◇前書き◇
ダークなヴィンセントです。苦手な方は逃げて下さい。クラウド行方不明のティファパーティ設定。


―――


出会った頃と比べて少し痩せた身体に、彼女の限界が近い事が容易に分かる。

皆に心配をかけまいと気丈に振る舞う仕草が、余計に心配を誘う。

必死に隠しているから気付かないフリをしようと、そう決めていた。

彼女の足取りは軽い。

きっと心が落ち着かず、ここには無いのだろう。

ただ、一人を探して

さ迷う心は何も見ない


壊れてしまいそうな細い肩は、震えていて。

背中を震わせる程に

ただ、
美しかった。


「も〜、何処にいんだよクラウドはッ!」
赤いマーカーが卓上に展開された地図を塗り、ひとつの街を潰した。
ハイウインドのミーティングルームで、バレット、シド、ユフィ、レッド]V、ケット・シーの面々は熱心に地図を見ていた。
「まだ探してないのは?」
「北コレルとゴンガガ…後ミディールとダンジョンが4つ!」ユフィはマーカーのキャップを締めながら、リストを読み上げた。
「時間があまり無い、早くクラウドを捜さなきゃ…」
「分かってるよ!だがな、今はこれで精一杯なんだ!」
レッド]Vの言葉を遮る様にバレットが怒鳴る。
皆が苛ついていて、段々と近付いてくるメテオに不安や恐怖、怒りを感じていた。
「ティファから連絡は?」
「ああ、さっきニブルヘイムに着いたってよ」
「ティファ大丈夫かな?」
「ヴィンセントが付いてる。それに思う所があるらしい。」
「じゃあアタシらは他を当たろう!」


なんて
酷い事をしてくれたんだろう


ティファは給水塔を見上げて思った。
昔と変わらない様でいて、全く違うモノ。まるで存在を疑う事を嘲笑うかの様に、老朽化し錆び付いている。

私の過ごした日々さえ、夢だったかの様に。
私達は存在を消されてしまったのだ。
嘘で塗り固められた、故郷だった場所。
私の部屋も、好きだったピアノも、お気に入りのワンピースも、
あの日の私はもう…。

全てが同じなのに
懐かしいと思えないなんて。

「本当、…なんてこと…」

ティファはそっと錆びたパイプに手を置いた。
「ティファ」
「…」
名前を呼ばれ、ティファが振り向くとヴィンセントが少し遠慮がちに佇んでいた。
「見て貰いたいモノがある」


ヴィンセントに導かれて来たのは神羅屋敷。
モンスターはヴィンセントが粗方片付けたらしく、ひっそりと静まりかえっていた。
秘密基地だった場所。
憧れていた大きなグランドピアノはもう音が出ない。

―ギシッ!
「きゃっ」
「どうした?」
「ごめんなさい、ちょっと床が…」
床が大きく軋んだらしい。バランスを失ったティファはとっさにヴィンセントのマントを掴んでいた。
「あ」
ティファはそれに気付くと慌てて手を放そうとした。が、それよりも早くヴィンセントはティファの手を掴んだ。
「床が軋んだ位で転んでいては危険だ。暫くこうしていろ」
そう囁き、ヴィンセントはティファの手に指を絡めた。
「…ごめん、なさい」
「…、気にするな」
弱々しい声、力の無い足取り、折れてしまいそうな指。
ヴィンセントは少し躊躇ったが、ティファの手を引いた。
一段、一段とエントランスホールの階段を上る。

目指すは、地下書庫。


前にも訪れた事がある地下書庫。
セフィロスによって読み荒らされた本はティファの身長を超える程に積み上げられている。それらは、どれも埃かぶっていた。
きっと、此処だけが昔と変わらない唯一の場所なのだ。
そう思うと、少しだけ胸が詰まる。
陰湿な空気は弱った心を蝕む様に、ティファの表情は更に青白くなった。

ヴィンセントはティファの顔色を横目で窺いながら、書庫の一角に設けられた化学実験台へと向かう。
―今思い返してもおぞましいばかりか、吐き気さえする。ヴィンセントはやや険しい目つきで台を颯爽と過ぎると、そこには大きなガラスケースが並んでいた。
「これ…は?」
「…ここを見てみろ」



『ココカラニゲヨウ』
『エサノジカンガチャンスダ』


文字をなぞるティファの白い指が更に青褪めて震えた。

「…こんなところに…人を…?」
「…らしいな」
ガラスケースに添えられたティファの手が拳を握った。
「…大嫌い」
「…」
「大嫌い!神羅なんて無くなってしまえばいいんだわッ!」
ティファの拳はガラスを叩いた。しかし、超高質化ガラスを割る事は敵わなかった。
「ひどい事を…なんてひどい事を…」
うわ言の様に繰り返される言葉。
「ティファ…」
「…ヴィンセント、どうして私にこれを?」
背中を向けたまま、怒りと悲しみに肩を震わせてティファは言った。


「私は…」


言葉が詰まった。

暫くの沈黙にティファは訝しげに振り向く。


目からは涙が溢れだしそうだ。
まばたきすれば、こぼれてしまいそうな

その
危うさは




私に似ていた。


「いや、すまない。ただ気になっただけだ」

「そう…」
目を伏せて、ティファはまたガラスケースを一瞥する。




本当は願っていた。


『見付かるといいな』
そう彼女を励ます自分が滑稽な位に、

彼女を求めていた。


本当は全部知っていた

ガラスケースに入れられた若い神羅兵士を


ジェノバ細胞を投与されている事も


それが
彼女が捜し求めている人物だという事も



「また私の罪がひとつ増えてしまった」

「え?」

「何でもない」

そう言ったヴィンセントは珍しい位に笑っていた。


優しくとどめを刺して、安らかに眠って欲しいと願うのは
私には許されない事だからだろうか?

もう、このまま世界が終わってしまうのならば


絶望に傷付いた彼女を胸に抱いて

永遠に。
還らずに。


彼女を願う罪は、ただ甘いばかりだ。

-Fin-

―――

◇後書き◇
色々すみません…。詰まる所ヴィンセントのダークサイド。サディスティックな感じで…ティファを壊しにかかってるのです。ジェントルを装いつつ。怖ッ!この話のヴィンセントは嫌な奴なのです。世界が終わってもいいし、クラウドなんか見付からなければいいと思ってる。ジワジワとティファを傷付けて、自分だけを見る様に差し向けている。だけど一欠片の良心に揺れてます。そのギリギリの均衡を書きたかったんですが力不足。因みにニブルヘイムに行こうとティファを誘ったのもヴィンセントなのです。
今気付いたのですが後に書いた「埋火」のヴィンセントの設定と似ています。そちらはセフィティ前提なのですが、自分と似ているからこそ許せず目を背けたいが愛しい、といった愛憎入り混じった感じが。ヴィンセントのキャラが未だに分からん…主人公であるDCもプレイしたけど綺麗サッパリ忘れたのもあって分からん…!あんまりスマートすぎるキャラを掘り下げるのは私には難しい。FF7の男性キャラってそんなんばっかりや!


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