本来ならきっと、

「俺の可愛い彼女のメイド姿なんて他の男に見せてたまるか!」

となるんだろうが、俺はそうじゃない。むしろ見事にその逆である。他の男に見られてもいっそ構わないから、ぜひともメイド姿を見せていただきたい。

「…なーんでメイドの格好してないわけ?」
「したくなかったから」

今日は学園祭。学校中が熱くなる、宴の日。

俺のクラスは屋台で焼きそばを作ることになったんだが、面倒だから俺はサボり。ま、ロイドくんが仕切ってくれてるから、なんとかなってるだろ、多分。

そして俺の可愛い彼女、ケイがいるクラスは、なんとメイド&執事喫茶だそうで。しかもケイのクラスの女子のクオリティの高さは学園一だと言っても過言ではない。ケイはもちろん、爆乳美人しいなに、天然癒し系コレットちゃん、強気で正統派なショコラちゃん。それに担任リフィル先生という、超強力なラスボス付きだ。

もちろん、可愛いケイのメイド姿なんて他の男に見せたくない。そういう気持ちは、確かにあった。でも、今はそんなこと思うどころか、むしろ着てくれと切に願う。これが複雑な男心ってもんだ。

「いいじゃねーか、絶対可愛いって。着ろよケイ」
「なにさ、他の男に見せるの反対って言ったのはゼロスじゃん」

そう言い合いながら、現在二人で屋上でサボっている。焼きそばなんて作りたくない俺と、メイドの格好なんてしたくないケイ。この時点ですでに学園祭に参加する意味はない。

「最初はな。まさか本気で着ないと思わなかったのよ、俺さまも」
「あたしだって最初から着たくないって言ってたでしょ。それにゼロスも反対だったから、じゃあもういいやってなったわけ」
「学園祭不参加とか珍しいじゃねぇの、昔から祭りとか騒ぐの好きなのに」
「メイドが嫌だったんだもん、仕方ないでしょ。見て回りたいけど、うろうろしててもし誰かに見つかったら、強制的にメイドやらされるの目に見えてるし」
「ま、ケイは可愛いからな。その方が売り上げも上がるし、ってことなんじゃねぇの」
「褒めたって何も出ないよ。それに、別にあたしじゃなくてもいいじゃん。しいなもコレットもいるし、ショコラだって可愛いし。それにリフィル先生もいるんだよ?」

そりゃあんだけツワモノ揃いなら、別にケイがいなくたってそこそこがっつり稼げるんだろうけど。でもケイは、モテる。スタイルよくてサバサバしてるのに上品さがあって、その上顔は綺麗じゃなくて可愛いんだから、ギャップとかそういうのも強みだ。

だからこそケイ目当てで来る男も少なくなかったろうに、これじゃそれも狙えない。確実に予定よりも売り上げが下がってるに違いないだろうな、と気合入りまくってたリフィル先生にちょっと同情する。

「それよりゼロスこそどうなのよ」
「なにが?」
「ゼロス目当てのお客さんも多かったんじゃないの?焼きそば作るゼロスなんてファンからしたら鼻血もんだよ」
「まぁそうだろうけど、俺さま煙臭くなるの嫌だし?」
「そうだね、ゼロスはそんなキャラじゃないよね」

そう言ってケイは屋上にゴロンと寝転がった。ケイは空を仰ぎ見るが、俺は風に靡くケイの短いスカートにしか目が行かない。まぁ俺さまも健全な男子だし、そこは、な。

「あたしは焼きそばとかそういうのがやりたかったのにー」
「それなら俺さま執事やるわ」
「あ、いいかも。ゼロス絶対似合うよ」
「ケイは焼きそば作りながら客寄せしまくりそうだな」

