ぐるぐる
お友達のさぁこさんのお誕生日(3月)プレゼントとして書いたものです。もう5月になってしまいました…。
ご本人から「イチャラブしてる王入のエロ」というリクエストをいただいたのでそれに沿って書きました。

素直になる薬(媚薬)を飲んでしまった入間に「甘やかされながらセックスをしたい」と言われ、それを叶えてあげる王馬の話です。
読み返したらあんまり甘やかしてないような気も…

・紅鮭団の後
・媚薬
・玩具使用有
・直接的な淫語表現
・ゴムから飲精描写有



 これはなんだろう。そう思って摘まみ上げたボトルには「素直になる薬」という文字が躍っていた。よくよく見るとハートマークの中に18という数字が記されている。注意書きを読みながらただのアダルトグッズかと王馬が呆れていると、このボトルの持ち主である入間美兎の足音が聞こえてきた。慌ててそれを彼女の鞄の中に突っ込んでソファへと腰掛ける。それと同時にリビングの扉が開き、入間が現れた。
「間に合った?」
「間に合ったよ!!!オレ様はもう二度とあんな惨劇を起こすつもりはねーからな……」
 子供の頃、映画を見る前にトイレに行き忘れて粗相をしてしまったらしい。王馬としてはソファを汚さないでいてもらえるのならばなんだってよかった。ふぅんと気のない返事をしたまま、テーブルに置いたDVDを手に取る。海外の監督が指揮を執ったアニメーション映画だ。六十分という短い時間で見られるのが魅力的だったために借りてきたのだ。
映画鑑賞の準備は万端。お気に入りの炭酸ジュースも、ポップコーンも用意してある。プレーヤーにDVDを入れたところで、突然入間が上ずった声で王馬を呼んだ。
「お、王馬」
「ん?」
「オメーもトイレ行って来いよ。漏らしちまうかもしれねーぞ!!」
 失礼な女だ、と思ったのが顔に出ていたらしい。入間は一瞬怯んだがしつこくトイレに行くように言ってくる。妙にそわそわして、時折鞄の方に視線を向けている。大方王馬が見ていない内に例の薬を入れるつもりなのだろう。
「分かったよ」
 渋々リビングから出て、気づかれないようにドアの隙間から彼女を眺める。やはり王馬のグラスにあの怪しげな薬をいれていた。素直になる薬などという名称だが、注意書きを読む限り恋人同士のお遊び目的で作られた媚薬だ。自分を騙してこんなものを飲ませようとした欲求不満な恋人に意趣返しをしたい。隙を見てグラスを入れ替えてしまおうと企んで口角を上げた。
 リビングに戻り、どこか緊張気味の入間にもたれかかった。とりあえず彼女をテーブルから離れさせなければならない。
「入間ちゃぁん」
「な、なんだよ」
「冷蔵庫の中にチョコレートあるから取ってきてぇ」
 猫のようにすり寄って、甘えた声でねだる。チョコレートがある、なんて勿論嘘だ。
「自分で行けよ!!」
「はぁー?ここはオレの家なんですけど。今すぐに叩き出したっていいんだよ?」
 入間は言葉を詰まらせ、無言でダイニングキッチンへと向かっていく。王馬は音を立てないように、お互いのグラスを交換した。早ければ十分程度、遅くても三十分以内には効果が出てくるだろう。気もそぞろな入間と一緒に映画を見るのも楽しいかもしれないとほくそ笑んだ。
「おい、ねーぞ!!」
「あれー。勘違いだったかなー」
「ふざけんな!この短小野郎!!」
 今は罵倒さえも気にならない。入間が隣に座るのを待ち、映画を再生させる。何も知らない彼女がグラスに口をつけるのを見て楽しみだねと笑ってみせた。

 ***
「面白かったね」
 エンドロール画面を前に入間にそう笑いかける。薬が効いているのか顔は赤く、息遣いは荒い。隣に座っているだけで彼女から溢れ出るフェロモンにあてられそうな気分だった。
「あれ。あんまり好みじゃなかった?」
「いや……そういうわけじゃ…」
 集中していられなかったのだろう。普段ならば映画を見終わった後は饒舌になる彼女が、今は相槌すらおぼつかない。もし気が付かなかったら今の彼女と同様の状態になっていたかと思うとゾッとした。
「そ、それより……。なんかオレ様に言いてーことねーか?」
「んー。別に。なんで?」
 白々しく首を傾げると、入間は小さな声で詐欺じゃねーかと呟いた。もしかして本当に飲んだ人間が素直になると思っているのか。市販の薬にそんな効果があるはずがないというのに。
「あぁ、もしかしてあの薬のこと?」
「……え?」
「残念だけどオレは飲んでないよ。飲む前に気づいてキミのグラスと交換したから」
 入間の大きな目が見開かれる。嘘だよという言葉を期待しているのかもしれないが、それは無理な話だ。王馬はとびきり優しい笑顔を浮かべて彼女に真実を突き付けた。
「つまり、薬を飲んだのは入間ちゃんの方なんだよ」
