「ねぇゼロス」
「んー?何かな麗しのケイちゃん」
「ここは息苦しいのね」

これはゼロスがロイドたちと出会う、少しだけ前のお話―――

ここは王都メルトキオ。ゼロスの屋敷のゼロスの部屋の窓から、メルトキオの城下町を一望していた娘は言った。

娘の名前は、ケイ。クルシスから決められた、ゼロスの婚約者である。ケイは貴族とは何ら関わりのない、ごく普通の家で暮らしてきた、とても美しい娘だった。

それが突然、神子の婚約者として定められ、着慣れない綺麗なドレスを着せられ、面識のないゼロスの元へ連れられた。

以来、ケイがこの屋敷で暮らしてから、二週間が経過した、昼下がりのことだった。

「このおーきな屋敷が息苦しい?ケイちゃんって変な子だなぁ〜」
「息苦しい、それ以上、何もないところね」

冷めた声でケイは言った。

「朝起きてから眠るまで、眠ってる間も、かーわいいメイドさんたちやセバスチャンが何もかも全部やってくれるのにか?楽なことこの上ないだろ」
「だから息苦しいの。まるで鳥籠の中の鳥みたい」

ケイはそういうと、視線をゼロスによこした。

「ゼロスは嫌じゃないの?」
「なにが?」
「こんなところで毎日息苦しく暮らすことも、何もかも定められた人生も、神子という役割も」

ケイの目は真っ直ぐにゼロスを捉えて離さない。お互い全く面識などなかった状態から二週間、ゼロスはケイのこの何もかも見透かしたような視線が苦手だった。逃げ道さえ塞がれて、無理矢理真実を突きつけられるような気がして、嫌だった。

「…さあ、どーかな?」
「…」

はぐらかしたり誤魔化したりすれば、いつだってケイはそれ以上なにも聞かない。視線を城下町に戻したケイは、何も言わずにかつて自分の家だった方向を真っ直ぐ見つめている。

ケイは、自分の定められた人生に、巻き込まれた被害者にすぎない。ゼロスはいつもそう思っていた。

きっと、平凡だけど自由で気ままな毎日を楽しく送っていたのであろうケイは、突然神子である自分の人生に巻き込まれてしまった。好きな男がいたのかもしれない、しかし、その男と結ばれることは、もう一生ない。

ゼロスは、ケイに母のミレーヌの姿を写していた。望んでもいない相手と、望んでもいない婚約。そして定められた、望んでもいない人生。

自分という人間がいるせいで、神子という存在があるせいで、それに巻き込まれたものの意思はいつだって否定される。

「…なあケイちゃん」
「…」
「街に、出てみるか?」

ゼロスの言葉に、ケイが弾かれたように振り向く。初めてみるケイの、きっと、ほんとの顔。

「たまには家に帰りたいだろ。お袋さんも心配してるだろうしな」
「……そんなの無理よ。それにまた嫌な目に合うだけだもの」

本当はきっと、出たいんだろう。けれどケイの心の中で渦をまく、黒い影。それはゼロスに好意を寄せていた貴族の女たちからの、あからさまな迫害。

平民のくせにゼロスさまの妻になるだなんてあつかましい、何様のつもりかしら。

外に出るときは婚約者らしく、二人で一緒に行動すること、という決まりすら定められてしまった。ゼロスと少し出歩くだけで、明らかな拒絶を受ける。ケイの存在なんて初めからそこになかったかのように、女たちはゼロスに群がる。自分を拒絶する女たちを、ゼロスは拒絶しない。

ケイはそれに怯えているのだ。きっと街では、母からの愛情をたくさん受け、いろんな人間に愛されていたのであろう娘は、この場所ではその存在すらも否定される。いや、否定すらなく、ただその存在自体がなかったことにされる。

初めのころは外に出たがり、よくゼロスに外出を求めたケイも、数日で出たがらなくなった。ここにいれば息苦しいだけで済む。外には出たいが、外に出れば息苦しさよりも過酷な迫害が待ち受けている。

結果、ケイはここで息苦しさに耐えることを選んだのだ。限られた選択権だったが、それはケイにとっての、ごく僅かな、自由。どちらも望んではいないが、選ぶ、という行為は、ケイを自由にさせた。

