Shinging in the rain!!
ツイッターの王入版深夜の60分一本勝負
「相合傘」からお題をお借りしました。

好意を自覚する前の入間ちゃんと、全部分かってる最原君

その日は朝から酷い雨だった。気だるい体を打って入間はある企業からの依頼品に手を付け、豪雨の中完成品を届けに出向いたのだ。
その帰りのことだ。最寄り駅で物悲し気に立たずむ王馬を発見した。まるで雨など予測していなかったかのように純粋な眼つきで空を見上げる彼を入間は見過ごせなかった。どうせ目的地は同じなのだからと入間は王馬に傘を差し出しす。
「……入れよ」
 一瞬戸惑うような表情を見せたものの、すぐに明るく笑って入間の腕に掴みかかった。
「さっすが入間ちゃん!オレの忠実な奴隷であることを誇らしく思うよ!」
「誰が奴隷だ!オメーが困ってそうだからよぉ。学校に帰るんだろ?だったら、一緒に帰ろうぜ」
 困っている人間を放っておけるほど入間は冷酷ではなかった。優しいねとからかうように囁いた王馬と共に希望ヶ峰学園への道を歩き始めたのだ。
 時間にしてわずか十分。普段なら音楽を聴きながら歩いていれば難なくつく距離だ。しかし今日は隣に王馬がいるからか妙に緊張してしまい、足取りも緩やかになる。恋人同士ではないがこの状況はいわゆる相合傘だ。ただのクラスメイトであった王馬のことを意識せざるを得ない。
 彼の歩み、息遣い、喋り口。全てが入間の心を刺激した。
「……入間ちゃんってオレのこと嫌い?」
 突然投げかけられたそんな質問に入間は戸惑いがちに返事をした。嫌いかと聞かれれば、嫌いなのかもしれない。だがこんな風に自分のそばに来てくれる。今は傘を貸してくれる都合のいい存在なのかもしれないが、隣で喋ってくれることは入間にとって嬉しいことだった。それに王馬は普段から発明だのなんだのと入間を頼ってくるのだ。自分を必要としてくれる人間を嫌う理由はなかった。たとえ王馬が意地悪で、サディストだとしても。
「き、嫌いじゃねーけど……」
「ホント?」
「ほ、本当だよ!オメーみたいな嘘つきド変態野郎じゃねーんだからよ」 
 ふぅんと興味なさげに返事をした彼に入間は少し近寄る。子供のような体系の王馬だったがその体はあたたかく、触れるだけで安心感があふれてくると入間は思った。体をぴっとりと寄せて、入間はそっと口を開く。
「……もっと知りてーって思ってる」
 それが入間の本音だった。自分に近づいて、触れて、知ろうとしてくれて……豪雨とはいえこんな風に隣り合って傘に入ってくれる。意地悪なようでどことなく優しい王馬のことを知りたかった。王馬は何も言わない。地面を打つ雨が二人だけをつつむベールのようだった。
 しばらく無言のままだった王馬だが、正門の前に着いた途端入間の方を見上げた。見透かすよう凛とした目付きに入間も思わず息を呑む。
「な、なんだよ」
「……オレのこと知りたいの?」
「……知りたい」
 淡々と入間は答えた。それ以外の言葉はいらないと思ったからだ。王馬は不敵に微笑んで、入間の目をじっと見つめた。紫色の瞳。宇宙のような、引き込まれてしまいそうな瞳だった。その瞳の輝きにうっとりとする入間に対して、王馬は予想外の言葉を投げかけてきた。
「じゃあオレとデートしてみる?」
「はぁ!?」
「オレのこと知りたいんでしょ?だったらデートするのが最適だよ」
 確かにそうかもしれない。でもいきなりデートだなんて。お友達から始めるのが筋なのではないだろうか。入間は頭の中に浮かび上がる様々な思考をまとめようと必死だった。
 もうとっくにお友達なのかもしれない。デートって何をするのか分からない。たくさんの考えが浮かぶものの、入間はいつのまにか頷いていた。
「じゃあ決まりね。日程とかはまた決めようよ」
 楽しげに笑う王馬に入間も笑い返す。ただのクラスメイトなのに、あの意地悪な王馬なのに、気にかけてしまう。寄宿舎へと歩きながら入間は彼が自分のことどう思っているか気になりだしてしまった。こんな風に相合傘をした相手に好意を抱かないわけがない。王馬は自分のことをどう考えているのだろうか。デートはいったいどこへ行くのだろうか。悶々としながら寄宿舎へと足を踏み入れた入間に、隣の王馬が優しく微笑みかえたのをまるで知らない。

***
 王馬君と入間さんが相合傘をしながら帰ってきた。二人は付き合っているわけではない。でも、王馬君の口ぶりや視線で彼が入間さんのことを好いていることくらいは分かる。それくらい分からなけば超高校級の探偵の名が廃るよね。
 今日だって王馬君は出かける前に、東条さんに折り畳み傘を貸してくれるに頼んでいた。それなのに彼は自前の傘を使わず入間さんと二人で帰宅している。きっと嘘をついて、傘がないふりをしたんだね。総統なんて言いながらも可愛いところがあるじゃないか。
「最原ちゃん、何にやにやしてるの?」
 キミの恋が成就するように祈るよ。友達だからね。
 入間さんもまんざらでもないような顔をしていたらその恋が成立することは遠くなんじゃないかな。
「いや、なんでもないよ」
 僕は、ひどく人間らしい「王馬小吉」に向かって微笑みかけた。