かわいい人 捏造注意:片目の部下×王馬 休日に一人で過ごしていた部下の元に王馬が来て、負けた方がなんでも言うことを聞かなければならないという条件のもとにゲームをすることになり…… 続きます 次からエロパートです |
王馬小吉は器用な男だ。要領が良く、人の心理を巧みに操り、自分の思い通りに事を進める。まさに「総統」という肩書きがぴったりの盤石な男。出会った時にそんな印象を受け、八年経った今も変わらずにいる。たとえその立場が上司と部下から、恋人同士になっても。 その日はひどい雨が降っていた。請け負っていた仕事が急にキャンセルになり予定がぽっかりと空いてしまったというのに、雨のせいで朝からずっと気だるい調子が続いている。勿論、外出する気にもなれなかった。ただ俺以外のメンバーはそれなりに忙しいらしく、アジトには珍しく誰もいない。仕方なくがらんどうのリビングで一人、先日買ったゲームをやりつつ休日を堪能することにした。 昨年発売した日本製のホラーゲーム。呪いを解くためにゾンビが徘徊する孤島を探索するという内容で、レビューサイトでは二度とプレイしたくないという書き込みが連なっていた。中古で安く手に入れられたのはラッキーだったな、と独り言を言ってみるも返事なんかあるわけない。そりゃそうだよなと独りごちて、俺はゲームの世界に没入していった。 ホラーゲーム特有の緊張感と恐怖感の絶妙なバランスを一度知ってしまうと、いくら怖かろうとどうしてもその世界に触れたくなってしまう。そして一度のめり込むと、なかなか抜け出せないから厄介だ。ゾンビに怯えながらも謎を解き続け、ふと時計を見れば二時間ほど経っていた。 喉の渇きを覚え、キッチンへと向かうと背後から視線を感じる。誰か帰って来ていたのだろうかと振り向くと、真っ白な布を被った何かがこちらを覗いていた。 「うわぁぁぁっ」 ホラーゲームのせいで神経が過敏になっていたせいか、自分でも驚くぐらいの声が出て思わず尻餅をつく。にししという独特な笑い声と共に白い布の中から顔を出したのは総統だった。それは楽しそうな笑顔を浮かべながら近づいて来て、俺を見下ろしている。こんな形で心臓が飛び出そうなくらいの衝撃を味わうなんて、不覚だ。 「か、帰って来てたんですか」 「うん。お前集中してて全然気づかないんだもん。大分待っちゃったよ」 俺を驚かせるために随分と労力をかけてくれたものだと、緊張していた体から力が抜けていく。総統はしゃがんで俺の胸に手を触れた。その瞬間に弛緩した体が熱くなる。すごいドキドキしてるね、とからかうように笑われるが何も言い訳が思いつかず唇を噛んだ。恥ずかしいところを見られてしまったことと、総統に触れられていることが合わさって鼓動が余計に速くなる。総統は意地悪そうに笑い、喉渇いちゃったと冷蔵庫からお気に入りの炭酸ジュースを取り出した。 「お前も飲む?」 「いえ、缶コーヒー取ってください」 「ん」 渡されたブラックコーヒーを一気に飲む。総統はそれを見てケラケラと笑い声をあげた。 「そんなにびっくりした?」 「しましたよ。まったく」 まったく、なんて語気を強めてみるけど、別に怒ってなんかいない。そんな風に全力で俺を驚かそうとするいたずら心と、子供っぽさが好きだと愛おしくなるばかりだ。総統は俺を見つめながら、何か素晴らしいいたずらでも思いついたかのように小さく声を上げた。 「ね。あのゲームまだやる?」 「あ、一緒にやりますか?謎解きが結構難易度高いので、楽しめるかと」 「んー。それよりさ、もっと面白いゲームやらない?例えば命をかけたデスゲームとかさ」 それまで漂っていた雰囲気が一変する。不気味に弧を描く瞳は俺のことをしっかりと捉え、口角は誘うように鋭く上がっている。しかし、この人が命をかけるなんて言う時は冗談だと思っていい。本当に命すらかけてしまえそうな、そんな重圧感がある表情をいとも簡単に作り出してしまえることには驚かされるが、流石に八年も一緒にいれば嘘か本当かの判断なんて簡単につく。俺がいいですよ、と乗ると総統は楽しげにリビングへと走って行った。 用意されていたのはチェスだった。何の変哲も無い、スタンダードなチェス盤と駒。総統曰く負けた方が勝った方の命令を何でも聞かなくてはならないらしい。突然、総統が俺を指差して高らかに叫んだ。 「手加減しないからね。いくら部下で恋人だろうと、オレが勝った暁には貴様の命をもらうさぁ用意はいいか?