ケイは自分で、ここで鳥籠の中の鳥のようにして暮らすという、まるで人形のような人生を歩むことを決めた。

「…でも、お袋さんに会いたいだろ?」
「会いたいわ、だけど会えないの。…それに、ゼロスと一緒にいるだけで、私は価値を失うの」

目を伏せながら放たれたケイの言葉に、ゼロスは何も言えなくなった。価値の無い自分のせいで、なんの罪もない娘の価値すら失われてしまう事実を呪ってやりたくもなった。

「…みんな言うわ、私じゃゼロスと釣り合わない。なんで私が選ばれたのかって」
「…」
「私だってそう思う。どうして私なんかが選ばれたんだろうって」

ケイはまた、街を見た。

「ゼロスは私の価値を無価値にしてしまった女の人にも、変わらず笑いかけるでしょう」
「…嫌か?」
「別に、今までだってそうだったんだから、そうすればいいと思うし、私にそれを拒む権利なんてない。だけど、」

ケイは再び、ゼロスの嫌いな目でゼロスをしっかりと見据えた。

「あんなに薄っぺらい笑顔で笑いかけるなら、いっそ笑わなければいいのに、って思う」
「…!」
「私はあんな薄ら笑いはしたくないの、だから私はここへ来る前に笑顔を家に置いてきた」
「…」
「私は、神子である貴方も、この決められた人生も、息苦しい生活も、何もかも、愛せない」
「……ほんと、この俺さまにそんなこと言うのはケイちゃんだけだぜ〜?」

ゼロスはへらへらと笑って、そっとケイの手をとった。

「…ゼロス?」

貴族の女性にはまずありえない、傷やまめの後。今まで一生懸命手伝って働いてきた証。そんな彼女にここで息苦しい生活をさせれば、当然笑顔なんて見れるわけなどない。

「…ほんと悪かったな、こんなつまんねぇ人生に巻き込んで」
「…」
「別に俺さまのこと愛してくれとは言わねぇ。何もすることなんてないけど、ま、好き勝手してくれればいいからよ」
「…」
「街、出たかったら一人で行ってもいいからな。上には俺から適当に言っとくから」
「………の、」
「ん?」
「家族には、会っちゃダメって、教会から、言われてるの」
「…え?」

ゼロスは驚きを隠せなかった。教会からはそんなこと、何一つ聞いていない。ケイだけが伝えられていたことだった。

「…ゼロスはきっと、何も聞いてなかったのね」
「…」
「…あのね。私が教会からの命令に背いたら、家族が何らかの形で犠牲になるの。だから私は、一人で街には行けないし、家族にも会えない」
「…はっ、嘘だろ?」
「こんな嘘、つけない」

自分に関わった人間だけじゃなく、関わった人間と関係のあった人間すら、自分は不幸にしてしまうのか。ゼロスは自分の存在に嫌気がさした。

少しだけケイの手を強く握る。この手は確かにここにあるのに、存在は無価値。その全ての元凶は、他でもない、自分。

「…チッ」

ゼロス今までケイに見せたことがない顔をしていた。いや、ケイだけじゃない、誰にも見せたことはない。笑顔の奥に潜んでいた、ゼロスの本当の顔。

ゼロスはケイの手を振り払うと、部屋を出て行こうとする。

「、ゼロス?」
「婚約破綻だ」
「え?」
「こんなくだらない婚約なら、破綻だ」
「…破綻?どうやって…」
「文句言いにいく」
「きょ、教会に?」
「そりゃそーでしょーよ」

ゼロスはケイの目を真っ直ぐ見つめて言った。

「ケイちゃんは、幸せにならなきゃいけない」
「…ゼロス?」
「俺さまに関わると、みんなろくなことにならない。ケイちゃんみたいな子は、こんなつまんねぇ人生に巻き込まれちゃいけねーの」
「…」
「だから、今から婚約破綻成立させてくるから、ケイちゃんはもうしばらくここで我慢して待っててくれ」
「…ゼロス」
「ん?」
「―――ごめんなさい」

