉快そうに笑うと、ほんのり赤く染まるティファの首筋に軽くキスをした。
「あ!?」
「では、失礼する」
そう言うと、今度は綺麗な笑顔で、セフィロスは去って行った。
「な、何だったの今の…」
後に残されたティファは首筋を押さえ、うるさい位の鼓動を聞いていた。


もう、雨音は止んでいた。




「お前はティファを縛りつける鎖でしかない」



振り下ろす刀に、抵抗する間もなく切捨てられる男。



転がる男から、おびただしい血が流れる。



ティファは母親似か。




だけど、もう



目の前が真っ白だ。



まるで、あの日の雨の中。

見上げた先の窓に佇む、柔らかい光に浮かぶ君。



真っ白な霧の中、

不安に揺れる

お前を見ていた。






「お前に自由をやろう」



あのキスの礼に。
お前は私に
よく似ているから。

-Fin-


―――

◇後書き◇
こじつけてみました、あの日クラウド就寝後にこんな秘め事がッ!みたいな。阿保。セフィロスが変。
セフィロスはこの後、原作通りの流れで真実を知り精神が不安定になるのですが、やっぱり自分の意志を持っていて欲しいなぁと思い、こんな結末にしました。
つまり、ティファパパを手にかけたのも、村を焼いたのもティファを自由にしたい為。そしてティファを連れて行くつもりだった…とか妄想していました。
私がセフィティに萌えるのは「都会に憧れつつも動けない境遇に現れた王子様」みたいなシチュが好きなせい。まあ原作では破壊的な意味での境遇からの脱出なのですが…!よって、ティファの「一人取り残されたような孤独」を細かく描写出来るのは有難く、力が入るポイントであります。私の中で「喪失」は娘っ子ティファのテーマっぽくもある。仲の良かった友達は年頃になると離れていき、家族を失って、故郷を失って、と。
あとティファパパを捜していたというセフィロスの顛末も追加しようかと思ったのですが、その捜索こそ殺すため、という話の運びも面白いかな、と手直しせずそのままにしました。全く表現できてねーよ、というのは自分でも思います。
この後「続き」を頂きに来るセフィロス、とか考えていたはずなのですが経年により忘れた…!そしてこの話のティファがこのままセフィロス好きになるかな…と考えてみれば動機が弱いかな、と今は思う。同じようなシチュエーションで、もっと親睦を深める話の草稿があるのでこの話をベースに仕上げたいです。
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