「う、嘘……」
「嘘じゃないよ」
 王馬は入間の鞄の中から薬のボトルを取り出した。
「素直になる薬ねぇ。こんなの飲ませようとするなんてひどいよ!危うくオレのアイデンティティが奪われるところだったじゃん」
「お、怒ってる?」
「少しね」
 これで怒らない人間はよほどのお人よしか、馬鹿に違いない。王馬が無言で見つめ続けていると入間は眉根を下げて深く瞬きをした。申し訳なさそうな顔をしていたかと思うとゆっくりと口を開いた。
「ごめんなさい……」
 思いの他素直に出てきた謝罪の言葉に王馬は頷く。入間は本当にあの薬の効果を信じているのかもしれない。もしそうだとしたら、薬を言い訳にして普段は聞けない言葉を引き出すことも可能だろう。ひとまず、何故この薬を使ったのか尋ねることにした。自他ともに認める嘘つきを素直にさせたかった理由を知りたかったのだ。
「じゃあさ、どうしてオレにこれを飲ませようとしたのか教えてくれる?」
「えっと……」
「怒らないから教えて?」
 ね、と念押しすると入間はすんなりと語り始めた。
「……王馬がアタシのこと本当に好きか知りたかったの」
入間がアタシという一人称で語る言葉は真実だと断定していい。
口を開けば嘘ばかりつき、総統という得体のしれない才能を持つ王馬の好意が信じられなかったのかもしれない。その上自分たちが出会ったのは半ば強制的に恋愛をさせられるバラエティ番組。出会いが出会いなだけに、疑ってしまうのも無理はないだろう。しかし、入間の口から語られた言葉は王馬の予想とは異なるものだった。
「だってアタシは性格も言葉遣いも悪くて、いつも王馬を困らせてばっかりだし……」
「ふぅん。自覚はあるんだ」
 口をついて出た言葉に、入間の顔が強張る。王馬はハッとして続きを促した。
「それに……いろんな人から…き、嫌われてるでしょ?こんなアタシが、王馬のそばにいていいのかなってずっと考えてて」
 ぽつりぽつりと言葉を紡いでいく入間の目には涙が滲んでいる。
「この薬使ったら、王馬がアタシのことどう思ってるのか分かるかなって……」
 そこまで言って顔を伏せた。普段はオレ様という一人称と尊大な態度で武装をしているが、内側はひどく脆い。美貌も、才能も、他人が羨むものをいくつも持っているはずなのにいつだって自己否定に走ってしまう。付き合い始めてから約半年。いつからそう思っていたのだろうか。もしかしたら初めから、そんな不安を抱えていたのかもしれない。
 王馬は入間の頭を優しく撫でた。性格が悪いのも、暴言ばかり吐くのも、それ故に反感を買うこともすべて承知の上だ。
「キミの性格が酷いことも、嫌われ者だってことも否定はしないけどさ」
 うーという低いうめき声が聞こえて、彼女がしゃくりあげているのだと知る。こんな物言いでは余計に泣かせてしまうかもしれないとは思いつつ王馬は続けることにした。
「だからってオレは入間ちゃんを嫌ったりしないよ」
 返事はなく、わずかに背中が震える。彼女の腰を抱いて寄り添うともう一度うめき声を上げて身をよじった。触れられるだけでこれほど反応するとは、それなりに強い媚薬なのかもしれない。
「だって、そういうものを全部含めて入間美兎っていう人間なんでしょ?キミが急に善人になって、下ネタの一つも言わなくなったら逆に怖いね!何かに乗っ取られてるって思っちゃうよ」
「……うん」
 ようやくこちらの言葉に応答してくれた入間はそのまま顔を上げた。涙でぐしゃぐしゃになった顔だって、愛おしいと思ってしまうのだ。入間ちゃん、と名前を呼んで優しく抱きしめる。媚薬の影響だろう、触れただけで熱い息を吐く。自分の骨ばった固い体とはまるで違う柔らかさには未だに慣れなくて、それでいてもっと触れたくなる。抱きしめると自分が全身全霊で彼女を愛していることがはっきりと分かった。分かってしまう。
「そんなキミが好きなんだよ。不安にならなくて大丈夫だから」
「本当……?」
「ホントだよ。……大好きだから、ずっとそばにいてよ」
 そんな甘い囁きに自分が恥ずかしくなってしまう。素直になるのは性に合わない。入間が腕の中で甘えた声を出すのに安心しながら、本来の自分を取り戻すように悪趣味な笑い声を上げる。
「それに、悪の総統の恋人なんだから世界中から嫌われることくらい覚悟してもらわないと!!」
 王馬は自分が吐いた愛の告白を誤魔化すように彼女の髪の毛をくしゃくしゃと掻き乱す。入間はえへへ、と鈴を転がすように笑った。
「それにしても入間ちゃんの泣き顔はひどいなぁ。濡れた雑巾みたいな顔だよ」
「な、なんだよそれぇ。人ですらねーじゃねーかぁ」
 弱弱しい声だがいつもの調子で反論してくる。王馬は安心して入間を強く抱きしめた。
「……でもさぁ、今日はいつもよりも素直だね。薬が効いてるのかな?」
 媚薬としてではなく、素直になる薬として扱っている入間ならばこの言葉を信じるだろう。思惑通り、恥ずかしそうにはにかんで王馬の背中に手を回してきた。今だけは恋人が望むことを全てかなえてあげたかった。こんな風に自信を無くし、薬を使ってでも王馬の本心を引き出そうとした彼女の心を満たすことが自分の務めなのだと思うからだ。王馬は入間の頭を優しく撫でながら耳元で低く囁く。
「じゃあ、入間ちゃんはオレに嘘つけないね」
 小さく頷く彼女に王馬は続ける。
「ねぇ。何かオレにしてほしいことある?」
「な、何かって?」
「何でもいいよ。出来ることなら叶えてあげる」
 何でもいいという言葉に反応したのか、入間は顔を上げた。赤みを帯びた頬。熱い吐息。心の中は王馬の本心を探ることでいっぱいなのに、体はすっかり発情しきっているらしい。何かを言いかけたもののすぐに言い淀んで唇を結んだ。耳元で、教えてと囁くと今度は俯いて首を振る。
「恥ずかしい……」
「そんなに恥ずかしいことしたいの?」
 ねぇねぇ。からかうように、くすぐるように耳打ちをすると入間は深く頷く。安心するような言葉をかけてあげればきっとその望みを口にするだろうと思った。
「……でもそれは、入間ちゃんがずっとしてほしかったことなんじゃない?」
 あやすように背中を撫でると安堵しているのかため息が漏れる。それですら熱っぽく、王馬は心が昂ぶるのを感じていた。
「全部薬のせいなんだからさ、今日は素直になっていいんだよ」
 言い聞かせるような口調に入間は再度顔を上げた。とろんとした瞳をじっと見つめて微笑むと、入間は覚悟を決めたように生唾を飲み込んだ。
「……あのね」
「うん」
「い、いっぱい甘やかしながらエッチしてほしい……」
「ん。いいよ。……ちゃんと言えてえらいね」
 その返事を聞いて入間の顔がほころぶ。こんなに簡単なことをずっと言えなかったのかと思うと、王馬は罪悪感に襲われた。王馬のそばにいていいのか悩み、恋人として当然の要求すら隠してきた。もっと早く彼女が抱える悩みに気づいてあげられたら。しかし、悔やんでも過ぎ去ってしまった日は戻って来ない。
 今までしてあげられなかった分甘やかしてあげようと王馬は優しくキスをした。軽く唇を押し付けるだけで彼女は腰を揺らす。背中に回していた手を太ももに這わせ、ミニスカートから伸びる柔らかな肉の感触を楽しみながら唇を舐める。そして濡れた唇を食べるように甘噛みして、誘うように開かれた彼女の唇に舌を差し入れた。
二人で唾液に塗れた舌を絡め合うだけで気持ち良かった。体の芯から熱くなり、脳みそが溶けてしまいそうなほど彼女が欲しくなる。ほとんど筋肉の付いてない内ももを撫で回し、彼女の下着に手を伸ばした。指先で触れるとぐっしょりと濡れていることが分かる。下着越しに秘部を擦り上げると腰を押し付けていやらしいおねだりをしてきた。唇を離して、すっかり蕩けきった顔を見せる彼女の頬を撫でる。
「ベッド行こっか」
 小さく頷いた入間に王馬は慈しみを含んだ笑みを向けた。

 ***
 キングサイズのベッドの上、あどけない子供のように座り込んだ入間だが自分で肌を晒そうとした。ブラウスの胸元で結ばれたリボンに手をかけた彼女を王馬は制止する。
「オレが脱がせてあげるから」
「ん……」
 色っぽい返事を聞いてリボンを解き、ボタンを外していく。ボタンを一つ外すごとに入間の中に押し込められていた情欲が溢れ出してくるような気さえした。そのままスカートもキャミソールも脱がし、下着姿の彼女を舐め回すように見つめる。白地にレースのついたそれはクラシカルな雰囲気を醸し出していてどこか少女的だ。しかし、サイドをリボンで結ばれたショーツが淫猥さを放っている。
「かわいいよ」
 まじまじと見つめられると恥ずかしいのか王馬の言葉にも黙って頷くだけだ。いつもならば痴女よろしく王馬に見せつけてくるというのに。あれも強がりだったのかと王馬は心の中で納得した。
「白も似合うんだね」
「……本当?」
「うん」
 入間は視線を泳がせ、両手の指先をもじもじと擦り合わせる。
「王馬が喜ぶかなって思って買ったの……」
 耳まで赤く染めてそう告白する彼女を愛おしく思う。彼女の思惑通り王馬はひどく興奮していた。純粋さの証であるような白をまとっているのにも関わらず、恋人とのセックスを望んでいる。そんなギャップがたまらなく王馬の劣情を掻き立てるのだ。
「嬉しい。……興奮しちゃう」
 そう言って豊満な胸へとキスを落とす。彼女の体が震えるのを感じながら白い肌に痕を残した。真っ白な胸元、くっきりと浮き出た鎖骨、細い首筋……体中に愛情を捧げる。ついばむようなキスも、噛み付くようなキスも、入間は全て甘美なる快楽として受け止めている。