ケイは今にも泣きそうな顔をして、頭を下げた。ゼロスには何に対しての謝罪なのか、さっぱり分からない。巻き込んだのは自分という存在のせいなのに。

「ちょ、ケイちゃん!」

慌ててゼロスはケイに駆け寄った。肩は小刻みに震え、鼻をすする音が聞こえる。

ケイは泣いていた。初めて見るケイの涙の意味など分からないまま、ゼロスはケイを強く抱きしめた。
そうすること以外、何も出来なかった。

「…なぁーんでケイちゃんが謝るのよ…」
「っ、だって……私が、選ばれたから…」
「だから、それを今から破棄させに行くんだって」
「ちが…違うの……選ばれたのに、私、責任全部、ゼロスに押し付けて……」

もう最低よね、ゼロスの腕の中でケイは小さく呟いた。

「…私のワガママのせいで、今、ゼロスに面倒おしつけてるのに、私、文句ばっかりで、」
「もういい、ケイちゃんは、笑顔のある場所へ帰ればいい」
「ごめんなさい、本当に、ごめんなさい」

腕の中ですすり泣くケイを、ゼロスはより一層強く抱きしめた。この腕の中には、きっと、愛なんてない。それでも、純粋な気持ちで、抱きしめずにはいられなかった。

腕の中で涙するケイは、一体どんな思いで家族と引き離され、どんな思いでここに来て、どんな思いでその人生を定められたのだろう。そしてその人生を狂わせた男のために、どうして涙を流せるのだろう。

ゼロスはもう何も分からなかった。もしもこれが貴族の女で、自分に媚しか売らないような女だったとしたら、きっと喜んでここへ嫁ぎにくる。そして莫大な財産や神子の妻としての権限をばら撒いて、楽しく暮らすだろう。

ケイは、他の女とは、何もかもが違った。財産にも興味などなく、自分には媚も売らない。ケイは、一度もゼロスと「神子さま」と呼んだことはない。初めて会ったその日から「ゼロス」と呼んだ。

そんな娘が、自分の腕の中で、泣いている。それをとめる術を、ゼロスは知らない。

「ごめん、なさい」
「ケイちゃん、そんなに謝られたら俺さま本気で困るって」
「でも、」
「別にケイちゃんのしてることは迷惑でもなんでもない。だから、頼むから、泣き止んでくれ」

腕の中で身じろぎをして、ケイはゼロスを見上げた。ゼロスとケイの視線がぶつかった瞬間、ゼロスは息が詰まった。

今までケイの冷たい顔の下でずっと隠れていた、ほんとのケイの顔。涙で濡れた頬と瞳、不安そうな表情、その全てが、一瞬でゼロスの心を支配した。

「……ゼロス?」

動かなくなったゼロスを見て不安に思ったのか、ケイは柔らかな声でゼロスを呼んだ。

「…なぁ、ケイちゃん」
「なに?」
「キス、したら怒るか?」
「…………へ!?」

少しの間のあと、ケイが今までに聞いたことのないような素っ頓狂な声を上げた。そしてみるみるうちに顔が真っ赤に染まっていく。

「き、キス、って…」
「いや、なんか、あまりにも可愛いから」
「こ、この状況でそんなことよく言えるわね!」
「いやいや、この状況だからこそ言えるんだぜケイちゃん」

ゼロスの腕の中にいるケイと、ケイを腕の中に収めたままのゼロス。言い合いは続く。

「し、しないわ!好きでもない人とキスなんて出来ない!」
「…ケイちゃん、街に好きな男でも、いた?」
「べ、別にいなかったけど…」
「ほんとに?」
「ほんとよ」
「……じゃあ、予定変更だな。婚約破綻はなしだ」

ゼロスが言うと、ケイはぽかんとゼロスを見つめた。

「ど、どういう…」

意味、と言おうとしたケイだったが、それは叶わなかった。

ケイの唇にゼロスのそれが降ってきて、それがあまりにも突然の出来事過ぎて、ケイの思考はついていかなかった。

「ごちそーさま」

ニヤリと笑うゼロスを見て、ケイは顔を真っ赤に染め上げて声を上げる。

「最低!最低よゼロス!急に何するの!」
「いや、俺さまの可愛いお嫁さんだし、いいかなーって思って」
「婚約破綻するんでしょ!」
「だーかーらー、それはなし」
「幸せになれって言ったくせに!」
「言った」
「だったら…!」
「だから、俺が幸せにしてやろうと思って」