去年、ケイは屋台でたこ焼きをやって大盛況だった。ケイの考案したたこ焼きが旨かったっていうのもあるが、ケイの客寄せの仕方も上手かったし、宣伝の仕方も効果的だった。

あえて当日の宣伝係にイケメンだったり可愛い子だったりを配置させたケイの作戦がうまくいったらしい。低コストで大量に稼いだケイは、すっかりクラスの英雄になってたっけな。そんな懐かしい出来事を思い出す。

「ゼロスは去年タピオカしたんだよね」
「そーそー。煙浴びなくていいし、用意されたタピオカとジュース入れて渡すだけだったし」
「楽だったから参加したの?」
「そりゃそうでしょーよ。それに客だって勝手に寄ってきたし」
「ゼロス目当ての女の子ばっかりでしょ?ゼロスが色目使ってんの端から見てて、笑うの必死に堪えてたもん、あたし」

ケイが笑う。この俺と付き合ってこんなに嫉妬しない女はケイが初めてだ。

「あーあ、ゼロスとクラス逆だったらよかったのになー」
「そしたらどっちも売り上げ下がらずに済んだのにな」
「ほんとだよ」

ケイは相変わらずつまらなさそうに空を見つめている。俺はふと思い立って、ケイに尋ねた。

「なぁケイ、メイドの衣装って持って来てんのか?」
「え?うん、一応」
「じゃあそれ着て焼きそば作れよ」
「は!?何言ってんの!?」
「焼きそば作るついでに自分とこの宣伝すりゃいいだろ。俺さまはケイに悪い男が寄ってこないようにちゃーんと見張ってるから」
「あんたアホでしょ。着るの嫌だって言ったじゃない」
「でもつまんないのはもっと嫌だろ」
「そりゃまぁ…そうだけどさ。でも、クラス違うし」
「ロイドたちとは仲良いじゃねーの。ケイが参加するってんなら大歓迎だと思うぜ〜?」
「…そんなことしたらリフィル先生、怒るだろうなー」

ケイが苦笑する。怒ると鬼より怖いリフィル先生だ、そりゃ裏切り行為はしたくないだろうな。

「じゃ、もうふけようぜ」
「へ?」

ポカンと俺を見るケイ。
あ、今ちょっとパンツ見えた。

「俺さまんちで着ろよ、メイド」
「なにそれ、絶対やだよ恥ずかしい」
「他の男に見せるのは反対っつったけど、それが俺さまだけなら話は別だって」

寝転ぶケイを無理矢理起こす。

「ちょ、ちょっと!」
「そんで昼飯にケイが焼きそば作ればこれで完璧」
「勝手に話進めないでよ!」
「ま、学園祭なら来年もあるんだし、今年はふたりで学園祭しようぜ。お互い嫌なこと参加しても楽しくねぇし」

言いくるめれば、ケイは諦めたように溜め息をついて笑った。

「それって結局あたしのメイドが見たいの?あたしの焼きそばが食べたいの?あたしとふたりでいたいの?」
「全部」
「もう、しょーがないなー」

結局ケイは俺に甘いし、俺はケイに甘い。俺のワガママなら最終的には許してくれるケイ。俺にだけ妙に甘いのは、彼氏の特権だな、と自分を称える。

俺たちはそそくさと荷物をまとめると、二人乗りで学校を抜け出した。途中でロイドに見つかったけど、それもまぁ良い思い出になるだろ。学園祭が終わって学校にきたら、お互いこっ酷く叱られるんだろうなぁ、と憂鬱な未来を確信しながら、今が楽しければいいか、と開き直った。

帰ったらケイの可愛いメイド姿が拝めるわけだし、まぁこういう学園祭もなしではないな。俺はケイを自転車の後ろに乗せて、俺の家に向かってペダルをこいだ。



焼きそばとメイド
(ほら、メイド姿で焼きそば作ってあげたよ)
(…うん、思ってたよりアンバランス)



元々幼なじみで、付き合い始めたのは最近、とかいう勝手な脳内設定作品。

2011.11.19

back
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -