ーー不老不死は幸せだと思いますか?

 そんなナレーションの声とともに幕を閉じた映画のスクリーンに冷めた視線を向ける。
 何とも中途半端な終わりだと思った。

 解釈を視聴者に委ねる、なんて聞こえはいいが、自分で答えを出せなかったから他者に丸投げしただけじゃないか。

「御子柴」

 そろそろ出ようか、と声をかけようとして、隣の男がボロボロ涙をながしている姿にギョッとした。
 私の視線に気づいた彼が慌てて顔を服の裾で拭う。

「あ、こら。顔が赤くなるから」

 言いながら、映画館の冷房対策に持ってきていたタオルを鞄から取り出して御子柴の顔に押し付けた。

「……悪い」

 ずっ、と鼻を啜りながら珍しく素直に受け取った御子柴に、ん、と短く返事をしてエンドロールに視線を戻す。
 仕方がないからエンドロールが終わるまで待ってやろう。

***

「あんまり面白くなかったわね、あの映画」

 場所を映画館からファミレスに移し、そうぼやくと御子柴が不思議そうに首を傾げた。

「そうか? 俺は楽しめたけど」
「まあ、御子柴君は泣いてたくらいですからねー」

 にやにやと笑いながらからかうと、御子柴は顔を真っ赤にする。女子高生もビックリの反応に思わず冷めた視線を向けてしまった。
 相変わらず無駄に女子力高いな。

「そんなに感動した?」
「別にそんなんじゃねえよ」

 赤い顔を隠すようにメニューを開いた御子柴から私もメニューに視線を移す。
 何か甘い物が食べたい気分。

「……みょうじはどう思う?」
「何が?」

 主語のない問いにそう返しながら、デザートの並んだページに視線を走らせる。
 量はそんなになくてもいいのよね。

「不老不死。幸せだと思うか?」
「幸せではないでしょ」

 映画の終わり、家族や友人に置いていかれた主人公の背中が何とも哀れだった。けれど、自業自得だとも思うので同情はできなかった。

「俺も。不老不死じゃなくていいわ」
「あら、御子柴は不老不死になりたいと思ったわ」
「何で」
「未来永劫、登場する嫁の相手が出来るのよ。幸せでしょ」
「あー、マジか! それは盲点だったわ……」

 本当に悩んでいるらしく、ゲンドウポーズを取る御子柴を横目にパンケーキを食べようと決める。

「いや、でも、やっぱり不老不死はいいわ」
「あら、そう」
「周りの奴らに置いていかれんの嫌だし」

 人見知りでシャイで恥ずかしがり屋で、その癖、寂しがり屋の彼らしい言葉だと思った。

「私、やっぱり不老不死になってもいいかもしれない」
「は? 何で?」
「そうしたら、確実に御子柴を置いていかずに済むでしょ」

 私の言葉に驚いたように目を瞬く御子を見ながら、本気よ、と笑ってみせた。