「おいノロマ、早くしろよ。」
素の方の花宮真はさも当然のことだとでも言いたげに私に休日出勤を迫る。私はもうマネージャーではない。そんなものは中学の頃でお終いにしたにもかかわらず、この男の呼び出しは今も容赦なく続く。しかも断れないようにわざわざ家まで迎えに来る。なんなんだ。お母さんなんて、私と真くんが付き合ってると思ってる。
「遅え。」
「今日私は休みだもん。」
「お前もそろそろ学習しろ。」
強豪校の試合のたびに偵察に駆り出されるのは毎回のことだけど、これで最後にして欲しい。今日は休みだ。進学校の休みはレアだ。先週は模試だったから休みがなかった。今日の休みをどれだけ楽しみにしていたと思っているんだこの悪童サマは。
「これは現マネージャーの仕事だよ真くん。もとマネージャーの仕事じゃなくて。」
「あいつらが使い物になるまで待てってのか?」
「育ててあげなよ。」
ああ、でもあんな良い子そうな子たちを私みたいな性悪にするのもなあ。
「ざけんな。俺がそんな面倒なことするわけねえだろ。」
「失敗したら優等生としての花宮くんの失脚だもんね。」
それはそれで面白い気もするけれど。
「お前も道連れにしてやるからな。」
「飛び火した.........私関係ないのに。」
「ふはっ。」
楽しそうだね、だなんて思っていたら関係ないとかお前それ本気で言ってんの?、と怪訝そうな顔をされた。
「事実じゃん。」
「あ?」
「え、」
「お前、バスケ部に偵察専門の臨時マネージャーとして在籍してるからな。」
「え?」
初耳!初耳だよ!偵察専門の臨時マネージャーって何だよ。そんな役職聞いたことないよ。
しかも在籍してるってなに?私帰宅部所属なんだけど。つまりは勝手に入部届け出されて、しかも受理されてるの?監督と顧問なにしてるの。あ、監督は真くんじゃん。しかも顧問は彼に全幅の信頼を置いてるから通っちゃったのか。詰んだ。
「要は必要最低限のことしかしねえマネージャーだ。」
「それ実質不真面目なやつ。」
どうりで古橋に「みょうじさんが普段から来てくれたら助かるんだが。」とかなんとかサボり気味のマネージャーに向けるような言葉を言われるわけだ。
「聞いてないよ真くん。」
「言ってねえ。ふはっ、仲良くしようぜなまえチャン。」
だなんて笑う真くんはやっぱり綺麗な顔をしている。
「真くんってば悪い顔してるほうがかっこいいよね。」
「悪趣味。」
でも嬉しそうだね。
「嬉しいくせに。真くんってばみょうじさんのこと大好きだもんね?」
「............。」
あ、これはさすがに怒られる、とかなんとか思っていたらさらに悪そうな顔をして「なあ、お前さ。バスケ部で俺の彼女って立ち位置なの知ってる?」だなんて囁くもんだから。
「...知らない。」
「顔、真っ赤。」
「...んなわけねえだろバァカ、ってオチ?」
「ふはっ、んなわけねえだろバァカ。」
ということはつまり。
「マジか。」
どうりで最近告白されなくなったと思った。というか何で私以外がちらほら知ってるの。
「俺がほのめかしておいた。」
「真くんってばえげつないマジ悪童。」
「で?」
で?とは?
「どうすんだよ。」
つまり、今ならまだただの噂でした、ってことにできるわけか。でも、そんなの。
「別れてなんかあげないよ。」
「お前、俺のこと大好きだもんな。」
「今更?」
「行くぞ。」
はいはい、お仕事お仕事。
「偵察が終わったらデートしてよ真くん。」
「......今日の試合終わったらマジバ行くか。」
「それいつもしてる分析会。映画行こうよ。」
「...また今度な。」
「楽しみにしてるね。」
本当に楽しみ。相当顔に出ていたらしく、へらへらしてんな気持ち悪い、と頭を叩かれたが真くんも心なしか嬉しそうだった。
なんだかとても幸せだ。


160821 text by ろくさま
BGM:4645/RADWIMPS
タイトル:箱庭