期待に込めた視線を向けられ彼女の下着を取り払った。魅惑的な胸が露出し、王馬は思わず生唾を飲み込む。両手に収まりきらないほどふくよかな乳房。ツンと立ち上がった淡いピンク色の乳首。指先で乳肉をつつくとずぶずぶと沈み、そして弾力を持って跳ね返してきた。入間が身をよじるのに我に返り、照明を消すリモコンへと手を伸ばす。
「……ごめん。電気消すね」
 しかし、入間は王馬の手に触れ首を振った。
「大丈夫」
「いいの?オレに恥ずかしいところ見られちゃうんだよ?」
「……うん。全部王馬に見てほしいの」
 熱っぽい吐息を漏らす入間に、王馬は下半身が疼くのを感じた。聞こえてしまいそうなほどに心臓が早鐘を打つ。入間の色香も、言葉も王馬の理性を壊すのには十分すぎるほどのものだった。
「もう、入間ちゃんはエッチだなぁ」
「あっ……」
 彼女の胸の下に手を入れてたぷたぷと揺らす。その刺激だけで感じてしまうのか入間は慌てて口元に手を当てがった。そっと持ち上げて壊れ物でも触るように優しく揉む。両手から零れる豊満な胸を堪能していると入間がおずおずと尋ねてきた。
「お、王馬は、エッチな子嫌い?」
「ううん、好きだよ?嫌いだったらこんなことしないでしょ?」
 安堵したようにはにかむ入間においでと微笑み返し、膝の上に乗らせる。もっといやらしく、可愛らしい彼女に変えてあげたい。そんな気持ちが芽生えた王馬は焦らすように指先を這わす。一番敏感な場所には決して触れず、獲物を狙う蛇のごとくじわじわと胸を弄んだ。早く触って欲しいのか、入間は胸を突き出して腰を揺する。秘部を王馬の脚に擦れてしまうのか、断続的に声を漏らしている。彼女の薄桃色の突起が徐々に固くなっていくのが目に見えて分かった。荒い息を吐きながら熱視線を向ける彼女を少しだけいじめたくなり、立ち上がった突起ではなく薄桃色の乳輪を指でなぞる。くすぐるような優しい動きにも関わらず、入間は身をよじった。
「ふ、ぅう……っ。ちゃんと、さわってぇ……!」
 感度が上がっているのだろう。こんな刺激でも容易くとろけてしまう。入間は見せつけるように自ら豊潤な乳肉を寄せた。
「おっぱい気持ちよくなりたいよぉ……」
 素直にねだる姿に王馬は自分のものが下着の中で首をもたげるのを感じた。本心を優先するならば、このみだらな乳肉に脈を打つ自分のものを埋めたい。しかし今は入間の望みを叶えてあげることが先決だった。
「ふふ。いじわるしてごめんね?」
 王馬は触って欲しいと主張する突起を爪先でカリカリと引っ掻き始めた。甘い快楽に入間は背中をのけ反らせながら反応する。彼女がこの刺激に慣れないように、指の腹で擦り、固く尖ったそれを扱き上げ、変則的な快楽を与え続けた。王馬は自分の脚が彼女の愛液でしとどに濡れていくのを感じていた。
「気持ちいい?」
「んっ、うぅ…きもちいいよぉ……っ!!」
 王馬の肩にしがみつき、発情した犬のように必死に腰を振って快感を貪る。淫乱という言葉がよく似合う彼女の胸を王馬は優しく持ち上げた。
「じゃあもっと気持ちよくなろうね」
 そう言って二つの突起を口に含む。そして唾液でしっとりと濡れた舌で舐め回し始めた。一際大きく体が震え、入間はあられもない声を上げる。王馬は両手で柔らかい肉を堪能しつつ突起を責め立て続けた。媚薬で感度が高められた彼女はもはや快楽に溺れる獣だ。言葉にならない喘ぎ声を漏らしながら、秘部を擦りつけて絶頂を得ようとしている。
「お、うま……も、イっちゃうぅ」
 王馬は言葉を返さず、突起を甘噛みする。根元を歯でコリコリと刺激しながら、尖らせた舌先で乳頭をねぶる。多重の快感に入間はあ、あ、と声を吐き出して絶頂を迎えた。彼女はびくびくと打ち震え、脱力したのかそのまま王馬に体を預けてきた。王馬は彼女の背中をそっと撫でる。
「気持ちよかったねぇ。上手にイけていい子だよ……」
 彼女が無言でうなずいているのが分かった。しかし、ただ一度の絶頂では媚薬は抜けるはずもない。体は火照り、物足りなさそうに腰を擦りつけている。
「……そうだ」
いいこと思いついちゃった。そう言って、王馬は彼女をベッドへと横たえた。
「ちょっと待っててね」
 不安そうに見つめる彼女に微笑みかけて寝室のクローゼットを開ける。そしてその中から黒い箱を取り出し、入間に見えるように蓋を取った。
「今日はこれ使ってみよっか」
 入間が息を呑むのが分かった。箱の中に入れていたのは彼女から押し付けられたアダルトグッズだった。どういう意図があったのかは不明だが、バイブやローターといった自作のアダルトグッズを彼女は頻繁に王馬に手渡してきた。その度に彼女をなじって箱に封じ込めてきたが、今日はこれで可愛がってあげることを思いついたのだ。