デュエルスタンバイ」 こういう勝負事になると、総統は途端にテンションが高くなる。俺とは真逆のタイプだ。俺はゲームの内容そのものが楽しければ勝ち負けにこだわらない。でも、何でも言うことを聞いてもらえるという特典が俺の闘争心に火を付けた。本来、先手後手の決め方も定められているのだが総統はあっさりと俺に先手を譲ってくれた。テーブルを挟み俺が白、総統が黒の駒が並んだ方に座りゲームが始まった。 幸い、チェスは得意な方だ。勝って総統を好きなようにできると思うとつい頬が緩んでしまう。そうは言っても、俺と総統はまだ体の関係に至ってはいない。付き合い始めて日が浅いこともあるが、長い間家族として接して来たせいだろう。ようやく手を繋いだり、キスをするのに慣れてきたところだ。勝ったら抱きしめさせてもらおうかな、なんて妄想を膨らませていると総統から催促の声が飛んできた。 「ほら、次の手は?もう降参ってわけじゃないよね?」 「え?あぁ、すみません」 総統に促されて駒を進める。ぼんやりしていた割に、戦況はこちら側の有利に傾いていた。 「お前は、勝ったらどんな命令をするつもりなの」 「それは秘密です」 本当はまだ思いついていないだけなのだが、それらしく笑ってみせる。総統は興味深そうに微笑んだ。 「ふぅん。まぁ、これは命懸けのゲームだからねお前が勝ったらオレの命をあげる覚悟くらいできてるんだから」 命懸けのゲームにしては緊迫感がないのはいいんだろうか。俺が次の手を打つたびに総統が追い詰められていくことにも、気づいてないわけではないだろう。その割に随分と楽しそうにしている理由が俺には読めなかった。 雨音と俺たちの声しか聞こえない部屋で、向かい合ってゲームをしていると、まるで世界に二人だけになってしまったような気がする。なんてロマンチックことを考えられるほどには、俺は総統が好きだ。実際に俺たちだけしかいない世界になってしまったら困るが、たまにはこんな風に二人きりで過ごす時間があってもいいだろう。喧騒と犯罪に彩られた毎日の中で、二人きりになることはそうそうない。他のメンバーはまだ帰ってこないのかと尋ねられ、肯定しながら頷くと総統はそっかと呟いた。 じっと見つめていると、まだ何か言いたげに視線を動かしていたが俺は黙っていた。盤面は相変わらず俺に有利なままだった。 「あーあ。負けちゃったよ。お前、結構強いんだね」 数十分の戦いの後、勝ったのは俺だった。だが自分の力で勝ったと言うよりも、総統にそう打たされていたような気分だ。チェス盤を片付けながら深いため息をつき、わざとらしく悔しそうな表情を浮かべた総統を見る。 「ほら、お前の言うことなんでも聞いてあげるよ。煮るなり焼くなり好きにしたら?欲しいならオレの命もあげるからさ、遠慮せずに言ってよ」 「何馬鹿なこと言ってるんですか」 「にしし」 あの独特な笑い声をあげながら総統はテーブルを離れ、リビングをゆっくりと歩く。そしてまるで誘うように俺をじっと見つめ、意地悪そうに微笑んだ。俺が大好きな笑い方。挑戦的で、それでいて可愛らしい笑顔。 「お前はオレに何をして欲しいの」 「そうですね。……じゃあ抱きしめてもいいですか」 「えー!それじゃ命令になってないよ!!……まぁ、いいけどさ」 からかうように肩を揺らして笑いながら両手を広げる総統を、俺は優しく抱きしめた。小さくてあたたかくて愛おしい。こんな小さな体に俺たちの人生や、超高校級という称号を背負っているのかと思うと手を回した背中が随分と広く思えた。俺の腕の中で総統は相変わらず、くすくすと笑っている。 「ふふ。お前はこんなことがしたかったの?せっかくオレになんでも命令できるのに」 「いいんです。あの……頭撫でたいです……」 「オレが負けたんだもん、好きにしていいよ。悪の総統に二言はないからね!」 総統は猫のように額を俺の胸元に擦り付けてきた。そっと頭を撫でるとぴくんと体が震え、俺の心が昂る。そのまま手のひらを滑らせて耳をくすぐるように撫で、頬に優しく触れた。真っ白でふにふにで、ほんのりと熱い頬。滑らせた手の動きに合わせるように総統の体が震え、俺の心臓の高鳴りはますます激しくなる。もっと触りたい、という欲望が顔をもたげたかと思うと一瞬にして脳を支配されてしまった。興奮状態の脳は上手く制御がきかず、欲望に突き動かされるままこんなことを口にしていた。 「俺の部屋、行きましょうか」 ----------- 続きます |