えいがのすすめ
王入版深夜の60分一本勝負 お題「恋人繋ぎ」に向けて
付き合いたての王馬と入間が二人で映画を見る話です

その一、二人で見るには上々なB級映画を。
その二、お菓子とコーラは切らさないように。
その三、部屋はできれば薄暗く。
以上が王馬による室内で楽しむ映画のすすめ だった。

十分な広さのあるソファに深く座り、入間はちらりと王馬を見た。人造人間VSピラニアというどの層に需要があるのか不明な映画を王馬はそれなりに楽しんでいるようで、時折小さく笑い声を上げながら画面にくぎ付けになっている。一方入間は気もそぞろに脚を組み替えたり、喉も乾いていないのにコーラに手を伸ばしたりしている。
初めてのおうちデート、薄暗い部屋、その距離は約30センチ。こんな映画を見ている場合じゃないだろうと、グッと手に力を込めた。しかし自分から仕掛けられるほど入間は器用な女ではなく、かといってこんな珍奇な映画がBGMではいい雰囲気になるわけもない。これ見よがしに溜息をついた途端、王馬が声を上げた。
「キー坊もさぁ、こういう風に改造してもらえばいいのにねー」
「え?あ、あぁ。そうだな」
「うわ、結構エグいね。あー、やっぱ人造人間も血出るんだ。しかも緑の。あ、ねぇねぇ今度キー坊の目からメロンソーダが出るように改造してよー。そんで人造人間VSピラニア2を撮るんだ。ピラニア役は入間ちゃんね。オレは監督やるからさー」
うるさいくらいに喋り倒す王馬に入間は苛立ちすら覚え、わざとらしく咳ばらいをする。王馬は肩をすくめて黙り込んでしまった。こういう時は恐ろしいくらい察しの悪い男だと入間は眉間に皺を寄せる。画面の中では、人体模型のような人間もどきがピラニア相手に格闘している。人造人間とやらは焦るとピンクの手汗が出るらしい。絵柄の気味悪さに目を細めていると、王馬が再び喋りたそうにゆらゆらと揺れていた。
「……そんなに喋りて―なら喋ってればいいだろ」
「えー。だって入間ちゃんノってくれないし」
「こんな映画にノれるかっつーの。趣味ワリ―な、クソ童貞」
「たはー。言われちゃったー」
やけに力なく王馬が言い、反応の乏しさに入間は物足りなさを感じる。そう、今日の王馬はなんだか物足りないのだ。入間との会話を楽しむというよりは、マシンガンのごとく独り言をぺらぺらとまくしたてているようだった。入間は小さく舌打ちをし、王馬にもたれかかった。突然入間に体を預けられ、王馬は背もたれから少し腰を浮かせて横目で入間を見る。
「い、入間ちゃん?」
「……せっかく二人きりなんだから」
王馬は入間に聞こえるほどの大きさで唾を飲み込み、彼女の手にそっと触れた。そして細い指に、自分のふにふにとした指を絡ませて優しく握る。
「えへへ。恋人つなぎ」
「そういえばしたことなかったな。テメーがチビだから、腕組んでばっかりだし」
「はいはい。悪かったね、小さくて」
言葉が二人の間で行き交って会話を紡いでいく。互いのぬくもりや質感を確かめ合うように指先で相手の指をくすぐって笑い合う。寄り添って見る映画は少しグロテスクで、度がすぎるほどに滑稽で、そうして多分思い出深い映画になるのだろう。そして先ほどとはまるで違う映画のように見えることに互いに気が付き、心の中にしまい込むのだった。
「あは。入間ちゃん手汗すごい。手がびしょびしょだよー」
「う、うるせーな!!びしょびしょなのは手だけだからな!!……びしょびしょなのは手だけだからな!!」
「なんで二回言ったの?」
王馬のからかいを込めた口調に入間が口答えすると彼は小さく笑った。
「人造人間なんじゃない?ピンクじゃないけど」
「……まぁ似たようなもんだけどな」
「はぁ?」
「あ、い、いや……それは、また今度」
「えー。いいじゃん。教えてよ。なになに?本当は改造人間とか?」
「な、なんで分かったんだよ?!まさかテメー、読心術でも使ったのか?なんだよぉ……心が読めるなら先に言ってよぉ。い、色々っていうかエロエロ妄想してたことも全部バレてたのぉ?」
「いや今は流れで言っただけだし。ていうか、そういう妄想してたんだ。まぁ今更驚かないけど」
身体をくねらせて大袈裟なまでに恥じらう入間を見つめ、王馬は苦笑する。そして何かを思いついたように薄い唇を軽く持ち上げて微笑んだ。
「……じゃあ本当に改造人間か確かめちゃおっか」
素早く手を解き、入間をソファの空いたスペースに押し倒す。こうなればもう彼の独断場に違いない。
「え?あっ、待て、心の準備が……っ。ひぃ?!くすぐったいってばぁ!!」
入間の声が響き渡り、王馬は頭の中で付け加えた。
その四、映画はただの餌でしかない!!(勿論、真に面白い映画なら最後まで楽しむけれどね!)