「フォシテスさま」
「なんだ」
「わたし、怖いです」
「なにがだ」
「あなたを失うことが」

ケイはフォシテスの腕の中で歌うようにそう呟いた。

「だってわたしは人間で、元奴隷で、だけどあなたはハーフエルフで、ここのお偉いさん」
「…つまり何が言いたいのだ」
「わたしはあなたとの永遠を信じたい、だけど永遠なんてどこにもない」
「…」
「絶対なんてありえないこんな世界で、種族や身分さえ越えた、変わらない想いがあるのかなって」

不安になるから怖いんです、と、掠れた声で吐き出した。フォシテスは自身の腕の力を少しだけゆるめると、真っ直ぐにケイを見つめる。ケイもまた、じっとフォシテスを見つめていた。とても不安げに。

「ケイ」
「はい」
「人は変わる、時代も変わる、そしてもちろん世界も変わる」
「…」

黙ってケイは聞いている。

「変わらないものを守るためには、変わっていくしかないんだ」
「わたしも、あなたも?」
「そうだ。私たちがずっとそばにいるためには、お互いが変わっていかなくてはいけない」
「そうすれば、ずっと傍にいられるんですか?」
「…まだ信じられないか?」
「はい…」

俯くケイに、フォシテスが少し笑った。フォシテスは俯くケイの頬に、優しく触れると、その愛らしい顔を自分へと向ける。

「…とある人間は『変わらない存在であり続けるために、変わり続けること』を選んだ」
「え?」
「そうやって変わり行く時の流れに適応していったからこそ、その人間は変わらない存在でいられたのだ」
「…わたしもそうやって、あなたと上手に歩いていけたら、変わらず一緒にいられるのですか?」
「そうだ、だから不安になることなど何もない。お前が変われば私も変わる」
「だからこそ、ここにある想いは変わらないんですね?」

首を傾けてそう問うケイに、フォシテスは優しく微笑みかける。

「変わっていけばいい、二人で。そして変わることなく愛し合えばいい」
「…ずっと、永遠に?」
「あぁ、ずっと」

来世も、そしてその先も、君と二人なら、ずっとずっと。



変わらないもの
(それから二人でキスをした)


コピーライトエルメス、テンキュウ。

2010.02.01

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