「嫌?」
 恥ずかしそうに視線を逸らす入間に王馬は尋ねる。
「や、じゃない……」
「そっかそっか。……じゃあ、今度はこれで可愛がってあげるね」
 淫猥な玩具を手に取りほくそ笑む。王馬が選んだのはシリコンのブラシがついたカップだった。お椀のような形のそれは胸を包み込み、柔らかなブラシで敏感な突起を愛撫するのだろう。試しに電源を入れてみるとブラシが緩く回転を始めた。ご丁寧にリモコンで動きも変えられるらしい。こんなものを作るなんてとんだ変態だな、と王馬は目を細めた。潤んだ瞳で玩具を捉える彼女に王馬はそれを見せつける。
「このブラシで扱かれたら、すっごく気持ちよさそうだよねぇ」 
 愛撫される快感が彼女の脳内にほとばしったのか、太ももを擦り合わせて体をくねらせている。
「想像しただけで感じちゃってるの?……恥ずかしい子だなぁ」
 責め立てるのではなく愛を込めた口調で囁く。入間の腰が揺れ動き、そんな言葉でさえ快感を拾ってしまうことが伺えた。王馬はバストカップを彼女の胸に取り付けてくすくすと笑う。
「おっぱい可愛がってもらおうね」
 電源を入れた途端、入間の体が激しく跳ねた。
「ひゃうぅぅッ!!」
 機械音をかき消すような甲高い嬌声。強すぎる快楽から逃げるように身をよじるものの、蕩け切った表情がもう逃れられないことを物語っている。
「こっちも気持ちよくしてあげるよ」
 優しく彼女の脚を開いた。純白の下着は愛液で濡れそぼり、秘部の形がくっきりと浮き出てしまっている。いやらしく誘う蜜壺に王馬は生唾を飲み込んだ。舌なめずりをしながら次に手にしたのは電動マッサージ機だ。通常の物よりも小さいそれのスイッチを入れ、下着越しに軽く押し当てた。
「や、あぁぁん……ッ!!それだめぇぇぇ!!」
 嬌声を聞きながら弱く振動するヘッドを上下に滑らせる。触るか触らないかのもどかしい距離で焦らしてやれば入間は自分から腰を振った。
「んー?ダメなのに腰動いちゃってるよ?」
「あっ、あぅ……」
 快楽で上手く脳が回らないのか発する言葉も零れ落ちていく。しかし、みだらに腰を振りながら直接的な快感をねだった。
「エッチなおねだりできてえらいね。ほら、ご褒美だよ」
王馬はその姿を愛おしそうに見つめ、ぷっくりと膨れた陰核にヘッドを当てた。その瞬間に咆哮にも近い声が部屋に響き渡った。何度目かの絶頂を迎えたのだろう、体がびくびくと震えている。
「あは。気持ちいいのから逃げられないねぇ」
王馬はわずかに振動を強め、陰核を甘く押し潰した。
「んひぃぃっ!それっだめなのぉっ!!あたま、おかしくなりゅからぁ!やりゃ、やらぁ!」
 この快感から逃れようとするのは嫌だからではない。理性が崩壊してしまうのが怖いのだ。
「あ、あ……っ。きもちよすぎてバカになっちゃうぅ……!!」
「……ふふ。それでいいんだよ。いっぱいアクメしてお馬鹿さんになっちゃおうね」
 王馬は彼女の叫びを肯定した。突起を責めるブラシの動きや強弱を変え、マッサージ機で秘部を嬲る。 機械が与える容赦のない責めに入間は絶頂を繰り返した。気づけば真っ白な肌はほんのりと赤く染まり、額には玉の汗が浮かんでいる。自尊心など全て捨て去り、悦楽に身を任せてしまっていた。その証拠に美しい顔を快楽で歪め、絶頂するたびに淫猥な言葉を口走っている。
「イくぅ……!!またイくぅぅっ!!あうぅ……おっぱいきもちいいよぉ!」
「おっぱいだけじゃないでしょ?ほら、どこが気持ちいいのかちゃんと教えて?」
 王馬の意地悪な言葉にさえ彼女は素直に答えてくれる。
「ん、くっ。おまんこきもちいっ!!おまんこいじめられてイくのぉ!!」
 いい子だよと囁き、マッサージ機で円を描くように陰核をコリコリと弄ぶ。今の彼女は、はしたない言葉を発することさえ心地よいに違いない。弱いところをしつこく可愛がられ続け、ついに快感は最高潮まで到達したらしい。だらしなく開いた脚をひくひくと痙攣させて激しく絶頂した。
「あ゛あァ……っ!!らめ、りゃめぇぇ!!イっ、くぅ!!おまんこイぐぅ゛ぅ゛ぅ゛ッ!!」
 体を弓なりにして声を響かせる。一瞬こばわった体はすぐに弛緩し、入間は肩で息をしていた。
「頑張ったね……」
王馬は玩具の電源を切り胸を責め立てていたバストカップを外す。ふくよかな胸がまろびでて王馬は喉を鳴らした。ブラシで扱かれた突起はぽってりと膨らみ、鋭敏になっていることを主張している。下着はぐしょぐしょに濡れて粗相をした子供のように見えた。これほどの痴態を晒すことさえ厭わない素直な彼女のことが愛おしい。王馬は犬を可愛がるかのごとく入間の腹を撫でる。滑らかで、ふにふにとした肌だ。
