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毎週木曜日はやっちゃんと朝ご飯を食べる。
約束をしているわけではないけど、ただなんとなく一年の頃からそうして来た。
今日は目玉焼きが乗ったホットサンドがオススメだったのでそれで決まり。
三年の自転車競技部が固まっている所へ行くと、いつもやっちゃんの隣だけは空けておいてくれる。
ここが木曜の私の指定席である。
「よぅなまえ」
『お疲れー』
「先に頂いているぞ。お、ホットサンドか。フクとお揃いだな!」
『そだよー。福ちゃんは大盛りだけどね』
黙々と口いっぱいに特盛りのカツ丼をがっついているやっちゃんは、こっちを見もせず手を向ける。(朝から肉か......)
それにいつものようにタッチして着席した。
『いただきまーす』
東堂と女子みたいな楽しいおしゃべりをしながらご飯を食べる。
途中やっちゃんの手が伸びて来て、私の袖を一つ捲ったり、紙ナプキンで口をごしごしして来たりするけど気にしない。
それを見る福ちゃんの暖かな眼差しを感じ『美味しいね』と話しかければ、うんと頷いてくれた。福ちゃん天使。
新開の頬がリスみたいに膨らんでいるのを笑っていると「早く食え」とやっちゃんに怒られた。
どうしてもお腹いっぱいで手が止まると、やっちゃんは黙って私のお盆と自分の空になったお盆を交換して、残った食事を全て食べてくれる。
その間に私は彼のお盆を下げ、みんなのお茶を取りに行くのだ。
一息吐き、誰にともなく呟く。
『そういや昨日女テニの子がやっちゃんの事かっこいいって騒いでたよ』
「「「ブフッ!!!!!」」」
私と福ちゃん以外の三人が、それぞれ口に含んでいた物を吹き出した。
あらやだ汚いなーもー。
「だ、誰なんだそれは!」
『えっと確かあの子達東堂のファンの子だった気が』
「荒北ァ!この山神の大切な女子ファンに何をしたんだ!」
「ッせ。なんもしてねーヨいちいち騒ぐなバァカチャン」
何をしたって言っていたかな。
友達との会話を思い出す。
『階段で転びそうになったの助けてくれたって。覚えてる?』
「あ?!」
やっちゃんは頭を掻きながら沢山の《?!》を顔から出している。
本人が覚えてないって、どんだけ自然にやったんだかっこいいな。
「オレは覚えている」
突然の福ちゃんの介入に、おお、と私達は身を乗り出した。
「部活へ向かう途中、階段を上がっていたら下りて来る女子生徒が足を滑らせてな、オレの前を歩いていた荒北が片手で支え、そのまま保健室に連れて行ってやったんだ」
「あの日か。だから荒北は遅れたのだな!」
「ヒュウ、やるな靖友」
『やっちゃんそれはモテるわー』
「ンなんじゃねーよ」
照れるかなと思って褒め讃えてみたけど、やっちゃんは全く動じた様子なく「あの時はさァ」と続けた。
「なまえだと思っただけェー」
ガシガシと私の頭を撫でくり回す。
ちょっと髪が崩れるからやめて欲しい。
空気が、一瞬止まった。
「......は?」
ぽかんと東堂は口を開けている。
新開は私を凝視していた。ので私も見返す。
「だァかァらァ。なまえチャンがいつもちょろちょろして危なっかしいから、ああいう場面でつい反射的に体が動いたんだヨ悪ィか」
『悪くはないけど......』
「親心か」
「親心だな」
「親馬鹿の方が正しくないか?」
「新開てめーは黙れ」
どうやらやっちゃんの優しさは私で出来ているらしい。
愛に溢れた朝食
「それからおめー食えねー量の飯選んでくンなよ」
『やっちゃん食べてくれるから、木曜日は好きなの食べてるの』
「賢いなおめさん。今度からオレも食べるの手伝うよ」
『ありがと新開』