すき、きらい、すき、きらい、すき……

「…きらい」

何度やっても、結局結果は同じだった。花びらを毟り取られた、花であったそれらは、ひどく無惨な姿で横たわっている。ケイは一つ、小さく溜め息を漏らした。

ふと視線を上げると、視界の遠くで愛しい彼と、その彼にからかわれる彼女の姿。あぁ、私が入る隙なんて、やっぱりどこにもない。諦めたように立ち上がると、ケイはその光景を見たくなくて遠くへ歩いていった。

ケイはゼロスに密かに想いを寄せている。そのゼロスはというと、どうやらしいなが好きらしい。しいなも意外と満更でもない様子で、他のパーティーも彼らのじゃれ合いは恋人の戯れ程度にしか思っていないようだった。

その光景を見るたび、いつもケイの胸が苦しくなっているのに、誰もそれに気付きはしない。

結局は、彼らの間にケイが入り込めるだけの隙なんてありはしないのだ。それをケイは知っているから、誰にも何も言えないし、誰にも何も言わない。毎日チクチクと小さく痛む心の傷は気づかぬうちにどんどんとかさを増し、そして次第にその痛みに耐えることすら出来なくなっていた。

「…っく…ひっく…」

野営をするはずだった場所から随分離れたところまで来たケイは、一人泣いていた。痛みを吐き出す方法を、彼女は涙に見出した。泣くことで傷を少しだけ吐き出して、そして何とか笑えるようになる。

しかし、心は限界だった。

このままじゃいつか本当の笑顔を忘れてしまいそうで怖かった。だけどこのまま泣いてばかりで迷惑をかけるのも嫌だった。どうすることも出来ない自分を、ひどく、弱いと思った。

「―――ケイちゃん」

突然、聞き慣れた声がしたので、ケイは慌てて涙を拭い、振り返った。そこには先程までしいなと戯れていた、愛しい人の姿。

「ゼロス…」

名前を呼んだだけで、愛しさがこみ上げてくる。自分の想いを飲み込んで、ケイは無理矢理笑ってみせた。

「どうしたの?こんなところで」
「それは俺さまのセリフ。ケイちゃんこそ、こんなところで何泣いてんだ?」
「!」

さらりとゼロスが言ってのけた。思わずケイの肩が跳ねる。

「私は……別に、泣いてなんか…」
「嘘だな」

ゼロスがあっさりと否定する。サクサクと足音を鳴らしながら、ケイの側まで歩み寄った。そして俯くケイの側にしゃがみこむと、ふわりと優しく、その小さな体を抱きしめた。突然のことに、ケイは言葉も出ない。

「…ケイちゃんが泣いてると、俺さままで泣きたくなっちまうじゃねぇの」
「…」
「それにあんな下手くそな笑顔じゃ、あのロイドくんにも見抜かれちまうぜ?」

笑顔作るならもっとナチュラルに作らなきゃな、と言って、ゼロスはケイの背中をぽんぽんと優しく叩く。ゼロスの優しさで、ケイの瞳に涙がにじむ。

「…っ、私、だめ、なの。すごく汚い心で、いっぱい、なの…」

嗚咽交じりに吐き出した言葉。もうケイには止められなかった。どんどんと、傷を負った醜い自分があふれていく。

「ゼロスとしいなが仲良くしてるの、見るのがつらくて、私、入る隙間なんかないのに、なのに、すごく、悲しくて、」

単語を寄せ集めただけのような文章がどんどん口からこぼれていく。あぁ、なんて汚い想いなんだろう。

「好きになっちゃ、だめなのに、好きになっちゃって、もうどうしたらいいか、わかんなくて、」
「…ケイちゃん、もういい」
「私汚いから、ゼロスは綺麗だから、だから、」
「ケイちゃん」
「だから、私、私なんて、いらな……っ!?」

不意に、唇に温かい感触が触れて、ケイの口から言葉の続きが発せられることはなかった。唇を唇で塞がれていると分かるのに、時間はかからなかった。そして長い間、しばらく二人はそのまま動かずに、ただ風の音だけが響く。

名残惜しそうにゼロスが唇を離すと、ケイはただ彼の美しい顔を見つめることしか出来なかった。ゼロスは柔らかく笑って、ケイの頬を撫でると、はっきりとこう言った。

「好きだ」

ケイの瞳から、悲しみからではない涙が流れた。

「俺はケイちゃんが好きだ」

もう一度、言い聞かせるようにゼロスは言う。ケイの頬を流れた涙を、そっと拭いながら。

「で、も、ゼロスには、しいなが、」
「それはケイちゃんの思い込み。しいなは昔なじみの悪友みたいなやつなの。俺が好きなのはケイちゃんだけ」
「…ほんと?」
「ほんと。だからケイちゃんにそんなに泣かれると、結構本気でどうすりゃいいかわかんなくなるわけよ」

だからさ、

ゼロスは今までにないくらい優しく微笑んで、言った。

「俺さまだけのケイちゃんになって」
「ゼロス…それって…」
「そしたらこんな風に泣かせたりしないからさ」
「っ、だいすき!」

泣き顔で抱きついたケイを、ゼロスは笑顔で受け止めた。



花占い
(当たるも八卦、当たらぬも八卦!)

2011.09.14

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