「ずっとイきっぱなしだったからもうつらいかな?」
 荒い呼吸で上下する腹をすりすりと撫で回すと入間は首を振った。 
「やだぁ……やめちゃやなのぉ…」
 潤んだ瞳を向けられて王馬の下半身は昂ぶってしまう。恋人の浅ましい姿を前にして王馬はもう我慢の限界だった。王馬のものは限界まで張り詰めて下着を押し上げている。媚薬など飲んでいないのに体が熱く、衣服を脱ぎ捨て下着姿になった。この熱い体に触れてほしいのだ。
「えへへ。お、うま……もっと、もっとちょうだい」
 両手を伸ばし、入間は更なる快楽をねだる。
「入間ちゃん……」
 おねがい。可愛らしい声でそう懇願され、王馬は下着のリボンを解く。愛液で浸されたそれを取り去ると粘液質な音が耳に届いた。下着の中で凝縮されたいやらしい匂いが王馬の興奮を掻き立てる。シーツを濡らすほどに溢れ出す愛液を掬い上げると、糸を引いて指先を伝い落ちた。
 入れたい。とろとろになった秘部に包まれて射精したい。脳を支配する欲望に、王馬のものはより怒張して脈を打つ。
「もう入れて……」
 王馬の気持ちを察したのか、入間は自分で秘部を開いて王馬を誘った。サイドテーブルの引き出しからゴムを取り出そうとすると入間に咎められる。
「しなくていいから……なかだしして……?」
「……ダメだよ」
 中出しという言葉に反応して王馬のものは先走りを垂らす。
「やだぁ……おうまの赤ちゃん欲しいよぉ……」
 駄々っ子のようなおねだり。彼女の言動全てが愛おしくてたまらなかった。今すぐに組み敷いて、果てるまでセックスをしたい。彼女が孕むまで種付けをしたい。内心ではそう思っているものの魅力的な誘いを断るだけの理性は残っていた。
「嬉しいけど、今はダメだよ」
 子供をあやすような口調で彼女を制すと今度は泣き出しそうな声で疑問符が飛んできた。
「なんでぇ?……アタシのこと嫌いなの?き、嫌いだから、赤ちゃん作りたくないの?」
「好きだからだよ」
 そう断言されて入間は目を見開く。王馬は柔らかな笑みを浮かべながらもう一度伝えた。
「好きだから大事にしたいんだ」
「すき、だから……」
「そうだよ。まだ高校生なんだし、体のこととか……色々考えないといけないでしょ」
 未成熟の体で妊娠をさせたくはなかった。何よりも衝動的に子供を作ることは王馬のポリシーに反しているのだ。好きだから、大切にしたいからこそ理性的でいなければならない。
「分かってくれるね?」
「うん……分かった」
「いい子。……いい子の入間ちゃんにはたくさんご褒美あげようね」
王馬はほくそ笑んで下着を脱いだ。ぶるんと勢いよく飛び出したそれは腹につきそうなほど反り返り、血管が浮き出るほどに昂ぶっている。外気に晒されて脈を打つ様子は正直グロテスクだ。入れればすぐに達してしまいそうだと思いながら薄いゴムをつけた。
「入れるね?」
 こくこくと頷く入間の両足を開かせ、張り詰めた亀頭を当てがう。ゆっくりと挿入すると、愛液で濡れたそこは慣らしてもいないのにすんなりと王馬を受け入れてくれた。熱く、鋭敏になった肉ひだに包まれて王馬の背筋に電流のような快感が走る。入間は足をぴくぴくと痙攣させ、浅い呼吸をしていた。自分の形を覚えるように、すぐには動かないで同じ体勢のままで太ももや腹を愛撫する。それだけなのに彼女の中は収縮して王馬の精を絞り出そうとしていた。
「も、うごいて……!」
 可愛らしいおねだりに王馬は腰を動かし始めた。浅いところも、奥も、余すところなく可愛がるような深いピストン運動。結合部からはぷちゅぷちゅと音が聞こえ泡立った愛液が垂れている。入間はシーツをぎゅっと握りながらはしたない声を上げていた。
「んっくぅぅッ!おうま、すきっ、すきぃっ!!」
「ふっ、う……オレも好きだよ……ッ!入間ちゃんのこと、大好きだよ……っ」
 愛の告白に、彼女の体は激しく反応する。入間の中はきゅんきゅんと疼いて王馬のものを締め付けてきた。可愛くて、愛おしくて、この恋心には際限がないとさえ思える。
「あ、ぅ…おうま……っ。な、なまえで、呼んで……!」
「名前で?……美兎ちゃん」
 名前を呼んだ瞬間、入間が完全に落ちるのが分かった。根元までくわえ込んだそれを食いちぎる勢いで秘部を疼かせ、その表情はとろけきっている。彼女の自尊心を支えていたはずの顔は涎と汗に塗れてぐしょぐしょだった。美兎ちゃん、と呼ぶ度に軽く絶頂して顔を歪ませている。こんな恥ずかしいところを、自分しか見られないのかと思うとひどく興奮した。
「は、ぁ……みうちゃん、お顔とろとろだね。涎垂らして、美人が台無しだよ……っ」
「や、やだぁ……っ!!みにゃいれぇ…っ」
 顔を隠そうとする彼女の手を掴む。