ゼロスは真剣にケイを見つめると、その濡れた頬に触れる。

「こんな場所で、決められた人生で、きっとケイちゃんにとってはつまんねぇことだらけだ」
「…」
「きっと今家に帰っても、みんなに疎まれて、笑い者にされるだけだ。違うか?」
「そ、れは…そうかもしれないけど」
「じゃあケイちゃん。俺さまを愛しなさい」
「…は!?」
「ケイちゃんが俺さまを愛してくれれば、ここにいても息苦しくなくなるって」
「…すごい自信ね…」
「そりゃそうでしょーが!この知性と美貌を兼ね備えたゼロスさまを愛してしまえば、もうケイちゃんもメロメロ!」

でひゃひゃひゃひゃ!とゼロスは下品に笑った。ケイは呆れてため息をつく。

「…愛せる自信、ないわ」
「ひっでぇなあ。ほんと、そんなこと言うのテセアラ中どこ探してもケイちゃんくらいなもんよ?」
「だって私のファーストキス奪っちゃうような人だもの」
「…まじで?」
「嘘ついてどうするの」
「…じゃあもう結婚するしかねぇな」
「どうしてそうなるのよ!」
「まーまー」

ゼロスは楽しそうにケイを抱きしめなおす。

「っ、て、いうか!いい加減離して!」
「んー?さっきは何も言わなかっただろ〜?」
「あ、あれは!その場の雰囲気っていうか…」
「じゃあこれも雰囲気ってことで」
「もう!違います!」

声を上げるケイを見るのなんて初めてのことで、ゼロスはそれさえ嬉しくなった。

「ケイちゃんってさ、」
「…な、なによ…」
「怒るとそんな顔するんだな」
「ば、バカにしてる!?」
「違うって。こんなに美人だから、きっと笑ったらもっと美人なんだろうなって思っただけ」
「!」
「あら、照れちゃって!かーわいーなあ〜」
「て、照れてなんてない!」
「ん〜ほんとかな〜?だって顔、真っ赤だぜ」
「ぅぅ…」

恥ずかしさのあまりか、ケイはまるで熟れたりんごのように真っ赤に染め上げたその顔をゼロスの胸に押し付けた。そんな仕草さえ愛らしいと思うゼロスは、自分のこの気持ちに、もう気付いている。

「…俺さまはよ、もっと色んなケイちゃんが見たい」
「…」
「泣いたり、笑ったり、怒ったり、拗ねたり、そういうケイちゃんをもっと見てみたいし、知りたいと思ったわけ」
「…どうして、急にそう思ったの」

ゼロスの胸に顔を埋めたまま、素っ気無くケイは言ったつもりだろうが、今までのような冷たさも、さっきのような怒りも含まない、妙に落ち着いた雰囲気がその言葉に漂っていた。

ゼロスはケイの言葉のニュアンスを汲み取ると、ケイに見えないようにふっと顔をほころばせ、彼女の細い髪をそっと梳いた。

柔らかな髪がゼロスの指に絡みつく。ケイは拒絶しなかった。

「そりゃあれだな、俺さまケイちゃんに惚れたからだな」
「!!!」

ゼロスの言葉に、ケイは弾かれたように顔を上げる。大きく目を見開いて驚きを隠せないようだ。

ゼロスはケイの髪を一束掬い上げ、その毛先に唇を落とすと、髪を辿ってゆっくりとケイの顔に近づいていく。

「ゼ、ロス」

少しケイの体が強張る。
しかしやはり、拒絶はなかった。

「…」
「…」

視線が絡まると、ケイは覚悟したようにぎゅっと目を閉じる。ほんの少し震えて、まるで小さな子供のように怯えを見せるケイ。なのにこんなにも色気を感じてしまうのはどうしてだろう、と、ケイの顔を見つめながらゼロスはぼんやりと思考を巡らせた。そしてつい先程ケイに言った言葉を思い出す。

