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同棲している王入の話





 休日の朝のゆるやかに過ぎていく時間が好きだ。いつもより遅く起きて、テレビを見ながら朝ごはんを食べる。その後は家で過ごしてもいいし、どこかに出かけてもいい。何も決めないで過ごす日のなんと贅沢なことか。
 オレより少し遅く起きてきた美兎ちゃんが家にいると言ったので、今日は一日中だらだらすることにした。ジュースもお菓子も雑誌も手が届く場所において、できるだけ動かないで済むように準備をする。そういうことに対する労力を惜しまない、全力でだらだらしようとする彼女が好きだ。
 こういう日は別に同じことをしなくてもいい。同じ空間にいて、各々が好きなことをしているだけで楽しいのだから。だからオレは先日手に入れたばかりのゲームに熱中していたし、美兎ちゃんは溜め込んでいた録画を見ると言ってテレビにくぎ付けだった。しかし、ふとゲーム画面から目を離し美兎ちゃんを見ると、テレビに向かってぱちぱちと手を叩いている。幼児番組を見ながら歌を口ずさんだり、体を揺らしたりすることはあったけれどそんなことは初めてだったから、イヤホンを外した。
――幸せなら手を叩こう
 そんな歌詞の後に手を打っていて、楽しそうに微笑んでいる。ただの幼児にしか見えなくてオレはつい吹き出した。
「何してんの」
「えっあっ。何見てんだよ!!」
「いや、面白そうなことしてるなーって思って」
 美兎ちゃんは恥ずかしそうにいいだろ別にと呟いた。勿論、それを咎めることなんてしない。そういう純粋な部分だって彼女の魅力だから。
「この歌好きなんだよ。ママが子供の頃によく歌ってくれたから」
 幸せなら態度で示そうというような歌詞の後に美兎ちゃんはまた手を叩いた。そういう思い出を大切にするところとか、実際にやってみせるところとか、全部が好きだ。
「ゲームするんじゃなかったのかよ。視姦したって何も出ねーぞ」
「何か出た方が怖いよ」
「出るかもしれねーだろ!!何かが!!」
「怖……」
 オレはふと、あることを思いついてゲームを一時中断した。ソファでだらけている美兎ちゃんの隣に座り、そのまま抱き着いてみる。突然の行動に驚いたのか美兎ちゃんは目を白黒させて飛びのいた。そう、この驚いた顔が見たかったんだよね。オレは普段自分から抱き着いたりしないから。
「何してんだよ!!」
「幸せなら態度で示そうよって言ってたから。オレなりに表現してみたんだけど」
「な、何だよぉ!!急にそんなことするからびっくりしただろ!!」
「そう?ごめんね。じゃあ、オレはこれで」
元居た場所に戻ってゲームを再開すると、美兎ちゃんは戸惑い気味の表情を浮かべた。
「え……これで終わり?」
「うん。むしろごめんね、邪魔して」
「いや……別に……」
 オレの思い付きに混乱してしまったのか何やらそわそわしている。それを横目で見ながらオレはゲーム内の主人公を操作してゾンビたちを倒していった。白銀ちゃんが勧めてくれただけあってアクション性が抜群だ。さぁ、いよいよボス戦というところで今度は美兎ちゃんがオレの元にやって来た。
「ん?一緒にやる?」
「違う!」
 オレの前に座り込んで、こちらに向かって両手を差し出した。さっきので触発されたのだろうか。少しだけ背けられた顔は赤みがさしている。押すなと言われたら押してしまうタイプだと自負しているオレは、こういう場合は意地悪をしたくなる。
「どうしたの」
「どうしたのって……分かってんだろ」
「分かんないよ。ちゃんと言ってくれないと」
 出来るだけ優しい口調でそう催促すると、美兎ちゃんは不満そうに目をすがめて唇を噛んだ。少しだけ迷うような素振りを見せたものの、すぐに恥ずかしそうな視線を向けてきた。わざと首を傾げて、分かんないと言ってみると美兎ちゃんはあぁもうとため息をついた。
「さっきのじゃ足りないんだよ」
「やればできるじゃん」
「ぶっ殺すぞ!!」
 掴みかかられそうになったので、オレは慌ててゲームを置いて謝罪する。待てと言われた犬みたいに唸る彼女に微笑みかけて、その体を抱きしめた。こうして抱きしめてると落ち着くんだよね。美兎ちゃんは抱きしめられるのすらなかなか慣れないみたいで、手の動きがぎこちない。付き合って何年たつと思ってるんだよ。そういうところも、好きなんだけどさ。
「小吉……。頭なでて」
 甘えた声でそう言われたら、オレは勿論応えるしかない。形のいい後頭部を撫でてあげると美兎ちゃんはおずおずと背中に手を回して、オレのことも抱きしめ返してくれた。心音が激しくなっているのを感じて、オレはついからかってしまう。
「もうテレビ見なくていいの」
「お、お前が邪魔したんだろ!」
「それについては謝るけどさー」
 美兎ちゃんはもごもごと言い訳をしていたけどよく聞こえなかった。体が熱いから、興奮してるのかな。可愛い。頭を撫でていた手を背中まで滑らせると、太もものあたりがびくんと震えた。
「……ベッド行こ?」
「いいの?」
「ん……」
 一度スイッチが入ってしまったら、美兎ちゃんは他のことに手がつかなくなる。だらだらしようと思っていたのに今日は無理そうだな。それでもいいけど。ゲームも今日はお預けだ。ちゃんとセーブをしておかないとなぁ、なんて考えていたら突然耳元で囁かれた。
「ちゃんとアタシのことだけ考えてて」
 妖艶で、情熱的な言葉に今度はオレの体が震えた。人間は多面的な生き物だし、勿論オレだってそうではあるんだけど、キミみたいに豹変する人はなかなかいない。だからこそつまらなくないし、好きなんだ。
 予定は変更。今日は体力を使い切るまで美兎ちゃんのことを愛してあげる。だからちゃんと覚悟しておいてよね!!