「…まさかケイとゼロスが、ねぇ」

しいなは呆れたような笑い顔を、ケーキを入刀している二人に向けた。同じ席に座っていたリフィルは紅茶を啜りながら、しいなと同じところへ視線を向ける。

「まぁよいのではなくて?幸せそうな二人を見ていて、悪い気はしないわ」
「そうなんだけどねぇ」
「何か不満でも?」
「まさか、そんなわけないじゃないか。ただ…」

しいなはまるで母親のような柔らかな眼差しでケイを見た。純白のマーメイドラインのウェディングドレスは、ケイの美しい体のラインをより一層美しく引き立てている。

しいなが出会った頃はまだ16だったケイも、今ではもう20になったのだ。年々大人になり美しくなっていく彼女だが、その笑顔は昔と変わらない可愛らしさとあどけなさを残している。ケイは隣にいる赤い髪のテセアラの神子に、これ以上ない程の幸せそうな笑顔を向けていた。

「付き合ってた頃あんなにゼロスに傷付けられたのに、結局あんな女ったらし選んじまうなんて、ケイもほんっとに大バカ者だと思ってね」

まだテセアラとシルヴァラントが統合していなかったとき、ロイドたちと一緒にシルヴァラントから来たケイがゼロスに一目惚れをして、その後すぐに付き合った。付き合ったのはいいものの、ゼロスの女ったらしっぷりは相変わらずで、そのせいで何度もケイは傷付けられたのだが、それでもケイはゼロスを諦めなかった。

そして世界を統合して、4年が過ぎた。世界統合後はいろいろと世界情勢の問題もあって大変だったが、それもとりあえずは一段落ついた頃、ゼロスがケイに言った。


『 結婚しよう 』


何があっても、どんなことに巻き込まれても、いつだってケイはゼロスの味方だった。いつしかそんなケイの大切さに気付いたゼロスは、次第に女遊びをやめ、自他共に認めるほどケイを溺愛していったのだ。まだ神子としての権限やその存在価値も高く評価されているゼロスは、相変わらず多忙な日々だが、ケイのお陰でなんとか日々を乗り越えて行っているようだった。

ケーキ入刀を終え、突然ゼロスがマイクを持った。そして相変わらずのおちゃらけた口調でべらべらと話を始める。4年たっても、ゼロスのこういうところは変わらない。

ロイドのあることないことを話のネタにするや否や、会場中に笑いが起こる。一番前の席に座っていたロイドは、恥ずかしさのあまりゼロスに飛び掛ろうとしていたが、それをジーニアスが懸命に抑えていた。その光景に、さらに笑いが起こる。それに気を良くしたらしいゼロスは、世界を統合したときの話をべらべらとおもしろおかしく喋りだした。

「…何をやってんだい、あのアホ神子」

しいながはあっと盛大に溜め息をつく。リフィルはというと、懐かしむようにその話を耳を傾けていた。

『…とまぁ、俺さまたちはこーやって世界を統合して、あるべき姿に再生しちゃったわけよ〜』

マイクを通したゼロスの声が、スピーカーから響き渡る。すると今までへらへらしていたゼロスの声が、ふいに真剣なものへと変わった。

『…そんな旅の中で、俺さまは本当に大事な存在に巡りあえた』

会場の笑いも収まり、静まり返る。

『そいつは本当に単純でバカで一途で、そのくせ俺の心を誰よりもしっかり掴んで離さなかった』

しいなも、黙ってその声に耳を傾ける。

『俺は、ケイに出会えて本当に良かったって思ってる。柄じゃねぇけど、な』
「…ゼロス…」

ケイは今にも泣きそうだ。

『今まで散々傷つけてきたけど、もう二度と傷つけないって俺は俺に誓った。ケイは俺が守る、誰にも渡さねぇ。世界一、愛してるぜ』

ゼロスがそう言ってマイクを置いた瞬間、ゼロスの胸にケイが飛び込んだ。会場は拍手喝采で沸きあがる。

「…しいな、涙ぐんでいてよ」
「…リフィルだってそうじゃないか」
「…そうね、けれど仕方ないことだわ。だって、ケイのあんなに幸せそうな顔、初めて見たんだもの」

可愛い教え子の表情が、堪らなく愛しかったのだろう。

「あぁ…そうだね、ケイがゼロスを変えて、自分で掴んだ幸せだからね。だからこんなに、嬉しくて泣きそうになっちまうんだよ」

しいなの瞳から、ポロリと涙が零れた。



ハッピー・ウェディング・ディア・マイ・フレンズ
(二人が永遠に幸せでありますようにと、心からの祝福を送ろう)

2012.02.13

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