「どこ行くの?」

宿屋から出て行こうとする俺の背中に、眠たそうなケイの声が突き刺さる。異常な程に心臓が跳ね上がったが、気付かれないよう、出来るだけ冷静さを装いながら俺はケイを振り返った。

「いやぁ、ちょっと散歩に行こうかと思って、な」
「…こんな夜更けに?」
「寝付けなかったんだよ」

今からクルシスに情報を流すためにクラトスに会う予定だったのに、まさかここでケイに見つかるとは思っていなかった。まして、一番見られたくないやつに見つかるなんて、最悪だ。

「悪い夢でもみたの?」
「んー、ま、そんなとこ」
「じゃ、一緒に寝ようよ」

まだ眠たそうな声で、だけど悪意のないふわふわとした笑顔を俺に見せる。嬉しいお誘いなのだが、ここでケイに流されるわけにはいかない。

「嬉しいねぇ。…でも悪ぃ、ちょっと一人になりたいんだ」
「そっか…」
「…散歩が終わったら、ケイちゃんの部屋行くわ」

今日はそんな気分だからな、そう言って笑いかけてやれば、不安そうに眉を下げていたケイも安心したように笑って頷き、素直に部屋へ戻っていった。俺はひとつ溜め息をつくと、夜の闇に紛れ込んだ。



裏切りの前兆
(そして俺は君じゃなくて俺を選ぶんだ)

2011.09.11

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