あぁそうか、俺、ケイちゃんのことが好きなんだ。

まさか自分が本当に人を愛する日が来てしまうなんて。刹那、ゼロスは感じたが、それでもその事実が一番自分の心の中にすとんと納まってしまうのだから、仕方がない。

きっともしかすると、初めて会ったあの日から、すでに恋してしまっていたのかもしれない。今となっては、きっかけは闇の中に消え去った真実だが、今紛れもなくゼロスはケイが好きだった。

間違いない、これは、恋だ。

ゼロスはまず、ケイの額に唇を落とした。少しだけケイの肩がビクッと揺れる。ゼロスはケイの額に優しいキスを何度か送ると、ゆっくりと唇を瞼に落とした。

次第にケイの体から力が抜けていき、ゼロスの唇がケイの頬に触れると、そっとケイは目を開けた。

「…」
「…」

視線がぶつかると、ゼロスは変わらず優しいキスを、ケイの唇に送る。ケイはそっと目を閉じて、ゼロスを受け入れた。

どのくらいそうしていたかは分からない。ただ、ひどく優しく穏やかな時間がそこに存在していたのは確かだった。ゼロスが唇を離すと、ケイは一瞬ゼロスを見て、恥ずかしそうに俯いた。

「…ケイ」

ゼロスが呼べば、ケイは素直に赤い顔を上げて、上目遣いでゼロスを見た。

その瞬間、張り詰めていたゼロスの理性はそっと崩れ落ちた。華奢なケイの腰を抱き寄せると、そのままケイをベッドに組み敷いた。

「、ゼロス、」

ケイが少し怯えた声を上げる。ゼロスの手はすでにケイのドレスのスカートを捲し上げていた。

「嫌なら、本気で抵抗してくれ」
「…」
「俺はもうケイにおちたから、抵抗されなかったら最後までやる。抵抗されればもちろんやめる」
「…」

ケイは抵抗こそしないものの、少し怯えた目をしたままゼロスを見つめていた。ケイの目を見て、ゼロスの崩れ落ちた理性が少し元に戻る。

「…嫌か?」

優しく聞けばケイは小さく首を横に振った。それは肯定を意味する動作。しかしその後、小さくケイは言った。

「でも、こわい…」

視線を逸らしたケイの頬に、ゼロスは再び優しいキスを送った。

「優しくする」
「ん…」

ゼロスがケイのドレスに手をかけ、ケイの下着が露になる―――




―――そのときだった。



「失礼致しますゼロスさま、教皇さまから城へ来るようにと通達が」

ノックの音の後、扉の向こうでセバスチャンの声が聞こえた。部屋には入って来ないのが唯一の救いだ。

「…チッ、いいところで…」

ゼロスは不機嫌そうにケイから離れると、今から行く、とセバスチャンに声をかける。

ゆっくりとケイを起こしてやると、ドレスがはだけて、困ったように、恥ずかしそうに俯くケイを名残惜しそうに見つめた。はだけたドレスを整えてやると、ケイが小さな声でありがと、と呟いた。

「じゃあまあ教皇サマがお呼びなんで、俺さまちょっくら行ってくるわ」

続きはまた後でな、と続けてケイの耳元で囁くと、ケイは耳まで赤く染めて睨むようにゼロス見る。

「そんな顔しても可愛いだけだぜ、ケイちゃん」
「かわいくないもの…」
「自分の可愛さに気付いてないってことほど罪なもんはないぜ〜?」

僅かに乱れたケイの髪を梳いてやると、ゼロスは立ち上がり部屋を出て行こうとする。ゼロスがドアノブに手をかけた瞬間、ケイがゼロスを呼び止めた。

「―――ゼロス」
「ん?」
「ゼロスがほんとのゼロスでいてくれるなら、私、ゼロスのこと、好きだよ」

ゼロスが目を丸くしてケイを見ると、ケイは照れながらはにかんで、いってらっしゃいとゼロスに告げた。それがあまりに嬉しくて、それがあまりに幸せで、ゼロスもはにかみながらいってきますと告げた。

以来、ケイが少しずつ明るくなり、ほんとのゼロスとほんとのケイの関係が築き上げられていったそうな。



うそ、ほんと
(テセアラとシルヴァラント統合後、すぐに二人が結婚したのは、また別のお話)

2011.08.04

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