「……っ。こら、お顔隠しちゃっ、ダメでしょ?」
「だって、らってぇ……」
 両手を優しく握って腰を打ち付ける。入間はいやいやをするように首を振った。
「ぜんぶ、見てほしいんじゃなかったの?」
「か、かわいくないとこ見られたら……あ、ぁあッ、きらわれちゃう、からぁっ!!」
 いじらしい心情を打ち明けられて興奮しないはずがない。嫌うどころか、もっと彼女を愛おしく思ってしまう。王馬は両手を離さないように指を絡ませ、怒張したもので彼女の中を擦る。
「だから…ッ、嫌わないって言ってるのに……!はぁっ、も、う……こんなエッチなとこ見せられたら、もっと興奮しちゃうよっ!!」
「あっ、あぁぁんッ!」
 言葉を上手く発せないほどに乱れた彼女を見つめ、王馬は心の底から湧き上がる気持ちを口にする。
「みうちゃん…っ!可愛い……、可愛いよっ!!」
 入間は名前を呼ぶ度に体をびくつかせる。はしたない顔を視姦しながら王馬は懸命に腰を振った。汗の匂い、部屋に響く水音、鼓膜を揺らす声。全てが興奮を掻き立てる材料にしかならない。
「ふっ、ぅうっ!お、ぅま……ちゅーして……!」
「ん……」
 王馬は握っていた手を放し、彼女に覆いかぶさるように体勢を変える。入間は舌を突き出して王馬の口づけを懇願していた。舌を絡ませると入間は背筋を反らせて快感を露にする。キスをして、体を密着させながらする交わりに王馬の幸福感は高まっていく。入間の同じ気持ちなのだろう。逃がさないとでも言うように両脚を王馬の腰に回してきた。王馬は柔らかい体を抱き、熱く疼いている奥を突く。舌を吸い上げ、零れ落ちる唾液も舐め取った。彼女の全てを味わいたかった。
 一度唇を離すと、入間は犬のように舌を出して酸素を取り込もうとしていた。呼吸するのも精一杯のはずなのに両脚で腰を掴んで離さない。王馬は奥を責めながら、耳元で甘い言葉を囁いた。
「みうちゃん、結婚したら……っ、いっぱい、中出しエッチしてあげるからね……!!」
 入間は荒い呼吸をしながら嬉しそうに顔を綻ばせる。中は疼いて、王馬のものをきゅうきゅうと締め付けてきた。
「うれしい?」
「う、れしい……ッ!!おうま、しゅきっ、しゅきぃ……!」
「ん…っ、オレも愛してるよ…」
 ぎゅっと抱きしめてもう一度キスをする。そしてラストスパートをかけるように腰を振った。肉がぶつかる、パンパンという音が劣情を助長させる。熱い中も、絡みつく唾液も、豊満な胸の感触も何もかもが気持ちいい。彼女の肉体全てがもたらす快感によって射精を促されてしまう。
煮えたぎる精液が駆けあがってくる。入間がより強く腰にしがみつき、王馬のものはびくびくと震えてゴムの中へ精液をぶちまけた。脳みそが焼き切れるような快感に王馬は思わず目をつむる。吐精の心地よさと圧倒的な幸福感で頭がいっぱいだった。
「おうま…もうちょっと、このままでいて……」
「うん……いいよ」
 吐精してもまだ萎えないそれを入れたまま、余韻を楽しむように二人でキスを交わす。感度が最高潮まで高まったままの体に触れる度にぴくぴくと反応するのが可愛らしかった。

 入間の満足気な表情を見て、王馬は自分のものを引き抜く。ゴムの中に溜まった精液が自分がどれだけ興奮していたのか物語っているようで恥ずかしかった。
「ねぇ……」
「ん?」
「……て」
 入間が呟いた言葉が聞こえず、首を傾げる。すると王馬の目をじっと見つめてもう一度口を開いた。
「王馬の精子、飲ませて……」
AVでしか聞いたことのない発言に息を呑む。入間は気だるげに起き上がり王馬の前にしゃがみ込んだ。耳まで真っ赤にして、物欲しそうな視線を王馬に向けている。
「じゃあ、お口あーんして」
 入間は餌を欲する犬のように口を開け唾液で濡れた舌を突き出した。王馬はぬらぬらと光る舌の上に自分が吐き出した精液を垂らす。とぷとぷと舌の上に落ちていくそれを入間は全て受け止め、ゆっくりと味わうように咀嚼した。夢のような光景に王馬のものは再び隆起し始めてしまった。
「……ちゃんとごっくんできて偉いね」
 幸せそうに精液を飲み込む彼女の頭を優しく撫でた。
「えらい?いい子?」
「いい子。……ご褒美だよ」
 彼女を抱きしめて唇を重ねる。舌を差し入れると苦い味が口の中に広がった。決して美味しいとはいえない精液を、幸福な表情を浮かべて飲み下してくれる恋人の愛をはっきりと感じる。角度を変えながら、深いキスを繰り返していると昂ぶったそれが彼女の腹部に当たった。柔らかい肌に擦りつけながらキスを重ねていると、彼女が王馬のものを握った。弱いところを優しく扱かれて思わず唇を離す。いたずらを企んでいるような笑みを浮かべて、入間は王馬に囁いた。
「……もういっかいしよ?」
 王馬はその言葉に頷くしかなかった。

 ***
 二度目の交わりを終えて、王馬はひどく疲れ果てていた。しかしそれとは反比例するように心の中は幸福だった。媚薬も抜けたのか入間は穏やかな表情を浮かべて腕の中で甘えている。王馬は彼女を抱きながら頬や首筋にキスを落とした。
「ふふ。くすぐったい……」
 くすくすと笑い声を上げて身をよじる彼女を抱き、わき腹や背中をくすぐる。入間は鈴が転がるような声で笑いながら王馬に頬ずりをしてきた。飼い主に懐いた犬のようだと思い、王馬は彼女の頭を撫でた。
「王馬……今日、ありがと……」
 恥ずかしそうにはにかむ入間に、王馬も照れ臭くなり笑って誤魔化した。入間の望みを叶えるためとはいえ、思い返せば恥ずかしいことしかしていない。少しだけ彼女に仕返しがしたくなり、王馬は真実を告げることにした。
「ていうか、美兎ちゃんあの薬のこと信じてたんだね」
「……え?」
「あれただの媚薬だよ?自白剤でもあるまいし、素直になる薬なんて市販されてるわけないじゃん」
 それまでの穏やかな表情は一変し、戸惑いそして怒りへと変わっていく。入間は顔を赤く染めながら王馬の腕から抜け出そうともがいた。
「な、んだよ……オレ様のこと騙してたのかよ……!!」
「まぁ、そうなるね」
「じゃあさっき言ったことも全部……」
 いくつもの感情が心の中で交錯しているのだろう。目じりには涙が浮かび、続きを離すことに恐怖を感じているのが見受けられる。入間を愛していることも、これから先のことも全て本心だった。自分の気持ちを伝えたくて入間を強く抱きしる。
「嘘じゃないよ」
「で、でも……!!」
「だって、薬が偽物だって言ったら美兎ちゃんは本心を話してくれなかったでしょ?」
 王馬の意見に納得したのか入間はおずおずと頷く。
「美兎ちゃんが素直になれない性格なのは、よく分かってるから……」
「そ、そうかよ……。オメーにしてはなかなかやるじゃねーか」
 普段のつんけんした物言いに戻ってしまったものの誤解は解けたようで王馬は安堵した。甘やかすように背中を撫で、ごめんねと囁く。
「騙すような真似して、ホントにごめん……」
「べ、別に……オレ様は寛大だからな!許してやるよ!!」
「ふぅん。……そうだよね?嘘はオレの生きがいだし、むしろ嘘ついてないオレなんて王馬小吉とはいえないもんね。そりゃあ許してもらわないと!!」
 どことなく不服そうな入間の髪をくしゃくしゃと掻き乱す。入間はもう怒ってはいないようで、わずかに抵抗したものの素直に受け入れていた。少し唇を尖らせ、ふてくされた表情をする彼女の額に優しくキスをする。
「美兎ちゃんのこと、ちゃんと好きだよ」
「う……分かったけど、もうその呼び方やめろって」
「なんで?名前で呼んでほしかったんじゃないの?」
「それは……」
 そうだけどと語尾が徐々に小さくなる。王馬は彼女の耳を甘噛みし、美兎ちゃんと囁いた。入間はきゅっと目をつむって小さく呻く。みうちゃん、みうちゃん、と情事を思い出させるような甘い口調で名前を呼ぶと肩を震わせて吐息を漏らした。見れば耳まで赤く染まっている。
「……美兎ちゃん。これからはもっと素直になってよ」
「うぅ……」
「ダメ?」
「だ、だめってわけじゃねーけど」
「けど?何?恥ずかしいの?」
「クソッ。めんどくせー野郎だな!!……分かったよ。す、素直になるから」
「いい子」
 そう笑って強く抱きしめれば入間は仕方ねーなと頷いてくれた。
少し居心地が悪そうに腕の中でもぞもぞと動いていたが、突然王馬の心中を伺うような声を上げた。
「な、なぁ……その、アレって嘘じゃねーんだよな?」
「アレ?」
「……結婚だよ!!オメーが言ったくせに忘れんな!テメーは脳みそまでショタなのかよ!!」
 入間はそう叫び、脚をもじもじと擦り合わせながら王馬にしがみついてくる。
「本当に、してくれんのかよ」
「……うん。結婚しようよ」
「や、約束してくれる?」
「勿論。約束するよ」
 その言葉に安心したらしく、入間は柔らかい笑みを浮かべる。自分は大嘘つきであり入間もそのことは理解している。それでも、これだけは真実なのだと伝えたかった。結婚なんてまだ先のことだが、彼女と生活を思い描くと未来が美しいものであるように感じられた。
「ま、まぁオメーみてーな早漏野郎は今すぐ結婚してオレ様と子作りしてーんだろうけどな!!我慢してるだけでも褒めてやるよ!」
そう言い放った後に入間の喉の奥から嗚咽のようなものが聞こえた。泣いているのかもしれない。今は茶化すのはやめておこうと決めて、王馬は彼女の耳元でこう囁いた。
「美兎ちゃん、愛してるよ。……幸せになろうね」
 王馬の声に応えるように彼女は強く、強く、抱きしめてくれた。