午前2時過ぎ、唐突に目が覚めて、熱いシャワーを浴びる。夕方からしこたま飲んだせいか、軽い吐き気と目眩に眉を寄せた。日付が変わる前には部屋に戻り、酒の勢いに負けてしばらくベッドに沈んでいたため、思いの外意識はしっかりしているらしい。

シャワー上がりの素顔は血の気が失せていて、水分が足りていないと鏡越しに訴える。ろくに水気も拭わないまま冷蔵庫からペットボトルを取り出して、裸で一気に体内に水を与えてやると、再びベッドに沈んだ。

わずかにタバコの臭いが残るベッドに不快感を覚えながら、薄明かるい無音の部屋でぼんやりと天井を眺める。今日も鬱憤を晴らすように散々踊り狂って気持ちよく酒を煽っていたはずなのに、すべてが終わって一人になると、いつだって虚しい気持ちになるのは変わりない。

明日も休みだ、ゆっくりしよう、そう思ってしぶしぶ立ち上がり髪を乾かした後、まるで計ったかのようにドアをノックする音が響いた。思わず笑みがこぼれたが、なんとか上手くはぐらかす。バスタオルを乱暴に体に巻き付け、訪問者を確認することなくドアをあければ、そこに立っていたのは薄っぺらい笑顔を張り付けた赤い髪の男。

「こんな時間にどなたですか、くらい言えよケイちゃん」
「こんな時間にノックしてやってくんのあんたくらいよゼロス」

追い返すでも招き入れるでもなくドアに背を向けると、ゼロスは当たり前のように部屋に入ってきた。

勝手知ったる我が家の冷蔵庫から缶ビールを取り出して、プシュッと小気味のいい音を鳴らしながらプルタブを開けると、迷うことなく口をつける。この体からアルコールが抜けきるまで酒など見たくもなかったために、つい眉間に皺が寄るのはいつものことだ。

「俺さまの目が届かないからって休日の夜遊びもほどほどにしとけよ」
「私の目が届かないからって女遊びばっかのチャラ男に言われたくないね」
「おーおー冷たいこった。あとちゃんと服着ろよ、風邪ひくぞ」
「お気遣いありがと。平気だからほっといて」

体にバスタオルを巻き付けたままもう一度ベッドに横になると、ギシッとスプリングをならしてゼロスがその端に腰かける。缶ビールをベッドサイドに置いて、転がる私の頭を優しく撫でながらふっと微笑んだ。

「何件行ったわけ?」
「三次会までよ、大したことない」
「じゃあ俺さまの相手も余裕だよな」
「アルコール臭がするゲロまみれになりたいならいいよ」
「おっと、やっぱり遠慮しとくわ」

くくくっと笑いながら、慣れた手つきで優しく髪をすく。心地よくて自然と瞼が落ちていくが、眠気はとうに消えている。

しばらくその心地よさに身を委ねていたが、頭を撫でる感覚が止んで目を開けると、遠くにあったはずの端正な顔がすぐ目の前にあって、さらりと唇を塞がれた。

「酒臭くないな」
「歯磨きしたもの」
「そりゃー良かった」

そしてもう一度、同じ行為を繰り返す。自然と深まるそれに思考のすべてを奪われながらも、腕はゼロスの背中にきちんとしがみついている。リップ音を鳴らしながら離れた唇は少し濡れていて、気持ちいいくらい背筋がぞっとする。

「…相手してくれる気になった?」
「遠慮しとくんじゃなかったの?」
「気が変わった」
「ゲロまみれをご要望なわけね。いつそんな性癖うまれたの?」
「ケイちゃんのなら仕方ないから受け止めてやるよ」
「別に嬉しくないわ」

笑いながら口付けを交わすと、ゼロスもベッドに横になった。なんとなく唇をはなして目を合わせば、いい加減見慣れた青い瞳に射抜かれる。アルコールとキスの余韻であまりよく働かない頭で、なんとなく綺麗だなあと思っていると、大きな手のひらが優しく頬を包み込んだ。

「今日はちょーっと飲みすぎだな」
「誰かさんが私のことほったらかしてばっかりだから寂しくなったの」
「悪かったよ」

そんなセリフを吐きながら笑う顔がやけに幸せそうで、腹が立って背中を向けた。するとすっぽりと背中から私を包み込んで、また頭を撫ではじめるものだから、怒りはあっさりと消えて心地よさが込み上げる。我ながら単純だな、とは思うけれど、こうして甘やかされることに悪い気はしない。

背中を向けたままほんの少しだけすり寄ると、すべて見抜いていたかのように、首の下に腕をねじ込んできた。馴染んだ匂いの腕枕に安心感を覚える。相手をしろだなんて言いながら、こんな状態でも手を出してくる気配がないあたり、今日はこのまま寝かせてくれるらしい。

「眠くなってきた」
「おー、寝ろ寝ろ。俺さまの腕の中で安心して寝ていいぜ〜」
「ゲロはいいの?」
「起きてから吐けるなら吐いてみろよ」
「…起きるまで、いてくれるの?」

少し驚いて振り返れば、ゼロスはとびきり優しい声で囁いた。

「寂しがり屋の恋人、ほっとけねぇからな」


寂しがり屋の恋人
(アルコールも、あなたの居心地の良さには勝てないわ)

2015.04.14

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