「ザンザスはヴァリアーのボスで、スクアーロは同期で幹部の一人」


ルッスーリアからされた質問に答えて私はコーヒーを啜る。スクアーロに頼まれたベルとフランが仕事放棄した書類の山(終わりが見えない、何でこんなにためられるんだよ)を片付けるべく徹夜覚悟で机に向かっていると、ルッスーリアがコーヒーを煎れてくれた。ベルと新しい幹部のフランは二人でよく悪巧みをしては遊んでいる。ベルは10年経った今でも相変わらずで、良く言えば少年のまま育ち、悪く言えば我儘に育っていった。フランもそれに便乗するしで、だいたいその標的になるレヴィの被害が倍増したのは言うまでもない。


「ボスのこと名前で呼ぶのはあなたとスクアーロくらいだから、そういう関係なのかしらって思って」

「…ルッスーリア、あの二人のどちらかと付き合えと言われたら私はストレスで死んじゃうよ」


ルッスーリアの質問は、あの二人のどちらかと関係をもっているのか、ということだった。
私はスクアーロと同じくして入隊したため、皆よりは少しだけあの二人との付き合いは長い。その頃、私とスクアーロはザンザスがボスになる前だったため名前で呼んでいた。そのため今でもその呼び方が続いているのだ。それがルッスーリアにはそういう風に見えたらしい。
二人とも黙っていれば容姿は整っているのに、性格など知っているためそういった対象に見たことは一度も無い、というか絶対に見れない。やかましい声と鈍器が飛んでくるというストレスと隣り合わせの私生活なんて御免だ。


「う"お"ぉい!仕事は進んでるかぁ?」

「うるさい、騒音隊長。そんなすぐ終わるならベル達にやらせるわ」

「う"お"ぉい!!騒音ってなんだぁ!!」

「はいはい、喧嘩しないの二人とも。私はこれから任務に行くけどあまり無理し過ぎないようにね」


ルッスーリアを見送って私は机の上の書類と再び向かい合う。スクアーロはため息をついて私の隣へと座る。


「俺だってあいつらがこんなに残してたなんて思ってなかったんだぁ。俺も自分の仕事終わったら手伝うぞぉ」

「え?いいよ、スクアーロ任務明けでしょ?」

「ちゃちゃっと片付けねぇとザンザスが俺より煩ぇぞぉ」

「…よろしくお願いしまーす」



半分位書類が減り、何杯目か分からないコーヒーを求めて席を立った時ドアが開いた。そこには私達をこの状況に仕立て上げた張本人達がいた。先輩達、顔死んでますよー、とカエルの被り物が喋った。誰のせいでこうなったと思ってんだ。もう叫ぶ元気もないけど、それは隣の騒音隊長が代わりに言ってくれたので煩かったけど今だけは良しとする。


「う"お"ぉい!てめぇら仕事ため過ぎだぞぉ!!減給だぁ!!」

「うるさいですー、だから真面目に仕事に戻ってきたじゃないですかー」

「うししっ、レヴィいねぇからやることねーし暇だから真面目に仕事してやるよ」


レヴィ、なんて不憫なんだろう。でもようやく解放される。普段から標的にされていてありがとう、レヴィ。隣ではスクアーロの説教が続いているが、あの二人にそれが伝わっていればこんなに仕事はたまっていないはずだ。ザンザスの世話に後輩の世話にと無駄に面倒見いいから損な役回りばっかだな、スクアーロは。
あーあ、珍しく連休もらえたのに結局仕事で一日が終わりそうだ。もう、夜じゃん。あー、段々苛々してきた。スクアーロの言う通りザンザスに報告して本当に減給処分にしてもらおうかな、そう思った時だ。後ろにあったはずの壁が爆音とともに消えた。そして瓦礫の破片が上手い具合にスクアーロの頭に直撃した。振り返らなくても誰がやったかはすぐわかったけど、振り返らずこのまま殺られるのも嫌だったので振り返ってみた。


「…今月何回目だっけ、壁壊されるの」

「う"お"ぉい!!何度ぶっ壊せば気が済むんだぁ!クソボスがぁ!!」

「うるせぇ、カス共。黙って報告書も書けねぇのか」

「てめぇが部下を教育しねぇからこんな状況になってんだろうがぁ!!」

「ザンザス、これには理由があるんだけど」

「あ?」


鋭い眼光がこちらに向けられる。相変わらず目付き悪いなぁ。…あれ?いつもより機嫌悪くない、かも。あ、もっと機嫌悪かったら直接スクアーロの頭目掛けて瓦礫ぶん投げるもんな、うん。スクアーロの頭って岩が詰まってんじゃないかって思う位固いよなぁ、普通なら流血沙汰だよ、あれ。

とりあえず、私はベルとフランがどれくらい報告書をため、どれくらい私達が苦労したかをザンザスへ話した。あ、この分の給料まわしてくれ、とも。それを聞いてザンザスはそれはもう低い声でベルとフランの名前を呼び、え?ちょ、なんか手が光ってるんですけど。


「カッ消す」

「待て待て!!私達が苦労して書いた報告書燃やす気か!ふざけんな!」

「う"お"ぉい!!ベル、フラン!てめぇら残りの報告書は朝一でボスのとこ持って来やがれぇ!!」


私とスクアーロはザンザスを左右から取り押さえ部屋が炭になる前にザンザスを自室へと連れて行った。自室について椅子に座らせると、彼は舌打ちをした。ザンザスのその態度にスクアーロの血管が切れる音もした。今度はザンザスに対しての説教が始まった。
あー、もうなんでこんなのばっかなんだ、うちは。もうやだ、もう寝よう。人の折角の休日を何だと思ってんだ。


「おい、てめぇ明日休みだったな」

「正しくは今日もだけどね、え、もしかして急な任務?いやいや、絶対嫌だから!」

「俺も御免だぞぉ!!つか、話を聞けぇ!!」

「うるせぇ、ドカス共。暇なら酒に付き合え」


聞き間違いかと思った。あのザンザスが酒を私達にくれるだなんて何かの間違いではないか。一方的に酒瓶やグラスを投げつけられて酒を貰った、いや、喰らったことはあるけど。
疲れすぎて夢でも見てるのかと思い、隣の銀髪を引っ張ると、いてぇぞ!と殴られた。痛い。とりあえず、夢じゃないようだ。


「う"お"、珍しいなぁ、日本酒かぁ?」

「今日、沢田家光に貰った」

「う"お"ぉい、何でまた沢田家光なんだぁ?」

「知らねぇ。だが、いい酒らしいから貰った」

「…だから機嫌よかったのか」

「…日本のもの結構好きだからなぁ。機嫌悪かったら俺の頭がもっと酷ぇことになってるしなぁ」


ザンザスの機嫌の判断材料が自分の頭の怪我の度合いだなんて、レヴィと同じくらい不憫だ。いつかストレスでハゲるんじゃないか。


「施しをやるっつってんだろ。さっさと注げ」


目の前には升とガラスのコップ、これも沢田家光からの贈り物だろうか。でも、ザンザスの機嫌がいいのは私達の身の安全が保証されているから良いことだ。それにザンザスからの酒なんてこの先なさそうだから味わって頂くことにしよう。


BGM:Funny Sunny Day/SxOxU