そのうさぎ、寂しがり屋につき
入間受けワンドロ
お題「うさぎ」に向けて
デートをする赤松と入間


小学生の時、同級生のゆきちゃんが飼っていたうさぎが死んでしまって何人かで集まって小さなお葬式を開いたことがあった。もう全然動かなくなってしまった真っ白なうさぎを抱いて泣きじゃくるゆきちゃんに、どうして死んじゃったのと聞くと、病気なんだってと返ってきて私は驚愕したことをはっきりと覚えている。うさぎは寂しくて死ぬものだと思っていた。というか思っている。今でも。
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改札を出ると鋭い日差しが私の肌を焼く。7月に入ってからぐんと熱くなって、8月になったら溶けちゃうかもしれないなぁなんて思った。辺りを見回して彼女を探していると、後ろから聞きなれた声が飛んできた。
「赤松テメーおせーぞ!!」
振り向くとそこにいたのはワンピースに身を包んだ入間さんだった。白地に鮮やかな色合いで花と蝶が描かれているもので、入間さんによく似合っている。
「ええっ。ごめん。でも10分前だよ?」
「はぁ?!オレ様と会う時は1時間前に来るのが常識だろうが!だからテメーはいつまでもまな板なんだよ!!」
「そ、そんな常識知らないし・・・。もしかして1時間前に来てた?」
そう尋ねると入間さんは照れながら、だったら悪いかよと答えた。そうか、この人はそういう人なのか。待ち合わせをすれば、楽しみにしすぎて1時間前に来てしまうようなそんな素直すぎる、かわいい人なのか。私は胸の辺りがきゅん、とするのを感じた。ああこういうのをときめきと呼ぶんだなぁと思いながらお詫びとしてお昼をおごることを約束した。ついでに次からは早くても30分前までにしてほしいと伝えた。
実は私たちがこうして待ち合わせをして会うのは初めてだった。何回も入間さんと休日に会ってはいたけれど、いつも私が彼女の研究所に行ってよくわからない発明品の実験台にされるばかりで、これは友達としてなんだかおかしい気がすると思った私が思い切って誘ったのだった。
とりあえず服でも見に行こうかと私たちは駅に隣接しているショッピングモールに入った。服屋に入るごとに私も服を見ながら、入間さんにあれもこれもと押し付けて何度も試着をさせた。かわいい女の子を着飾らせるのはものすごく楽しくて、思わずにやにやしてしまう。入間さんは自信満々に「オレ様に似合わねー服なんかねーんだよ!」と豪語していたけど、流石にゴスロリ系のお店に入ろうとしたときは恥ずかしいからと逃げてしまった。
それから2時間くらい、もうぐったりするくらいまで買い物を楽しんだ私たちはフードコートでお昼を食べていた。入間さんがオムライスで、私がハンバーグ。食べながら私はふと入間さんをからかいたくなって冗談を言ってみた。
「これはデートだね!」
「はぁ?!なんだよ急に・・・」
「えへへへ。デートだ。うれしい」
「し、知らねーよ。ケッ、やっぱりカス脳が考えることはよくわからねーな」
「でも入間さん顔赤いよ?」
私が指摘すると入間さんは顔に手をあてて俯いてしまった。
「うふふ。嘘だけどね」
「テメーなんなんだよ!!はっまさかバカ松の姿を借りた王馬?オレ様が知らねーうちに人類の技術が進化して他人に成りすますことが可能になったってのか?いや、オレ様の技術がなけりゃそんなことはできねーな。やっぱオレ様は人類の至宝なんだよわかったか貧乏松!!!」
私はつい大声を出して笑ってしまっていた。きょとんとする入間さんに、私がちゃんと赤松楓でさっきのはただの冗談だと伝えると今度こそ顔を赤くして、全部わかってたぜなんて分かりやすい嘘をついていた。
狼狽してとんでもないことを言い出した入間さんはすごく面白くて、可愛かった。王馬くんがいつもからかっている気持ちがわかってしまう。
「今日、ありがとね。入間さんとデートできてうれしい」
「・・・それも嘘?」
「もー。嘘は終わり!本当だよ」
「そ、そっか。・・・オレ様も、その、うれしい」
「えへへ。じゃあ嬉しいの2乗だねー」
私がそう笑うと入間さんも微笑んだ。その笑みはすごく優しくて、いつもみたいな高笑いをやめてもっとこういう風に笑えばいいのにと思う。入間さんがあのさ、と小さく言って私は耳を傾ける。
「いつも誘ってばっかりだから、今日誘ってくれてうれしかった」
いつも。もしかしていつも研究所に呼ばれるのは入間さんなりのデートのお誘いだったのかな。思い返せばほとんど毎週呼ばれていたような気がする。そのたびに私たちはいろんな話をして、仲良くなったのだった。こうやって入間さんの本音も引き出せるようになってようやく気付く。
「うん。ありがとう」
「ケケッ。オレ様に誘われたことを光栄に思え!末代まで語り継ぎやがれ!!」
ああ、入間さんはきっと寂しがり屋なんだなぁと思う。そうやって強気な言葉で自分を守って、本当に言いたいことを隠し通して、時間をかけてその守りを突き崩してあげないとそのやわくて脆い部分を見せてくれない。いつも自分が誘うばかりでもしかして不安だったのかなとか思ってしまう。随分長いこと不安にさせていたのかもしれないと思うと、私は申し訳ない気持ちになって入間さんに言った。
「これからは、私からも誘うから。だからいっぱい遊ぼうね」
「え?!本当?!」
心の底から嬉しそうに瞳を輝かせる入間さんに私は大きく頷く。
「あのさ、美兎って呼んでいい?」
「は、え、・・・いいけど」
「じゃあ私のことも楓って呼んでね!」
「・・・貧乏胸の楓」
「そうじゃない!!通り名みたいなのいらないから!!」
美兎という名前を口にして私は気づく。彼女の名前には兎という文字が入っていたことに。私は目の前にいる寂しがり屋のうさぎに誓う。絶対寂しい思いなんかさせないからね、と。